第九話 何かが切れた
飲み会後初のサークルの会議では学園祭の出し物が決定し、彼らは焼きそばを出すことになった。亮は中田とともに食材の準備、当日の調理担当となった。
会議も終わり帰ろうとした亮は以前話しかけてきた女子大生に話しかけられた。彼女は愛想も容姿もよかったが自然に接することはできなかった。学年や性別が異なるというだけで彼は彼女に苦手意識を持っていた。彼は素っ気なく接したことに申し訳なさを感じていた。
更に嫌なことは続いた。
「よろしくな」
肩を叩かれ振り向くとそこには中田がいた。
「はい、よろしくお願いします」
亮はできるだけ自然に接した。
「小山君大西さんと話すんだ」
「まだあまり話したことないですけどね」
「意外だね、前の飲み会じゃ誰とも話してなかったのに。小山君そういうのいかにも無理そうな見た目してるのに」
呆れて何も言えなかった。自分と親しくもないのになぜそういうことを言えるのか。
「そうすか」
「ああそうだ、明日十六時半正門で合流ね」
「わかりました」
亮は目も見ずに答えるとトイレに入った。そこでは先輩今村が用を足していた。一瞬目が合ったがすぐに二人とも正面へ目を向けた。
実は亮は密かに今村のことを気にかけていた。ろくに誰とも話せなかった一学期のころ、彼は友達だけではなく仲間も求めていた。今村は必要なこと以外は誰とも話そうとせず周りもまた彼と話そうとしなかった。あの中田も今村と関わろうとしなかった。亮はそんな彼を見ていると安心していた。自分だけではないということが亮を支えていた。
だが調子がよくなり心に余裕ができた最近の彼は今村のことを気にしなくなっていた。先輩自身も毎週参加することから独りでいることを気にしていないのだろう、彼はそう思うことにした。
「サークルは楽しいの」
亮は一瞬ビクッとした。あれだけ誰とも話していなかった先輩が自分に尋ねてきたのは予想外だった。
「楽しいです。学園祭も楽しみです」
「そうか、それならよかった」
それだけ言うと今村はトイレを出ていった。
先輩は何を思ったのか、もしかして自分へのシンパシーだろうか。答えはわからなかったが亮は以前より彼に親近感を覚えた。それは飲み会での岡村やファミレスでの勝に対する感情に似ていた。
翌日、大学の正門で待っていると中田がやってきた。
「よお」
今まで自身が言ってきたことなどすっかり忘れ、まるで仲が良いかのように接する中田を見ると亮はますます彼を理解できなかった。道中中田には無視こそしなかったものの自分から話すことはしなかった。
「どうしたんだよ、元気出せよ」
中田は亮の態度に気付いていたようだ。亮は「元気ですよ」と無難に答えようとした。だが口からその言葉が出ようとしなかった。彼は急に今まで抑えていたものがどうでもよくなった。
「先輩はいいですね」
「何が」
「あなたは僕のことなんて全く気にしたことないんでしょうね」
「何が言いたいんだよ」
「言ったって無駄ですよ。どうせ僕のことを悪口の対象にするんでしょうからね」
亮も中田もそれから先目的地に着くまで一言も発しなかった。自分がなぜ怒っているのか自分から言うのは何か違うと思った。
スーパーに着くと一言食材の確認をし二人は別れた。
途中亮は無理やり品出しをしようとしている店員をじっと見ていた。店員はなんとか詰めようとしていたが一つの品が耐え切れず床に落ちてしまった。店員は慌ててその商品を拾い他の棚に詰め直した。亮は先ほどの先輩への発言を思い出した。床に落ちて他の棚に行く商品は先輩によりサークルから追い出され他の居場所を求める将来の自分に見えた。追い出されるかどうかはわからないとしても居心地が悪くなる覚悟は既にしていた。
買い物終了後、確認だけ済ますと二人はまた沈黙を貫きながら正門へと向かった。中田は何を考えているかわかりはしなかったが今後彼に何か嫌なことをされるような気がした。
「それじゃあ」
正門に着くと中田は一言挨拶し口が動かない亮は会釈だけした。亮の心を冷やすかのように秋風は吹いていた。




