12.特訓
さらっと復活します。
全ての魔法を試してから推薦入試までの約3か月、おれは理由はよくわからないがなぜか使えるようになった最高位魔法を使いこなすために修行を始めた。光魔法と風魔法に関してはノータッチだったが。
氷魔法はできるだけ早く広げられるように、そこからタイムラグなくさまざまな氷塊を放てるように何度も反復練習を。土魔法は自分の感情をコントロールする“マインドコントロール”を習得する特訓を。火魔法と闇魔法はほかのものと違い俺の剣術や身体能力に完全に依存するため、ルーンさんやレイに頼んで組手や摸擬戦をひたすらにやった。筆記に関しては何もやっていないが。
まず朝は学校行く前にレイと剣術や体力づくりのためにランニング、授業中はひたすら集中力を高める特訓を、授業後はルーンさんの予定が空いているときはそのままルーンさんの家に行き日が変わるまで鍛錬場で特訓。開いていない日は氷や火魔法の特訓をしたりレイに手伝ってもらって体づくりをしたりという生活を送り続けた。学校がない日はもちろん丸一日特訓だ。
この期間、全く学校の授業をしなかったがテスト習慣にレイの超スパルタ学習塾のおかげでなんとか定期テストは乗り切ることができた。もうレイには感謝しきれない。仕事の合間合間に面倒を見てくれているルーンさんにも。
今まで剣すら持ったことなかったのに急にこんなことを始めるもんだから最初のひと月は本当に大変だった。
手の豆は潰れるに潰れ、毎日新しい傷が体のどこかにできては直りを繰り返し、魔法の暴発による凍傷、火傷に体を痛めつけられた。何度倒れたかもう数えるのもやめた。たった3か月で変わるはずもないと何度もくじけかけた。
それでもなぜかやめる気にはなれなかった。土魔法の特訓によるマインドコントロールも理由の一つかもしれないが、やはり憧れの高校に入れるかもしれないという思いが一番強かった。そのおかげで何度も折れそうになった心を踏みとどまらせることができた。
それだけじゃない。期待してくれてるルーンさんやレイのためにも止まるわけにはいかなかった。
大体二か月が過ぎたころだろうか。ようやく今まで無理やりやっていたことが習慣と化してきて今までよりも気軽に行動に起こせるようになった。
また、前世の世界では例えば筋トレを始めるにしろ2か月ではそんなに見違えるほど結果が出るものではなかったはずなのにこの世界の俺の体は見違えるほどに変わっていた。元があまりに貧弱だったっていうのもあるが。
これに関しては恐らく俺の風魔法とかに影響するはずのいわゆる経験値やレベルが関わっているのだと思う。実際ステータスが見えるわけではないしあくまで憶測だが。
そんなこんなで月日は流れ、推薦入試のちょうど3日前あたりにはそこそこ全力で向かってくるルーンさんとギリギリやりあえる程度には成長していた。まだ手は抜かれているが。
一番最初に戦った時はルーンさんは完全に初見だったから勝てたものの手の内が割れてからは勝つことができなくなっていた。光魔法をぶっ放せば引きわけには持ち込めるが、さすがにそれははばかられる。
「お前もちょっとは成長したようだな。推薦入試にギリギリ間に合って何よりだ」
「はぁ、はっ、今の、俺のこの状況みてっ、それを、言います!?」
「なんだ、不満か? これでも私は気を抜いていないぞ? 手は抜いたが。最初のお前は初心者でももう少しできるぞと思えるレベルだったがまさかここまで成長できるとはな。流石は私が見込んだだけはある」
「俺は今日こそ勝つつもりだったんです!!」
「残念だがそれはまだ数年早いな。まぁお前が魔法をしっかり扱えるようになったらその日はすぐだろうけどな」
「じゃあ俺に負けるまで誰にも負けちゃだめですよ!」
「まあ善処はしておこうか。待っているぞ」
そう、ルーンさんが言う通りなんとかギリギリ間に合った感はある。
