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  作者: 山田浩二
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第五話 地元

亮にとって毎週勝と何気ない会話をする時間は居心地が良かった。彼は夏の長期休暇も近づくと勝を遊びに誘いたいと思っていた。だが誘うタイミングを何度も逃し結局最後の試験が終了するまでに誘うことはできなかった。


 長期休暇の間、勝は自動車学校に通うためすぐに実家へ帰省した。亮も単純に実家に長居したかったため休暇開始日には地元行きのバスに乗った。

 バスから降りると父が待ち構えていた。車中亮は父とたわいもない会話をして盛り上がった。父は抑揚なく相槌を打つだけだったがそれでも亮は満足していた。他人との会話では得られない居心地の良さを久しぶりに味わうことができた。


 三人での食事を終えると父は洗面所へ行った。バスルームのドアが閉まる音を確認すると母は息子をじっと見つめた。

「なんだよ」

 亮は笑って母を見つめた。

「あんたの学生生活が心配でね」

 母の顔は真剣だった。

「まあ良くも悪くもないかな」

 これは亮の素直な答えだった。

「そっか」

 母はテーブルを見つめているように見えた。

「亮は今よりお友達は欲しいのかい」

 亮はうなずいた。

「ちゃんと自分から話しかけてるの」

「してるよ、もう子供じゃないからね」

 亮が母にこう聞かれるのも無理はなかった。

 彼は幼いころから引っ込み思案で母が介入することでやっと他人と交流することができた。亮が自分から動けるようになったのは高校生になってからであり、それでも華のある学生生活を送ることはできなかった。母の発言を聞くと自分はいつまでも幼き頃の像のままで止まっているかもしれないと思えた。

「俺もそれなりに動いているんだけどね、どうも人間関係が薄くて」

 母はうなずいていた。

「部活と違って本当に会う機会が少ないから」

「あんたさ」

「もう少し人と話すとき顔上げな。結構うつむいているからね……」

 母に指摘されはじめて気が付いた。亮は人と話している間無意識に頭を下げていた。

「自分じゃ意識していなかったかもしれないけどそういうのマイナスになっちゃうからね」

 亮は認めるしかなかった。自分は知らないうちに人を寄せつけていなかったことを。

「それから」

「なんだ」

「自分にもっと自信を持ちなさい。声かけられて嫌な人はいないから」

「わかった」

 母の言うことは誰よりも説得力があった。

「お風呂上がったぞ」

 父に無言で答えるとまだ温もりが残っているバスルームに入りドアを閉めた。


「8月28日に来れる人返事してくれ」

 陸上部間のsnsにコメントが届いた。

「行けるよ」

 他の部員に続いて亮も送信した。

 そして約束の日、亮は集合場所に集まった。部員の半分も集まらなかったが少人数を好む彼にはそれが適していた。

 彼らは様々な学生生活を送っているようだった。部活で忙しいものもいれば自分と同じように人間関係に悩む者もおり自分のそれと対比すると胸が痛かった。だがそれと同時に疑問も湧いていた。彼らは本当のことを言っているのだろうか。実際亮も学生生活を聞かれた際適当な返事をしてごまかしていた。表情には見えない苦しみを皆抱えているのだろうか。

 彼は急に怖くなった。誰にでも人間関係の苦しみがありためらっている、それならば他人が自分に話しかけることなど到底ないのかもしれない。

 彼は近くの部員を捕まえ一対一で話した。同年代と話すおもしろさを思い出し普通に接する感覚を取り戻した。

 その夜亮は布団の中で一日を振り返った。今日の自分は難しいことを考えず接することができて笑っていた。母の助言を意識していた。まだまだ自分に変えられることはある。脳内反省会を終了し目を閉じた。


 亮は父に勧められた資格の勉強や農業の手伝いをし当初の想定よりも充実した休暇を過ごすことができた。アルバイトの求人も調べたが彼が求めていた単純作業を見つけることはできず断念した。家族の言葉もありしばらくアルバイトのことは考えないようにした。

 彼は残りの休暇をどう過ごすか考えた。勝も実家に帰省中のため娯楽は考えられなかった。何かためになることをしようと彼は他のボランティアにも参加することにした。だが大学周辺の活動は既に締め切られておりこれも断念した。

 することもなく街の中を歩いていると前方にゴミの道ができていた。捨てられているゴミをよく見ると祭りの文字が刻まれていた。どうやら最近祭りがあったらしい。呆れて帰ろうとしたそのときだった。作業服を着た中年男性が目の前を通りゴミを一つ一つ丁寧に拾っていた。亮は海岸清掃のときの自分を重ねた。

「そういえば、こんなこともやってたな」

 彼はあのとき自分が感じた人工への嫌悪感を思い出した。情けないことに自分はあれから一度も動くことはなかった。

「これだ」

 寄り道せず帰宅すると地元を離れる用意を始めた。


 

 





 





 


 

 

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