終幕の四:ケジメ/義侠
なんの返答もない。取り合わずに俺は続けた。
「なんてったって、俺達サイレントデルタはネット時代の申し子だからな、5年前だろうが、10年前だろうが、この程度のデータならいくらでも掘り起こせる。そして分析した結果わかったんだよ――」
俺も沸き起こる義憤を押さえながらこう言い放った。
「――アンタは台湾のマフィア組織と頻繁に連絡をとっていた。音声データも拾えた。一番美味しいのが残ってたぜ。聞かせてやるよ」
そして俺は音声ファイルを開いて再生する。榊原の豚野郎が得意になって悪巧みをしている時の声を――。
〔――獎勵被轉移到一個秘密帳戸。 你還記得從哪裡開始嗎?〕
〔當然。 是愛知縣的明治村嗎? 模擬很多次。 我肯定會做對的〕
〔我問道。 離開我和那個老頭。 因為我需要它來賣我的恩惠〕
〔是“堀坂 周五郎”嗎? 我記得很清楚〕
〔我在期待――〕
音声はよどみなく流れる。その中国語の音声は片方は間違いなく榊原の野郎の声だった。通話の相手は押して知るべきだろう。
「なんなら翻訳したのも流すか? これアンタのだろう? 台湾ヤクザくずれと楽しく打ち合わせしているのがバッチリ取れてるぜ?」
俺も数歩進み出ると怒声を効かせて言い放った。
「〝報酬の確約〟〝明治村と言う場所の指定〟〝依頼人のあんたと堀坂の相談役を残すこと〟――この3つが残ってる! お前が【15年前の明治村襲撃事件】に関わっていたと言う確実な証拠だ!」
俺の怒声と同時に、俺の頭の中の蜂どもが溢れ出てくる。
――ヴゥゥゥゥゥゥン――
重い羽音を響かせるそれは、無数の蜂たちがターゲットを攻撃しようとする時に響かせる威嚇音だ。
「あ――う――」
榊原の野郎から全身の力が抜ける、呻くような声しか出なくなっている。事ここに至ってもはや一切の反論はできなくなったのだ。
「ふん――」
エイトのおっさんは榊原の豚から右手を離すと突き飛ばした。榊原は地面へと突っ伏しることになる。
さてどうしてやろうか? エイトのおっさんは沈黙したまま榊原を見下ろしている。俺も激痛を味あわせながら蜂で刺しまくってやりたいがおっさんたちが控えている分、勝手なことはしてはいけないという事くらい十分承知していた。
そんなとき、背後から声がかけられた。
堀坂の相談役の爺さんだった。
「なぁ、礼二よ――」
その声にエイトのおっさんが脇に退けて場所を開ける。俺もそれに習って脇にずれて場所を開けた。
堀坂の爺さんの背後からヘッドライトの光が当てられている。その光が不気味に、堀坂の爺さんと、榊原の豚野郎との立ち位置を表しているかのようだ。
「ご、御老――こ、これは――」
榊原の野郎がゼイゼイと息を切らせながら必死に話そうとしている。だが堀坂の爺さんはとりあわない。
「礼二よ、便利だなぁ〝文明の利器〟ってやつぁなあ」
――カッ――
手にしていた白木の杖を地面に突きながら進み出てくる。その後ろからは天龍のダンナも背後を守るように付いてくる。
「15年前の明治村。俺は今まであの夜のことを一度たりとも忘れたことはなかった。俺にとって実の息子たちのように可愛がってた子分たちをみんな失ったの日の事をよぉ――」
――カッ、カッ――
さらに何度も白木の杖を地面へ突く。腹の底の思いを吹き出させるように。
「だが今回、こんな事件が起きてサイレントデルタの兄さん方と知り合うことができた。そして事情を話したら15年前のあの事件のことを全力で調べてくれた。しかも損得抜きだ! ありがてぇじゃねえか」
堀坂の爺さんは、俺やエイトの顔を眺めながら言う。
「はじめは俺は、ネットの回線越しにしか話せねぇ連中と聞いて『なんだその得体のしれねえ野郎どもは?』って毛嫌いしてた。だが、実際に会ってみて話して気付かされた。生の人間と何も変わんねぇ。ただ〝時代が変わった〟ってだけなんだ。和服を着るのが廃れて、洋物の背広を着るのが当たり前になったみたいにな。それになにより――」
その言葉を語りながら堀坂の爺さんはエイトのおっさんの方へと歩み寄った。
「――体の自由の効かねぇやつでも、根性さえあれば現役同様に〝戦う〟事ができる。ありがてぇじゃねえか! こうして死んだと思っていた身内とも再開できたんだからよぉ」
その声は震えていた。腹の底にしまっておいたもう一つの感情。それが〝親心〟ってやつだった。