一応今の俺ならちゃんと教育を受けてきた剣士並みの行動はできるはずだ。
推薦入試で何をやらされるかわかったもんじゃないがとりあえずは素人の動きからは脱却したってわけだ。
ほかの魔法もそこそこ自分の意志で動かせるようにはなってきた。デメリットは相変わらずのままだが。
「あと3日間あるんだ。ここからはちゃんと体調を整えて万全の状態で試験に臨むことだな。私は試験には行けないし、なにをやるのかも知らん。推薦された者が落ちたとは聞いたことがないが万が一があるからな、気を抜くなよ。特に創造神の欲望を使うときはな」
「そう・・・ですね。まさか土魔法にあんな弱点があるとは思いませんでしたし」
今までのルーンさんとの特訓で何個か新たな発見があってその一つは創造神の欲望のもう一つの弱点だった。こいつは身体的ダメージと正の感情との差が一定値以上を超えるとちゃんと発動するというものだったが、ちゃんと発動してる最中に気を抜いたり途中で負の感情になったりすると急に解けてしまうことが分かった。しかもそのあと身体的ダメージがある程度回復しないと再度発動できない。
だから俺は感情をある程度コントロールする訓練をしてきたし、その結果ある程度は制御できるようにはなったが俺は天性のお調子者だし、感情的になりやすい節があるので実践でどこまでできるのかは正直分からない。だからこそ注意が必要だということが分かった。
「お前の魔法は強力だが欠陥が多いからな。せいぜい頑張れとしか言いようがない」
「はい、わかってます。でもおれはこいつらとともに最強になるって決めたんで」
「そういうのは結果で示してもらおうか。報告を楽しみにしているぞ」
そういって一緒に鍛錬場を出てルーンさんの執事さんに家まで送ってもらった。
*****
家に戻りすぐに母さんが作ってくれたご飯を食べ終え、あと3日で何ができるか考えながら部屋のドアを開けるとレイが俺のベッドの上に座っていた。
「お疲れ様です。今日はルーンさんの家での鍛錬の最終日でしたよね?」
「あ、あぁ。なんでレイがここに?」
「いえ、兄さんがご飯を食べ終えそうな気がしたので先に部屋に来てました。話したいこともありましたし」
「どんな気だよ・・・。で、話ってなんだ?」
「いえ、大したことはありません。ただ無理はしないでくださいね。あと3日あるといって兄さんなら無理しかねませんし」
・・・図星だった。正直もう今から緊張していて体がうずうずする。レイの一言がなければ体力尽きるまで毎日ランニングをし続けていたかもしれない。
「そうだけど・・・。その、緊張するじゃんか・・・」
「確かにそうかもしれませんが今の兄さんならきっと合格すると思いますよ。以前の兄さんなら怪しかったですが。私は兄さんを信じています。ほかの誰よりも、そして兄さんよりも。だから自信を持ってください。わたしは兄さんの味方ですから」
そういってほほ笑むレイはもう女神を超えてるんじゃないかってぐらい輝いて見えた。
その胸に飛びつきたい感情をぐっとこらえる。ここにきてマインドコントロールが生きた。
と思っているのも束の間、座っていたレイが突如立ち上がり俺の胸に飛びついてくる。
お風呂に入った後だからであろう、とても同じシャンプーを使っているとは思えないいい匂いが鼻腔をくすぐり俺の手や胸にはしっかりとした体温が伝わってくる。そんな中先ほどとは打って変わって消え入りそうな声でレイが言葉を紡ぐ。
「兄さんはかっこいい兄さんでいてください。一緒に同じ高校に行きましょう」
そう言うレイの顔は俺の胸でうずくまっているせいで見えないがこちらを覗いている耳が赤くなっている。
それが風呂上がりだからなのか、恥ずかしいから赤くなっているのかわからないが俺も少しだけ腕に力を込めて口を耳元に近づける。
「ありがとう、レイ。俺も頑張るよ」
この時、今この腕の中にある確かなぬくもりだけは絶対に守ると心に誓った。




