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18.入学式

フェニクスさんと合流してから俺たち三人は先ほどまでいた闘技場に向かっていた。


「そういえばフェニクスさんとリラさんの戦いはどうなったんだ?」

「むっ私の事はエルサって呼んでよ! 堅苦しいじゃない」

「あ、ああそうか悪い。じゃあ・・・エルサ、どうだったんだ?」

「ユーキは急にいなくなったから知らないと思うけど私とリラは戦ってないの。そもそもリラとは何回か戦ったことあるし、前の2試合でこれ以上は続けられないくらいぼろぼろになっちゃったし」

「え? でもそんなぼろぼろになってたか? 集中してたし気づかなかったなけど」


そんなことを離しながら着いた闘技場は元の原型をほとんどとどめていないほどぼろぼろになっていた


「うわ! とんでもないことになってんじゃん!」

「・・・このようにした張本人が何を言いますか」

レイの鋭い突込みが俺の胸に突き刺さる。

「そーだそーだ! 弁償しろ弁償!」

「いや、こんな風にした原因の半分くらいはあんただろ!!」

「でもリラとの戦いの時点ですでにぼろぼろだったじゃない。ユーキが50%で私とリラが25%ずつってところね!」

「そういう問題じゃねぇ!」


元・闘技場の前で三人がワイワイ騒いでるとリラと学園長がこちらに近づいてきた。


「おや、成瀬君じゃないですか。いったいどこに行ってたんですか?」

「いや、そのなんというか・・・」

「もしかして急にいなくなった原因は君のその特異な魔法に何か関係しているのですか?」


鋭い、鋭すぎる。何だまじでこの人は。


「ふふ、まあいいです。どうせ入学したらまたわかるでしょうし。よし、やっと三人そろったので一応伝えますと三人とも合格です! ようこそアドミラ学園へ。学園長である私、霧島玉露が歓迎します! またこれからについては別途の資料でお伝えします。お疲れさまでした!」


そういって律義に俺らに頭を下げる玉露さん。

終わりの言葉を聞き今まで気張っていた何かが急にほどける感じがした。


そうだ、受かった。受かったのだ。あのゲームで何度も憧れたこの学園に。

実際に言葉にされてようやくその実感がわいてくる。

何度も夢に見たこの学園で、魅力的なキャラたちと学園生活を送るスタートラインに立てたのだ。

視線を2人の少女たちに移すと二人共と目が合う。

二人は若干はにかみながら俺に言葉を投げかけてくれる。


「これからよろしくね、ユーキ!!」

「よろしく。あなたとの学園生活楽しみにしてるね」


こうして俺は物語を紡ぐキャラクターの一人となった。



*****



家に帰ると母さんが泣きながら俺のことを祝ってくれた。

「よかった、本当によかったわ! もしこれで落ちてたらなんて声をかければよかったかわからなかったもの」

「ありがとう母さん。でも、もしレイが受かったらこの家は母さん一人になっちゃうね」

「いいのよ、二人が自分の夢を追いかけてくれればそれで。でもたまには顔を見せて頂戴ね。あなたの本当のお母さんにはなれないけど、いつでも頼っていいからね」


今目の前にいる女性はレイの本当の母であり俺の義母である。でも俺のことを本当の我が子のように今まで育ててくれたしもう感謝の念しかない

俺の本当の両親はもうこの世にいないし、レイのお父さんもすでにこの世にはいないためもし俺とレイがいなくなると本当に一人になってしまう。

それでも背中を押し続けてくれるこの母を、俺が誇ってもいいものだと思う。


そんな母さんが作ってくれたいつもより少し豪華な夕食を食べて部屋に戻ろうとしたとき、レイに呼び止められた。


「兄さん。ちょっといいですか?」

そういわれてレイの部屋の前までついていくと、中に入るように促される。

「大したものじゃないのですが、その、合格祝いというか・・・」


いつもの威勢はどこに行ったのか、もじもじしながら顔を赤くしてうつむきながらこちらに差し出してきたのは白と黒のひもで結われたミサンガだった。


「このミサンガお揃いなんです・・・。その、わたしも近々試験があるので応援してほしいというか・・・」



学園での塩対応が嘘のように甘々の砂糖菓子みたいになっている。何なんだこのかわいすぎる妹は。

思わず本能的に抱きしめたくなるがそれをぐっとこらえる。


レイを、レイを本当に幸せにできるのは俺じゃなくてゲームの主人公だ。

まだレイは奴と会っていないからこんな風になっているだけで学園生活が始まったら俺は邪魔者でしかないだろう。俺の事なんか忘れて主人公といい感じになるに違いない。

だから、俺はレイに心を奪われてはいけない。レイと兄弟以上に深い関係になってはいけない。血はつながっていないのだからいつかは他人にならないといけないのかもしれない。

これ以上シナリオを崩してたまるか。


「・・・プレゼントありがとう。すげえ嬉しいよ。レイ、がんばれ。応援してる。」

もらったミサンガを利き足である右足にしっかりと結び、純黒の髪をなでてやる。彼女は目を閉じてそれを受け入れる。抵抗はない。それが今の俺にできる最大限の愛情表現であった。


