31.焼け焦げた刀
私立フロイド学園。
この名前を知らないものは多くはないこの国きっての有名私立高等学校である。
何より王国一の勇者が人生の最期に自分のすべての財産をつぎ込み未来ある学生に託したいう逸話があるほど由緒正しき学園で人気度でいったら俺らの学園とあまり変わらないであろう。
ゲームにおいても何回かあった対外試合でこの学園とはほぼ毎回決勝戦で当たり一番手ごわかった印象が強い。何が言いたいって言うと普通にこの学園には負ける可能性があるってことだ。
もちろんほかの学園も一筋縄ではいかない学生が多く、実力に胡坐をかいている場合ではないことは確かである。
「おい成瀬!いつまでプリント見てるんだよ!早くさっきの続きやるぞ!」
「ああごめんごめん今行く!」
授業後の選抜メンバーでの鍛錬中にハーゲン先生が学園あてに送られてきたプリントを俺らのところに持ってくるまで一緒に組み手をしていたAクラスの選抜生徒、カリバンが大声で俺の事を呼ぶ。
この生徒に関しては物語中にも何度か出てきたし、選抜メンバーの中でも波長が合ったため一番仲良くなった生徒だ。やはり物語に名前ありで出てくるだけあって実力は他の生徒よりも頭一つ抜けており、センスや魔力がてんで無い俺の事をこうして面倒を見てくれている。いわゆる兄貴肌ってやつだ。
「随分と長いことプリント眺めてたな。なんか気になる生徒でもいたのか?」
「うん、ちょっとフロイド学園にね」
「フロイド学園か。確かにあそこは有名どこだしな。なんてったってあの勇者フロイドが建てた学園だぜ。この学園の合格を蹴っていくやつもいるくらいの学園だからな。油断はできねえよ」
「そうだよね。まあどの学園が相手でも俺らはやるべきことをやるだけだけど」
「その通りだ!よしっ続きだ続き!ほらかかって来いよ!」
こうして1日、2日と経過しあっという間に新人戦当日になっているのであった。
*****
ー新人戦当日ー
新人戦当日の朝も俺は寮から直接学園へと向かった。
新人戦の会場はここ、アドミラ学園の摸擬戦場だからだ。
摸擬戦場に向かう最中も学園内はこの新人戦を目当てにきた観客でごった返しており中々会場へと向かうことができなかった。
なんとか待ち合わせ場所である控室につけたのは集合時間1分前であった。
今回の新人戦で使うシステムは俺らが普段使っているような一定ダメージを超えると強制的にワープさせられるものであり、唯一の違いはその飛ばされるダメージの限界値をある程度まで自分でいじれるくらいだ。詳しく言うとかすり傷程度から腕一本吹き飛んでも転移させられないくらいまでのダメージ操作ができる。まあそこまでやる奴はいないし、転移させられたときの回復魔法でどこまで直してくれるのかはわからないが。
それにこれは試合中にもいじることができるから『アリグナク』とは比較的相性がいいといえる。
制限時間は各試合20分。いつもの摸擬戦よりも少し長いくらいだ。使わないとは思うが、『氷帝の憂い』の持続時間がその時間のちょうど半分なのでそれがどう転ぶかはわからない。
また、舞台も公平さを保つために俺らが普段使っている立体映像とは違い、新人戦専用の舞台が用意されるらしい。各チームにはそのマップが配られ戦術を建てることができるという感じだ。広さはいつもと変わらないがどうやら中のカメラのような魔法具の数がいつもより多いとのことだ。なんでも空を飛ぶものまであるとか。
それに授業の時には一切使わなかった観客席や控室がすべて解放され、観客席は一般入場も可能に、そして各学園一つずつ控室が用意されそこから転送され戻ってくるという感じらしい。
そして今、俺らは普段使用している控室に案内され配布されたマップや組み合わせ表を見ながら10人で作戦を練っているところだ。
「一回戦の相手はオニクス学園ね。舞台は・・・ビル街よ。このマップの通りだからみんな把握しといて。まあ初戦は作戦通りいくわよ」
リーダーであるエルサが配布資料を見ながら円陣の中央で一通り今日の作戦を述べる。
「いいんじゃねえか?入りが大事っていうしな!まあ失敗したら失敗しただ!」
カリバンがいつもの調子で大声で話す。
「サポートは任せておけ。私と牡丹がちゃんとフォローしてやるからの!」
「大丈夫・・・このメンバーとならうまくいく・・・」
柊さん、牡丹さん、リラが思いのたけをぽつぽつとつぶやく。
「兄さんは大事なところでやらかしますからね。バックアップは全力でします」
レイに軽くディスられながらもその目は大丈夫と言っているように見えた。
「うん、俺らは俺らのやるべきことをやるだけだ!絶対勝つぞ!!!」
円陣の中でこんなあほみたいに大声で叫ぶは俺こと成瀬夕貴。
皆で大声で掛け声を出して士気を高める。古典的だけどこれが中々に効く。
