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15.VSエルサ①

――― エルサ・フェニクス

その名を聞けば少なくとも同年代の少年少女は知らないものがいないほどの有名人である。


伝説の神獣『不死鳥』の加護を受けその身にあふれるほどの神聖な炎の魔力を宿したフェニクス家の一人娘にして神童と呼ばれる彼女が今、俺のことを対等な目線で見据えてくれている。


「あなたの炎魔法は見たことがありません。ですが名前を聞いてピンときました。あれは最上級魔法の『神話の拒絶(カグツチ)』ですよね?」

「ああ、そうだ。まだ全く使いこなせないけどな」

「そうなんですか。いえ、気にしないでください。私もいつかはその域に達してみたいと思っただけです」

「その必要はないだろう? 君には不死鳥の力が宿ってるじゃないか」

「・・・・あなたは私が持つこの力が良いものだと思いますか?」

「そうだな。俺はそう思うが」

「そう、ですか。あなたも()()()()のヒトなのですね・・・。ではそのあなたが“良い”と言ったこの力であなたを完膚なきまでに叩きのめします」


先ほど二階で話していた時とは明らかに様子が違うフェニクスさんと向き合う。

フェニクスさんがうつむいてそう告げたと同時に2試合目開始の合図が鳴った。



*****



試合開始の合図と同時にフェニクスさんの周りに爆風とともに炎の翼が現れる。

ただその炎は俺のものとは違う、熱さをそれほど感じないなんともきれいな()()の炎であった。


「おかしいですよね。不死鳥の力が宿っているのに赤色の炎じゃないなんて。ほかの親族の方たちはみんな赤色なのに。それにこの炎じゃものを燃やすことすらままならないんです。」


そういって彼女は羽のように湧き出る自身の炎を一瞥する。


「いいんですよ、ほかの人と同じように私の事を嗤ってくれても。出来損ないの“薄炎(はくえん)”だって。それとも私のこの変わりように驚いているのですか?」


もちろん俺は彼女の事情は知っていたがもしかしたらゲームの世界とは違うかもと思っていた自分もいた。

だがそんな希望的仮説も虚しく消え去った。



何を隠そう、目の前の少女-エルサ・フェニクスは二重人格である。




*****


そもそも彼女が最初に有名になったきっかけはあの由緒正しきフェニクス家から出来損ないの娘が生まれた、神聖な炎が汚されたという何とも不名誉なものだった。本来の色とは全く違う色の炎をまといながら産声を上げたその時から。


そこからの彼女の苦労、悩みは想像を絶するものであっただろうに彼女は血のにじむような努力の末に様々な悪評、憐みの目を跳ね除け現在の『神童』の評価をわがものにしているのだ。

それでもまだフェニクス家の中では異質な彼女の事を悪く言うものは少なくない。


こういった背景から彼女は普段は明るく朗らかに、他人の噂なんか一切気にしないような態度で振る舞うが、戦いの場においてはそのストレスや鬱憤を晴らすべく冷酷でネガティブで残虐に、さらに承認欲求を満たすために誰よりも勝利に貪欲になる。


また、外見面の変化として人格が変わると普段は髪の色と同じ真っ赤に輝く瞳が蒼く、言い方が悪いが若干濁った眼になる。この人格が引き金でこの後大事件が起こることになるのだが今の彼女に走る由もない。



偉そうに彼女の素性について述べたが、今あげた彼女の闇を救うのは俺なんかじゃない。本来のゲームの主人公だ。

これ以上ゲームのシナリオに影響を及ぼすようなことはおそらく最悪の未来へとつながる。

俺にできるのは今向かい合う彼女に俺の全力をぶつけることだけだ。


*****




「私思うんです。いっそのこと笑ってくれたほうがこっちとしては楽だって。だってそういう人って強大な力を見せつけたらすぐに手の平を返すじゃないですか。前日まであざ笑ってたのに次の日には神童ってもてはやしますからね単純な彼らは。だから、・・・私が嫌いなのは私の事を憐れむような眼で見られることです。今の・・・、今のあなたのようなそういう目で見られることが一番嫌いなんです!!!そういう人たちは決まって『大変だったね』とか『さすがはフェニクス家だ』っていうんです!あなたたちに何が分かるっていうんですか!? 私の努力も苦しみも葛藤も何も知らないくせにうわべだけを見て偽善者面で!! 外には出さないだけで内心では私の事を嗤ってるくせに!!!!」



知っている。俺はすべて知っている。彼女が何と戦ってきたのか。彼女がどんな思いでいままで過ごしてきたのか。だからこそ・・・駄目だとわかっているけど彼女の悲しさが伝わってきてそういう態度が出てしまう。



「だから・・・、だから私はだれにも負けるわけにはいかない。勝ち続けなければならないんです。勝って認めてもらわなければならないのです。私の事を薄炎(はくえん)と罵り嘲り笑ったやつらを見返すために。社会に、すべての人に私の強さを認めてもらうために!! ・・・だから本気でかかってきてください。本気のあなたを叩き潰してこそ私の強さが証明される!!!」


彼女の蒼い瞳が爛々と、それでもどこか儚げに揺れる。


「・・・わかったよフェニクスさん。いや、エルサ。俺も本気で行かせてもらう。本気の俺で君に打ち勝つ! 俺にだって負けたくない理由くらいあるからな!! 『魔王の贖罪(ディスコルディア)』!!」


俺の足元に闇属性の魔法陣が現れ俺を輝かしく照らす。あふれ出る魔力が形となり、真っ黒の軍服のような服が俺を包む。


「・・・・・それは闇魔法・・ですか?てっきり先ほどの火魔法を使うと思っていたのだけれども」

「この魔法が今の俺のできる一番の魔法だ。炎魔法対決をしたかったのなら申し訳ない。ただ悪いけどこっちには時間がないんだ、構えてなくても行かせてもらうぞ!君の全部を俺にぶつけてこい!!!」


全身に身体強化魔法を付与し強く大地を蹴った。






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