34.来訪者
こうなってしまってはもう乱戦もいいところであった。いたるところから魔法が飛び交い剣がこすれあう音が響く。そんな中俺は同じように火をまとった剣を巧みに操る少年と交戦していた。
「やっぱり君のそのカグツチとやらはよくわからないな。何なんだこの熱量は」
「悪いけど俺も全然制御できてなくてね。暑いのはお互い様さ」
「ふむ、やはりそうか。どうやら俺の仮説はあっていたらしいな。おそらく君はその炎に触れたら君自身もただじゃ済まないんじゃないか?その証拠にさっきから近距離戦に持ち込もうとはしないしそういう事ならば君はこういうのに弱いだろう?」
ダンッと強い踏み込みの音を置き去りにして急接近してくる弘人。
だがこっちにとってはそれはチャンスでもあった。別に俺は負傷してもいいし何なら道連れにでも出来たら御の字だ。俺の身と一緒に焼き切ってしまえばいい。
「リーダーならそういうことはしないほうがいいと思うぞ!炎舞壱ノ太刀・・・」
「お前こそこれが団体戦ってことを忘れていないか?」
刹那、上空から氷の塊が俺めがけて急降下してくる。それはリラのそっれには遠く及ばない大きさだが俺を踏み潰すには十分の大きさだ。ただの氷の塊なら炎をふりまけば簡単に消滅させられると刀の切っ先を上空に向け、一瞬彼から意識がそれてしまった。
自分の犯してしまった失態に気が付き、上に向けた目線を戻したとき目の前にはもう彼が迫ってきていた。
左手が緑色に発色しておりその拳が風魔法を帯びているのは明らかだ。
「くそっ!!しまった!!」
「吹き飛べ!!!!」
その拳は見事俺の腹部に命中し吹き飛んだ俺は爆音をまき散らしながら建物の外壁にめり込んだ。
「ちょっユーキ!?大丈夫!?」
ちょうどその近くで戦っていたエルサに安否を確認されるが腹部に走る激痛のせいで中々言葉が紡げない。
「エルサは・・・・・自分の事に・・・集中して・・」」
「でもユーキそれってもう転送されてもおかしくないダメージ量よ!!っと、ふっ!」
「よそ見しているよ余裕あるノ?大将サン」
「あなたくらいなら片手間で勝てるわよ!!」
かすむ視界で状況を把握しようとしたがどうやらエルサもエルサで中々手こずっているようだ。
パッと見た感じお互いもう何人か転送されてしまったみたいだし遠距離攻撃組はその身を隠して虎視眈々と標的を狙っているから今何人が生存しているかはわからないがまあ大体同じくらいの人数が残っているだろう。ただエルサがやられちまったら元も子もない。
腹部の激痛を我慢し、カグツチを地面に突き刺し杖替わりにして何とか立ち上がる。念のために転送されるダメージ量を限界まで高くしていたからまだ戦場に残れてはいるが設定によってはおそらくもう負けていただろう。弘人との戦いに集中しすぎて完全に視界が狭くなっていたのは否めない。だがおかげで冷静になれた。
立ち上がった瞬間右上のほうからたくさんの光の矢が俺らのほうめがけて飛んでくるのが見えた。とどめを刺しに来たってわけか。遠くに見える弘人の顔が笑っているように見える。勝負あったってか・・・?
