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  作者: 山田浩二
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第三話 飲み会

フットサルサークルの次の日、亮は重い足を引きずってアパートへ帰った。彼はこの日の飲み会を振り返った。

 彼はこの日はじめて松本(まつもと)上野(うえの)と話した。彼らは比較的はじめての会話には申し分のないコミュニケーション能力を有しており他のメンバーより第一印象は好ましかった。

 しかし亮はすぐにこの二人との壁を感じた。彼らは同じ高校の同級生でありはじめてのサークルの際にも彼らの話し声は周囲にも届いていた。既にお互いを深く知っている彼らは亮が何か話題を振らなければ彼らの世界に入ってしまうため彼は自席に戻った。


 気づけば上級生はもちろん同学年のメンバーもそれぞれが思うままに言葉を交わしていた。単独で座る同学年のメンバーは吉田一人のみだった。

「ここの料理美味しいね」

 亮は吉田に声をかけた。

「うん」

「飲み会って大学生って感じだね」

「まあ」

 亮は話題を探し会話を主導したが吉田の返事は一言で終わった。

「他に何か飲み物でも頼むか」

「後でいい」

 吉田はあっさりとしていた。


 亮は便所の個室に入った。彼は納得がいかなかった。皆が盛り上がる中取り残されたのは自分と吉田の二人のみ。彼はともかくなぜ自分までもがこのような扱いを受けなければならないのか。すぐにでも帰宅してしまいたかったが今よりも更に浮いてしまうことを恐れ再び自席へ戻った。


 何もしないのも仕方がないので亮はひたすら目の前の皿を片付けていた。

「どう、飲み会楽しい」

 顔を上げると上級生の中田(なかた)がいた。

「はい、楽しいです。飲み放題もいいですよね」

 心にもないことを言った。

「毎年いるんだよ。君みたいに独りでいる子が」

「そうなんですか」

 独りぼっちを指摘されるのは痛かった。

「もし嫌だったら帰っていいからね」

 中田は離れた席へ戻った。

 帰りたいだなんて言ってないし余計なことを言うな。何も言い返せないまま飲み物で怒りを覚まし続けた。


 結局その後も会話はほとんどなく亮は心身ともに疲弊して帰宅したのである。

 入学後三週間で気分は落ち込み早くも自信がなくなっていた。何も変えられない悲しみをネットに書きこみ顔も名前も知らない人々と傷をなめ合った。この時間が彼の一番の癒しだった。


 

 亮はサークルの緩さに呆れていた。

 彼は高校時代週六日の陸上部に所属していた。特別走るのが好きというわけではなかったが練習を投げ出すことはせず部員とは引退後の交流も続いている。練習は辛かったものの日数が多い分彼は部員と密に接し彼らを友達と思えるようになった。


 しかし今の彼は正反対の状況に置かれている。週一日の活動は中身も緩くメンバーとの交流も浅かった。

週一日会話する程度で彼にとって彼らは知り合いだった。これ以上のサークルには入る気もせず入学当初のやる気はなくなりつつあった。しかしそれでももう一人の自分は友達が欲しいと自身にささやいていた。  亮は誰に話しかけるか考えた結果交流が続きやすい同学部の友達を作ることにした。


 学部全体での講義は週一日開かれていた。

 亮は独りで座っている男子学生を見つけると一席分開けて座った。学生はこちらに目もくれなかった。事務的な話題をふろうとしたものの何を聴けば良いか迷っていた。そうこうしているうちに講義は始まってしまった。結局何もないままその日の機会を逃してしまった。内心では学生から声をかけるのではないかという淡い期待を抱いていたが彼の望みは叶わなかった。

 彼は今までの自分を振り返った。自分はいつも動く側である。部員とは仲良くできたものの開始は自分からであった。県外に出てもそれは変わらないことに失望した。


 翌週も同じ講義の時間に誰かに話しかけようと意気込んだ。だが大講義室の空気に飲まれると先ほどまでの勇気は萎えてしまった。長机に独りで座り教授の声をぼんやりと聞いた。

 講義が終わり亮は周囲を見渡してみた。ゆっくりと独りで帰り支度をしている学生らを数人見つけた。今しかない、彼は一人の学生に向かって歩いた。

「すみません、来週はどういう内容でしたっけ」

 亮は丁寧に質問した。

「えっ。ああ、教科書の第三章じゃないですかね。はい」

 学生の声はロボットのようだった。

「そうなんですか。ありがとうございます」

 亮は学生の次の言葉を待った。だが学生は目を逸らすと早足で外へと消えていった。彼はため息をつき荷物をまとめた。


 普段より間食を多めに買いさっさと帰宅すると菓子袋を広げた。苛立つ感情を菓子とともに噛み砕き、腹が満たされ落ち着いたところで腕組みをした。

 自分にはあの部屋の空気は耐えられない、そうとなれば他の機会を狙うしかなかった。同学部の友達を作るには語学教室で知り合うしかなかった。これは彼の背水の陣である。

 彼は二つ目の袋を開けた。あっという間に袋は空っぽになった。

 

 










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