27.ひさしぶり
あれからどうやって帰ったのか覚えていない。
というかテストをどこまでちゃんと受けてたのかすらわからない。
考えてもみてほしい。約4時間ほど訳も分からないテストを受け続け、周りからは簡単だったよねーとかあれ出来ないやつはやばいだの聞こえてくるこの状況は拷問以外の何物でもない。
ただなんやかんやちゃんとテストは全部受け終わり自分の部屋までは帰ってこれたみたいだ。
意識がちゃんとはっきりしたのは自分のベッドの前だった。
「はぁーーーー。やっばいなこれは、想像以上だ」
制服のまま目の前にあるベッドにダイブする。服のしわとかもう知ったもんか。
・・・やばいな。これは非常にヤバイ。
誇張表現無しでほんとにテストが分からなかった。
感覚としては日本人に中国語でテストを受けさせられてる感じだ。出来るわけがない。
この世界に生まれ変わって、前世の記憶を引き継いで無双できると思いきやどうやら真逆のちこぼれになろうとしている。
これじゃあ前世と何ら変わらないじゃないか。いやそれ以下かもな。
「くそ・・・・」
何故かはわからないが頬を涙が伝う。
それは今更になって実感した異世界転生の不安なのか、何もできない俺に対する不甲斐なさなのか、前世を過去の友人を思い出して寂しくなったからなのかはわからないが止めようとしても止めどなく溢れる。
「とまれよこのっ!」
俺以外に誰もいない部屋に俺の焦燥が響くが誰かがいるはずもなく余計に寂しさが増す。
「もうホームシックってか・・・。あーどんだけ母さんやレイの存在が凄かったか身に染みるな」
最初にこの世界で目が覚めた時はもうバタバタだったな。
でもそれが俺の不安を払拭してくれて・・・他人のはずなのにすぐに心を許しちゃって・・・
どれだけ俺が彼女らに甘えていたか身に染みる。
もうこのまま寝ちまおうかと目を閉じようとするが空気を読まず俺の腹が鳴る
そういえば朝飯食べてないし昼飯は購買で適当にパン買って食っただけだったな。
あまりにテストの出来が酷過ぎて食べた記憶あんまりないけど。
今日死闘を繰り広げた目覚まし時計を見ると今は16:45あたりを示していた。
「食堂が開くのは17:30からだっけか・・・。ひと眠りでもするか」
まあ俺の経験則的にはこのタイミングで寝ると結局食堂の時間には起きれず夜は練れないというオチになるだろうが泣きつかれたのか眠ろうと決意してから意識を手放すまでは随分と早かった。
そして俺は目覚ましをセットするのを忘れたのであった。
*****
「ふぁっ今何時だ?」
目が覚め枕元に置いてある時計をのぞき込む。
「22:30って・・・もう食堂しまってるなこれ」
案の定である。ただもう心身ともに疲れているし絶対に食堂に行きたかったわけでもないのでそんなに落胆はしない。窓を見るともう夜も更け、真っ暗な闇が広がっている。
「腹は減ったままだし・・・たしかこの学園内に23:00くらいまでやってる購買あったよな?」
ベッドから体を気だるく動かしいろんな書類が散らばっている机へと向かう。
入学式に配られた書類の一つに学園内地図があったはずだ。
「よしよし、やってるやってる。ちょっとここからは遠いけどまあいいか」
そういって今の服装のままもう春とはいえ夜は少し冷えるので上に織物だけして自室をあとにした。
この学園の敷地を大雑把に二つに分けると『私服でもいいゾーン』と『制服でないといけないゾーン』に分けられる。校舎や摸擬戦場があるのがその制服でないといけないところで今向かってる購買や学生寮、昼間なら開いてるスーパーマーケットみたいなのがあるほうが私服でもいいゾーンだ。だから寮から校舎までは少し距離がある。俺が遅刻した原因の一つだ。
本来夜21:00を過ぎると校舎側は締め出され中には入れなくなるはずだが未だなお校舎には電気がついていた。その敷地の境目の門は締まっているが。
多分今日の分のテストの採点でもしているのだろう。そんな闇夜にそびえたつ校舎を背におれは購買へと向かった。
購買で適当に食べたいものを選び会計を済ませる。
この学園、王国立なだけあって申請すれば月50000円まで学校側から支給される。
俺みたいな両親居ないやつは問答無用でこの申請に通るから金に心配することはなさそうだ。
レジ袋を片手にひっさげそのまま自分の部屋に帰るのはなんだか嫌だったのでそこら辺をぶらぶらすることにする。この学園外に出なければ24:00までは敷地内をぶらぶらしていいらしい。配られたプリントにはそう書いてあった。校則に文句を言っていたが。
ゆく当てもなくぶらぶらしていると大きな公園みたいなとこにたどり着いた。
そこにはもう止まっている噴水と、それを囲うようにいくつかのベンチがグルーっと建てられていた。
俺はこの場所を知っている。何回かここで起こるイベントもあったし何より彼女を作ったときの最初のデートの待ち合わせ場所がここだから印象にも残っている。
携帯電話を覗くと今は23:00過ぎくらい。よし、今日はここで晩御飯でも食べよう。
今俺から見て一番近いベンチへと向かい腰を下ろす。
俺以外にそんな夜にわざわざここまで来てベンチに座るような奴はいないらしく、公園内は俺だけのようだ。
・・・・・いや、違う。ちょうど噴水を挟んで向かい側に人影が見える。
良くは見えないがおそらく女子学生であろう。一人で座りぼーっと空を眺めている。
まあ俺には関係ないかとレジ袋を開け夜ご飯を食べ始める。