この初戦はみんなが俺のために用意してくれた舞台だ。それにこの作戦が決まれば後々の戦いにも影響を与えられる。
先ほど配られた資料を見るとフロイド学園と当たるのはどうやら決勝戦のようだ。それまで負けるわけにはいかない。
「待ってろよ弘人。俺はぜってえ負けねえからな」
そういって拳を強く握りしめた。
『すべての学園が用意できたためこれより開会式を行います。参加校の皆さんは会場へと集まりください』
控室内にアナウンスが響き渡る。
「よし、みんな準備はいい!?いくわよ!」
こうしてエルサを先頭にして会場入り口へと向かうのであった。
中々に長い開会式を終え、メンバー一同は控室へと戻った。
俺らの試合は一番最初、いうなれば開幕試合ってやつだ。
全体を通して一日で計7試合をこなさなくてはならないため開会式が終わってすぐに第一試合が始まるためすぐに準備に取り掛かった。
『あと3分で第一試合、アドミラ学園対オニクス学園を始めます。開始時刻になったと同時に出場校の強制転移を行いますのでこの2校は準備をお願いします』
「もうそんな時間なのね。じゃあみんな手を出して」
エルサの声にこたえ。またさっきのように円陣になり各々が円の中央に向かって腕輪を付けた方の腕を前に出す。
「ふふ、やっぱり団体戦っていいわね」
「そうだな!勝ってこの控室に戻ってくるとしよう!」
「兄さん、・・・頼みましたよ」
「おう、任せとけ!」
『開始時刻になりました。強制転移を行います』
皆の体が徐々に薄くなり、やがて控室には誰もいなくなる。
こうして第一試合目、俺の人生で初めての公式戦の戦いの火ぶたが切って降ろされた。
*****
一瞬目の前が真っ暗になったと思えば次の視界はビル街であった。
だが今まで見たことの無い、初めての立地だ。
「夕貴殿、準備はいいか?ここから北約700mのところに相手校は転移されたようだ。散らばる前に早く向かうぞ」
「え?もう魔力探知がおわったの?」
「当たり前であろう私を誰だと思っておるのだ。おい牡丹!早く夕貴殿を担げ!!」
「何故私がお前なんぞをおんぶせなければならないのだ・・・。お前はぼさっとするな早くしろ!!!」
「あ、ああ!よろしく頼むよ」
「まさか初級の風魔法すら使えないとは・・・つくづくよくわからないやつだな」
「じゃあみんな後はよろしく!!」
こうして俺、牡丹さん、柊さんの三人で敵の転移先へと向かうのであった。
「ついたぞ。ここが相手校の転移先から大体100mのところだ。ここでよいのだろう?む、流石にここまで近づけば向こうも気づくようだな。何人か魔法の準備をしているぞ。」
「相手からすれば敵陣にのこのこやってきた三人組に移っているでしょうね。なんせ約一名魔力がとんでもなく低い阿呆がこちらにはいますし」
彼らが使う風魔法は魔力の流れを読むことができる。魔力探知もその一種だし、今も誰がどこで魔法の準備をしているのかわかるらしい。
「じゃあ防御のほうは頼んだよ。・・・いってきます!」
「うむ、任された!盛大にやってこい!」
「お前の唯一の目立てる場だ。心するんだな」
今いるビルの屋上から俺一人飛び降りる。
空中に飛びだすも足場は後ろの二人が結界で作ってくれるし、遠距離魔法が来ても防御結界で防いでくれる。そのまま上へ上へと階段状になっている結界を登っていく。
「じゃあ行こうか。こい!神話の拒絶!!」
掛け声とともに俺を灼熱の炎が包む。右手には真っ赤に燃え盛る一太刀の刀。刀を握ると同時に熱風が吹き荒れこのあたりだけ温度が急上昇する。さっきまで俺めがけてたくさんの遠距離魔法が飛んできていたがそれがぴたりとやむ。
さあ、みんな見てくれ俺を。目に焼き付けろこの炎を。これが火の最上級魔法だ。
「炎舞伍ノ太刀 八咫烏」
その真っ赤に燃え盛る刀を真上に放り投げる。
宙を舞う刀は俺の声にこたえるようにしてさらに炎の激しさを増し、やがて巨大な鳥のような炎の塊となる。
突如として訪れる静寂。それはここにいる誰もが息をのみ、その美しい炎に目を奪われたからに他ならない。俺だってデメリットがなければこの魔法を使い続けるだろうがそうはいかない。
「いけ、八咫烏。目の前のすべてを焼き払え」
『キキュアアアアー!』
真っ赤に燃え盛る巨大な鳥は敵がいるであろう前方に向かって容赦なく急降下を始める。
その炎は地面をえぐり、触れたものすべてを燃やし尽くしながら駆け巡る。
もはやリーダーとか関係ない。目の前に広がるのはただの火の海だ。
一通り暴れ終わった後、その獰猛な炎はこつぜん消え去り空中から燃え尽きたぼろぼろに焼け焦げた刀が落ちてくる。
いつもの燃え盛るような威厳はもう全くない。
『お、オニクス学園のリーダーが撃破されました・・・・。よって第一試合の勝者はアドミラ学園です・・・』
あまりにも早く、無慈悲すぎた俺らの初勝利に歓声が届くことはなかった。




