第七話 意外な一面
二学期初の講義も終わり亮はサークルの活動に久々に参加した。内容は学園祭の活動の説明だった。K大学では毎年十月の下旬に開催される。ボランティアサークルは個人や他の団体が出すゴミを回収する。一つの場所に二人が配属され分別されているか確かめながら回収するのだがその二人組はサー長がランダムで選ぶということでメンバーは少しの間待たされた。亮はその間久々に同学年のメンバーと話した。地元の話を聞きだし盛り上げようという意志はあったものの思ったようにはいかず相変わらず薄い関係が続いていることを思い知らされた。
亮は夏の間に二学期の目標を設定していた。吉田や岡村となんとか距離を詰められるようにとにかく話を振ることにした。彼らの反応は薄いことはわかっていたがそこで止まっては何の意味もなかった。相手がしゃべらなければこちらがひたすらつなげていく。うざったいと思われようがかまわないと決めていた。
その夜、サークルの飲み会が開かれた。飲み会の席は自由だった。ある程度お互いに話す吉田と岡村は隣どうし座った。亮は彼らとテーブルを挟んで彼らの前に来るように座った。高橋の挨拶が始まる前に彼は積極的に話した。彼らが答えづらいような話題は避け食事の感想や時事ネタといった簡単な話題を共有した。少しずつではあるが彼らは向こうから話題を振るようになった。そうしていくうちに亮はその日一番の収穫を得た。彼は岡村に好みの本を聞いてみた。すると今まで質問に一言しか返してこなかった岡村は長々と好みの本を紹介してきた。まるでプレゼンテーションを聴いているかのように彼の紹介は魅力的だった。なるほど、彼は自分の世界に入れば人並みに話せるのか。動かし続けた口を休め亮は相槌を打っていた。
吉田と岡村が席を外している間、亮は料理に手をつけていた。以前の虚しい食事と違い料理を達成感とともにかみしめていた。
「小山君ってどこからこの大学に来たの」
横を見ると上級生の女子学生が座っていた。
「岐阜です」
亮は意識的に笑顔にして答えた。
「今日の小山君元気そうだね」
「えっ、そうなんですか。そうなんですかね。ああさっき岡村君と盛り上がったからですかね」
自分はいつも暗い人間として見られているのだろうか。
「そうなんだ。元気なさそうなときあったけどよかった」
亮はドキッとした。ネガティブなイメージを持たれていたことと何か月ぶりかに話す女性の優しさに対してである。
中学生のころ彼は同じクラスの女子から一斉にゴミを見るような目で見られるようになった。ある日彼はたまたま一人の女子にぶつかってしまった。それは全くの偶然であるがその女子はクラス中に亮が故意にぶつかったというデマを広め女子はおろか一部の男子にも悪いイメージを持たれてしまった。幸い味方となる男子は数人いたが彼の知る限り女子は一人も彼の汚名を返上する助けをしなかった。
それからというもの彼は女子との交流を極力避け大学に入ってからも事務的な会話のみをした。これは一くくりに見てしまう彼の悪い癖が災いしてしまった故のことである。彼にとっては学校が変わっても女性というくくりで見れば同じであり話す必要性がなければ自分から話すことはせず、高校時代には話しかける者がいてもわざとつまらない人間を演じ女性を避けてきた。
そんな彼は数か月ぶりに女性と話した。
「どう、サークルには慣れたかな」
「まあなんとか。それなりに楽しくやっています」
彼の答えは嘘ではなかった。
「もしサークルで悩んでいたらいつでも声かけてね」
女子学生は元の席に戻った。彼はまたドキッとした。彼は女性に対してあまり感情を持たないように意識してきたが本心は嘘をつけなかった。彼はくだらないことを考え気持ちを落ち着かせると岡村、吉田との会話を再開した。
三時間後、彼は皆と別れた。彼はアパートへ向かう途中飲み会を振り返った。飲み会では今まで見られなかった岡村の一面を知ることができた。今まで持っていた「つまらない人間」というイメージは少しではあるが変えることができた。また自身のあの女子学生から持たれているイメージも変えることができただろう。彼は思った。自分が岡村に対して思っていたように自分もまたネガティブなイメージを持たれていたのだろう。夏に母親が言っていたように自分は知らないうちにマイナスになっていた。今からでも少しずつ変えることはできる、今日のように。
アパートへ帰ると彼はパソコンを起動した。岡村の本はそこそこの知名度であらすじやらブログの紹介がされていた。睡魔に襲われている彼は流すようにそれらを見た後布団にもぐった。彼の頭にはまだ今日の出来事がこびりついていた。