その間も何となくその少女を眺めていたところ、向こうもこっちに気づいたらしくスッと立ち上がる。
「やべっちょっと見つめすぎたかな・・・」
と思うがその少女はずんずんとこっちに近づいてきて俺もようやくその少女が誰なのか分かった。
「・・・・ひさしぶり、ユーキ」
「久しぶりだね、リラ。推薦入試以来か?」
その銀色の髪を靡かせながら目の前の少女、リラ・ククルカンは俺の顔を見てその無表情な顔を少しだけほころばせた。
*****
「どうしたんだよこんな遅くに。寒くないか?今は春だけど夜はまだ肌寒いだろ」
「それはそっちも同じ・・・。何してたの?この時間に夜ご飯・・・?」
「ちょっと昼寝したら寝過ごしちゃって気づいたら食堂締まっててさ。そこの購買で買ってここで食ってたんだ。リラはなんでこんなところに?」
「・・・・・ちょっと風に当たりたくて」
「そうか。まあそういう日もあるよな。俺も今日昼間に嫌なことがあってさっきまでいじけてたんだ」
「昼間・・・?Cクラスって今日テスト・・・だよね?」
「ああ、そのテストが全然できなかったんだ」
「えっ、あのテストを・・・?問題は違うかもだけど相当簡単だったはず・・・。もしかしてユーキってバカ?」
「ストレートにものを言ってくれるなよ・・・。いやまあ馬鹿なんだけどさ。ってことはリラは今日の摸擬戦でなんかあったのか?」
「・・・・・・・」
「あ、いや言いたくないなら言わなくていいよ。聞いてほしいなら聞くけど」
「・・・・・私とユーキとエルサは推薦入学で入った。ということは他の人よりも秀でていないといけない・・・なのに・・・・」
「今日の摸擬戦でうまくいかなかった、もしくは自分よりもすごい人がゴロゴロいて心が折れた、とか?」
「っ!」
「いやまあリラがなんで、誰にどうやって推薦されたか俺は知らないけどさ、少なくとも何か光るものがあってその人はリラを選んだんだよね。例えばエルサは昔から独自の魔法でめちゃ強いって評判だっただろうけどちょっと精神的に弱いところがあるし、俺は強力な魔法が使えるけど魔力が極端に低いし勉強もてんでできない。俺だって選ばれたことに不安とか感じてるよ。でもこっからみんなに示せればいいと思ってる。俺はこうだから選ばれたんだ!って」
「そんなの!・・・ユーキが凄いから・・・。私には何も・・・・ない」
どうする。おれは今目の前に立ってる少女の弱さも、強みも、今後の未来もある程度は知っている。
ただ俺がここで彼女に手を差し伸べていいのか?本来いないはずの俺が。
・・・ただ目の前でこんな弱ってる少女放っておくなんてことはできない。
もう主人公いない時点でシナリオがどうとか考えるはやめだ。
俺は俺が正しいと思ったことをやるだけだ。
「そんなことないよ。今リラは腕輪を持ってる?多分今日配られたやつ」
リラはコクっとうなずきポケットから腕輪を取り出す。
「いま俺に魔力を計って見せてよ。あ、ちなみに俺は50だったよ。クラスでダントツの最下位さ」
「・・・・・」
無言で少しいやいやながらも右手につけ真ん中のボタンを押す
そこには5000と、本来大人でも到達しえないありえない数字がたたき出される。
「これがリラの強みだよ。こっからは俺の勝手な憶測だけど・・・多分俺らは違った方向性で推薦生に認められてるはずだ。エルサは完成した強さとして。俺と柊さん、ああ俺が選ばれる前に候補に挙がってた人ね、は希少性として。そしてリラ、君は将来性を買われてるはずだ。推薦権を持つ3人はこの三つをもとに一人づつ選んでる・・・はずだ」
「なんでっ・・・なんでそんなことがいえるの!?ただの学生のあなたが!」
「・・・まあある程度上の人と繋がりがあるってのと、後はリラと実際に戦ってそうかなーって思ったからかな。俺と戦った時は簡単な魔法だけどありえないような威力の魔法が出てきたりしたし、うまく高校で学べれば相当強くなるんじゃないかなーって思ったから。多分卒業するころにはエルサに匹敵するぐらいの実力者になってるんじゃないかな。なんか俺がどの目線からものを言ってるのかわからなくなってきたけど、とりあえずリラは推薦者として選ばれるに値すると俺は思うってことかな。伸びしろしかないよ君は」
「何・・・なの・・・?本当にあなた何者なの・・・!?なんで・・・なんで・・・私の欲しかった言葉を・・・そう簡単に・・・・・・」
そう大声を張り上げた彼女の頬にはさっきの俺と同じように大粒の涙があふれていた。
一歩彼女に近づき震える方に左手を置き右手で彼女の綺麗な銀色の髪をなでる。
その髪は絹のように透き通っておりさらさらと風に流れる
「俺はただ君の友達で、君の味方なだけだよ。泣いたらせっかくのかわいい顔が台無しじゃないか。ほら、寒くなってきた。時間も時間だしもう帰ろうか。これ羽織って」
「・・・いい、大丈夫。私は氷魔法の使い手だから・・・寒いのは慣れてる」
「でも心の冷たさまでは慣れてないだろう?ほらいいから羽織る!」
そういって彼女に俺が来ていた上着をバサッとちょっと乱暴に手渡す。
俺がさっきまで着ていた服にリラが袖を通す。
やっぱりサイズはちょっと大きいみたいで袖が大分余ってしまっているが何故だか似合っている。いわゆる『萌え袖』って奴かこれは。
「んっ!・・・・・・・あったかい・・・」
「だろう?これからはなんかあったら俺が温めてあげるよ」
「ふふっ、・・・・なにそれ?」
「あ!俺リラが笑ってるの初めて見た!!」
こうして少し肌寒い風が吹く中、寮へむかうのだった。