「まだ、まだ俺は負けねえよ!!!!」
カグツチの炎を最大まで放出して俺に向かってくる魔法も近くの建物も全てを等しく焼き尽くす。エルサだけは近くにいないことを確認してもう力の限り爆炎をふりまきつづける。手の熱さなんてもうどうでもいい。噴き出す炎は生き物のように空を駆けあたりを赤色に染めていく。速さ自体はそんなに早くないからみんなには簡単に避けられるが別に今は当たろうが当たらまいがどっちでもいい。俺自身かなりのダメージを負ってしまっているし一旦状況を整理するためにも混沌としているこの場の注意をひければそれでよかった。
その炎は今交戦しているみんなの注意を惹き、集中をそがれた選手たちは各々リーダーのところに戻っていく。こうして俺の思惑どおりまたもやある程度の距離を保ってお互いのチームが固まって向かい合う形になった。
「一回仕切りなおすって言う考えは悪くないですが・・・あまりに雑すぎませんか?危うく当たるところだったのですが」
体にいくつか切り傷を受けているレイがジト目で俺に棘のある言葉を浴びせる。
こちらとしては正論過ぎてぐうの音も出ない。
「こっちの残りは6人か・・・。あれ?カリバンは?」
「さきほど相手選手二人がかりで攻められてそのまま三人まとめて飛ばされておったぞ。なんか言いかけていたが聴き取れなかった」
「あんだけ豪語しといてやられるって情けないわね・・・。でも、向こうはなんだかんだ言って残り五人みたいよ。さっきのユーキので一人飛ばされたみたいだし」
「やはり君たちは強いね。ほかの学園とは頭一つ抜き出ているよ。今こっちのほうが人数が少ないみたいだし見方によっては俺らが押されているように見えるかもな。でも本番はここからだ!!!」
弘人が燃え盛る切っ先を俺らのほうに向けそれを合図に全員がまた戦闘態勢をとる。この戦いに決着をつけるために第二ラウンドを始めようと全員が構えた時だった。
パリッ
ちょうどおれたちと弘人たちの間らへんで空間がゆがんだ気がした。
この感覚、この胸騒ぎはどこかで俺は体感したことがある。胸を覆う不安感も背中を伝う冷や汗もだ。
…そうだ、思い出した。
この感覚は
その答えはすぐに目の前に現れた。
わずかに歪んでいた空間が突如としてくしゃくしゃになり剥がれ、その歪みはやがてワープゲートとなった。だがこれは俺が今まで見たことのあるものとは大きさが比じゃないくらい巨大だ。
魔物だ。魔物が攻めて来たのだ。
だがそんな光景を目の当たりにしてもどこか安心している俺たちがいた。というのも今俺らがやっているのは王国内でもかなり有名で大きな大会だし、王国軍の人がすぐに駆けつけてくれるという確固たる自信があったからだ。むしろこんなところにもワープゲートが現れるんだと感心までしていた。
そんな俺らが見つめる先の巨大なワープゲートからだいたいバレーボールくらいの大きさの球体がコロンと転がって来た。それを見ておそらく俺以外の人たちは期待はずれだとか、弱そうと思ったに違いない。
俺を除けば。
その透明な球体の中は液体で満たされておりその中にいるなにかの目と俺の目が合う。
瞬間、全身に鳥肌が立ち汗が吹き出る。
膝はもう立っていられないほど震え、髪の毛が逆立つ。
「なんだこの丸いのは。ユーキ殿よりも魔力が低いではないか」
そう言って柊さんが一歩、また一歩と球体へと近づいていく。
「そいつから離れて柊さん!!!!」
「何を…?」
柊さんが振り返ったと同時に魔物の目が赤色に光る。
俺の声に反応した牡丹さんが柊さんを押しのけ魔物のから離れようとするがその牡丹さんの体を突如として現れた鉄筋が貫き突き刺さる。次に瞬きを終えた時には牡丹さんの姿が見えなくなっていた。
「な、なにが起こってるんだ!?」
弘人の声を遮るように、周りの建物がねじれ、分断されて魔物の元へと集まっていきどんどんとその体は大きくなっていく。
それはまるでおれの創造神の欲望の何でもあり版と言えるように、周りの無機物がどんどんと剥がされては吸収されていく。
その風貌は手のような形を模し、大きさはもう見上げなければ見えないほどに成長していた。
「なんで…なんでお前がここで現れるんだよ!?」
俺はこの魔物を知っている。
こいつはゲームの10週目のラスボス、そして数多くの廃人プレイヤーを地獄に突き落としたことで有名なもはや制作社側のミスとしか思えないほどの凶悪設定を搭載した最凶最悪の魔物だ。
俺らCORプレイヤーは皮肉をこめてこいつのことをこう呼んでいた。
『バグハンド』と。