「これぐらいは・・・許されていいよな・・・」


小声でそう呟きながら俺は必死に鳴りやまない鼓動にしづまれと言い聞かせ続けた。

この時だけ二人以外の時間が止まっているかのように思えた。



*****



季節は流れ、気付けば一般入試も終わっていた。

その期間中、俺はエルサやリラさんと手合わせをしたり魔法についての座談会をしたりとかなり有意義な日々を過ごせていた。蒼色の眼のエルサとは会うことはできなかったが。


また案の定というべきか、レイはアドミラ学園に無事合格しもう二人とも荷物を寮のほうには移し終わっている。そうして迎えた今日は入学式である。


結局、俺は中学校の友達には高校の事については一切知らせなかった。

色々な関係上先生たちには報告せざるを得なかったが、しっかりと口止めをしてもらった。

理由は特にないが、しいて言うなら彼らに嘘をつかれていた、裏切られたと思われたくなかったからである。最終的には結局彼らに嘘をつくことにはなってしまったがバレた時にまた説明すればいいやという結論に落ち着いた。


そうして今は最寄駅から学園まで歩いている最中である。もう数日もしたら家から通うことはなくなるからこれが通学路になるわけではないが心はやはり躍る。


「兄さんは一応、本当に一応ですが推薦合格者ですからしゃきっとしていてくださいね。第一印象が大事ですよ」

「そんなに一応を強調するなよ・・・・。大丈夫、わかってるよ。びしっといかなくちゃねびしっと」

「兄さんがそういうことを言って出来た試しはありませんが・・・よろしくお願いしますよ」

「まかしとけって! ん? あそこにいるのはエルサじゃないか? おーい、エルサ!!!」


駅からは多くの学生が学園に向かって歩いているため非常に混雑はしているがその中でもひときわ目立つ、深紅の髪を持つ女子学生に近寄る。


「む! ユーキとレイじゃない、おはよう!今日からついに高校生活が始まるね! どっきどっきのわくわくだよ!」

「おはようエルサ。そうだよ、これからすべてが始まるんだよ! わくわくするな!」

「本当にね! 私昨日はほとんど寝れてなくてもう大変で・・・」


そんなかんじで朝からテンションの高いエルサとしゃべっていると周りからひそひそと話し声が聞こえてくる。


「おい、あれって『神童エルサ』だよな。流石にオーラが違うな。めっちゃ美人だし」

「その横にいる女の子もすげえかわいいし纏ってる魔力も尋常じゃねえな。ナニモンだ?」

「それに引き換えあの男は纏ってる魔力もしょぼいし学園の制服は来てるけど本当に受かったのか? 全然釣り合ってねえじゃん明らかに弱そうだし」


まあ、すべて事実ではある。俺の魔力は子供のそれと同じくらいだし俺ら三人の世間一般的な評価は大体そんな感じであろう。それでも昔の俺ならこの小言にも頭に来ていたかもしれないが、今の俺は本当に信頼する何人かが俺の事を理解してくれるだけで十分だと思え始めていた。

今、横にいる彼女たちやリラ、ルーンさんたちさえいてくれればそれで。


「いいのユーキ? 聞こえたでしょあの小言。私がガツンと言ってこようか?」

「いいんだよ全部事実だし。彼らは何も間違ってないし、これから行動で示せればいいじゃないか」

「そうだけど・・・なんかこうもやっとする・・・。ユーキは頑張ってるしすごいのに」


俺は本来ならここにいることすら許されていない存在だ。

ここで力をひけらかすなんて傲慢が過ぎる。

確かに少しもやっとはするがそれを振り切るようにずんずん学園に向かっていく。


こうして俺らは学園の門の前に到着した。


あの推薦入試の日以来か。こうして門をまじまじと見るのは。

あの時は不安でいっぱいだったからこの門が怖く見えたけど今はこの壮大な門が俺を受け入れてくれているように見える。


三人で門をくぐり桜が周りにに生い茂る一本道をまっすぐ行ったところには大きな掲示板がありそこには1年生のクラス分けが張り出されていた。


この学園は1学年4つのクラスがあり、ゲームではエルサがAクラス、リラがBクラス、柊さんがCクラス、そして主人公とレイがDクラスだったはずだ。

A,B,C,Dとあるが1年生の時は特進クラスとかは特になく、特に大きな違いはない。2年からは実力で上から割り振られていくが。

そしてゲームでは主人公が他クラスとの摸擬戦でメキメキと頭角を現していってヒロインたちに認められてくって感じの流れだったはず。


いま俺たちの目の前に張り出されているクラス分けもやはりゲームと同じものであった。

俺がCクラスにいるという点以外にある一点を除けば。



・・・ない。どこにもない。なんで、なんでないんだ。どうして主人公の名前がない。



声には出さなかったが俺の頭は真っ白になり冷汗がとめどなくあふれてくる。

まだ暦ははるで少し肌寒さが残るがそれとはまったく違う冷たさが俺の全身を支配する。


今目の前に張り出されているクラス分けの紙にはゲームの主人公ー東雲弘人(しののめひろと)の名前がどこにも書いてはいなかった。

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