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  作者: 山田浩二
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第二話 始まり

入学式の翌日亮は学部説明会のため大講義室へ向かった。入学早々にも関わらず既に会話で盛り上がる他学生がちらほら見られた。若干の焦りを覚えたが自分と同類の学生を見つけては彼は安心していた。


 実は前日に新入生説明会が開かれていた。そのためさっそく知り合う学生らがちらほらいたが彼はすっかり忘れていた。


 亮は一人でも確保したい気分でいっぱいだった。彼は自己暗示をかけ大講義室に入った。その瞬間今までにない空気を感じた。そこはただの教室である。だがそこには通常の小教室にはない雰囲気がある。先ほどまでの自信は一瞬でなくなり彼は誰も座っていない席に座った。


 説明会終了後、キャンパス内を歩いているとサークル勧誘の集団に出くわした。

「僕たち音楽サークルです。今度演奏会するので是非来てください」

「草野球サークルです。気軽に来てください」

 まったく興味のないビラをポケットにしまい集団の横を通り過ぎて行った。


 亮はアパートへ戻り受け取ったビラを机に並べた。音楽、野球、合唱、ラグビー、天文…… 計九つのビラを眺めたがどれも彼の興味の対象ではなかった。元々彼は趣味も特技も少なく趣味といえばゲームしか思い当たらなかった。彼はK大学のゲームサークルを探した。その結果いくつか見つけることはできたのだがどれにも惹かれなかった。


 次の日の午前には履修説明会があった。亮はこの日もなんとか一人でも同学部の知り合いを作ろうと意気ごんでいた。だが状況は変わらなかった。自分から声をかけるのがいかに難しいかを思い知らされた。

 彼の期待も空しく講義終了後誰も話しかけることはなかった。


 亮はキャンパス内のコンビニで軽い買い物を済ませた。コンビニを出ると勧誘の集団が次々にビラを渡してきた。自分は必要とされている、そう思うと悪い気にはならなかった。

 ふと道端に捨てられているビラを見つけると拾い上げ確認した。それはボランティアサークルの宣伝だった。

 ボランティアに関して彼はあまり良いイメージを持っていなかった。面倒くさい雑用をしなければいけない。そこには善意などなくアピールのために仕方なくする。興味もないのに雑用をするのは気分が良いものではなかった。

 だがそれと同時に肯定的なイメージもあった。運動系、文化系のサークルと異なり練習もスキルもいらない。そのためボランティアは自分に適しているように思えた。

「……行ってみるか」

 彼はサークルに入ると決めた。知り合いを作るにはちょうどよかった。


 入学十五日目、四限の講義を終えるとサークル説明会の会場へ向かった。会場は小さな教室だった。教室には先輩と思しき人物、ぽつんと座る一年生らしき人らが座っていた。

 亮は誰に声をかけるか考えた。見た目や座席の位置から同学年の検討はついていた。彼は地味な自分があしらわれるのを恐れ三人の学生の中から一番おとなしそうな一人を選んだ。

 目の前に座っている学生の肩を叩いた。

「あの、一年生ですか」

学生は戸惑っているようだった。

「そうです。もしかして――」

「僕も一年なんです。よろしくお願いします」

「どうも」

 二人は出身地や部活の話題で話し合った。学生は話題をふろうとしなかったがはじめはこんなものだと自ら会話が途切れないよう努めた。

 ちょうど会話が切れたころに先輩が壇上に立った。

「さっそくこのサークルの説明会を始めようか。僕はサー長やってます、高橋(たかはし)です。よろしくお願いします」

 サー長の説明後各々が自己紹介をした。一年生の中には暗い第一印象の者もいたがそれもそうかと思いながら亮も自己紹介を済ませこの日の説明会は終了した。


 サークル終了後、彼は仲を深めようと先ほどの学生吉田(よしだ)に声をかけた。

「どうだった。今日の説明は」

 吉田はビクッとしてこちらを振り向くと首をかしげた。

「どう。別に悪くなかったよ」

「このサークル入るの」

「たぶん」


 亮はアパートへ向かいながらため息をついた。初対面なのでぎこちないのも当然だと思いながらも吉田は不愉快だった。他に何か言うことはないのか、もっと愛想良くできなかったのか。本人に直接言いたかった。

 亮には好ましくない傾向があった。はじめの印象が悪いとすぐに相手を切りたくなってしまう。それは自己の自信のなさによるものだった。接していくうちに仲良くなれば良いとわかっていながらも元々人付き合いが苦手なため積極的にアプローチできないのである。

 このままいけばまた苛立ちながら付き合った高校時代に逆戻りしてしまう。

 亮は人間関係を広げるため別のサークルも探すことにした。パソコンの電源をつけると自身の大学のサークルを検索した。しかしあまり惹かれるものはなく収穫がないまま電源を切った。

 吉田を思い出すと再び電源をつけネットサーフィンを始めた。


 三週間も経つと独り暮らしにも慣れ手を出さなかった家事をするようになった。大学の講義にも慣れ一安心する一方で人付き合いへの不安は増していった。何か自分にできることはしようと亮も動いていた。

 彼は今日と明日二日続けてイベントに参加する。

 今日は二つ目のサークルであるフットサルサークルの説明会に参加する。彼はフットサルへの大した関心はなかったものの小学生の時分に習っていたので都合が良かった。

 明日はボランティアサークルの飲み会が開かれる。彼は先輩との交流はあまり好まなかったが同学年と打ち解ける機会を逃さまいと思い参加することにした。


 説明会が行われる教室には一人も来ていなかった。本当にここで合っているのか、確かめようとしたその時だった。

 扉の開く音に振り返った。

「あれっ、ここってフットサルで合ってますか」

 茶髪の学生が尋ねた。

「僕もフットサルで来たんです。一年なので自分もあってるか自信がなくて」

 二人は同級生どうしだとわかり軽い会話を交わした。話を聞くと彼はサッカー部内でも優秀で大学ではフットサルに力を入れたいようだった。彼の技量を知り容姿の差を見せつけられると自分は場違いだと思った。今なら去れる、そう思ったときだった。

 教室にぞろぞろと人が入ってきた。亮はその一人ひとりの容姿をじっくり確認していった。高身長の学生や威圧感のある顔が並びますます居心地が悪くなった。

 その日は説明会終了後すぐさま帰った。サークルには入ることにしたが説明会は想像と異なり続く気はしなかった。飲み会は二週に一度開かれフットサルはあくまでおまけらしい。当然参加は自由だが参加しなければ彼らとの交流も自然に断たれるだろうと思われた。陰の住人の自分が上手く交われるかどうか不安でいっぱいだったがこれ以上の選択の余地はなかった。サークル勧誘はめっきりと減っていた。


 


 

 

 


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