第一話 高校の終わり
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小鳥の鳴き声が響く春の陽気な日、春から大学生になる小山亮の心は曇っていた。
受験勉強から解放され数年ぶりに再開したゲームに没頭しているこの人物は第一志望の大学に落ち第二志望のK大学への進学が決まった。
もやもやとした気分は拭いきれなかったものの受験が終わった歓びの方が大きかった。
亮の母は呆れていた。
「あんた、この年にもなってまだそれやるんか」
小学生がするゲームで遊ぶ高校生は理解できないようだった。
「別にいいだろ、今まで禁止だったし」
亮はムッとして答え母を追い出した。
一日を無駄に過ごしていたのは自覚があったが受験の反動で気力が湧かず引っ越し手続きや新生活の準備を父に任せきりにしていた。父はそんな息子を叱り彼も次第に準備を協同でし外出もするようになった。
三月も下旬になった頃、亮はアラームもかけずに横になっていた。
どれくらい寝ていただろうか。彼は携帯の着信音に起こされた。どうせ父だろう、携帯を手に取った彼は目をこすった。発信元は彼のクラスメイトの長谷川だった。
「もしもし、どうした」
寝ぼけた声で答えた。
「いや、小山がどうなったかなと思って」
電話越しに薄笑いが聞こえた。
「進学決まったけど」
「おお、じゃあ明日ファミレスで会おうよ」
「ん、わかった」
気が進まなかったが平静を装い答え通話を切った。
亮はため息をついた。彼の高校生活は虚しいものだった。
はじめは友人作りに自分から動いていたものの周囲の反応は薄く結局独りで座っていた長谷川とつるむことになった。亮は独りぼっちを脱却し一安心した。だが長谷川は厄介な人物だった。長谷川は自分の趣味を一方的に語り続け亮が出した話題にはつまらなそうに相槌を打つだけだった。それだけでなく亮の成績を鼻で笑い自分の成績を見せつけてきた。彼は長谷川に敵意を抱いていたがまた独りになるのを恐れ黙っていた。
彼は他のクラスメイトを羨み憎んでいた。つるみたくもない人間と行動する自分を放っておいて華のある生活を送る彼らと自分は対照的だった。自分は彼らに声をかけたにも関わらず彼らから声をかけてくることはなかった。いつしか彼はクラスメイトがどうでもよくなり勉学に励むようになった。しかし第一志望には届かずK大学への進学が決まった。
そんな自分を長谷川は明日も見下し優越感に浸るだろう。しかし亮の性格が災いし断ることすらできなかった。
ファミレスの入口ではすでに長谷川が待ち構えていた。亮は彼の挨拶に作り笑いを返した。
「結果はどうだった」
注文を済ませると長谷川が尋ねてきた。
「ん、K大学に決まったよ」
親戚に微妙な反応をされたその名を長谷川に伝えるのは尚気が引けた。
「ああ、Kか。俺はZ大だよ」
名門大に合格した長谷川は完全に自分に酔っているようだった。
「まあ大学がすべてじゃないさ。うん、K大でも良いと思うよ」
亮は長谷川の目も見ずに相槌を打った。
しばらくすると注文の品が届いた。普段であれば心を奪われるこの料理もこのときは何も考えず口に運んでいた。
「俺も人のこと言えないけどさ、小山って人としゃべらなかったよな」
亮の眉毛が上がった。
「まあ大学じゃ頑張ってくれ」
亮は机を叩いた。
「あのさあ俺はそれなりに頑張ったよ。俺以外としゃべらなかった君と一緒にしないでくれ」
今更もつれたところで失うものなどない、亮の心は切り替わっていた。
長谷川は亮の思わぬ反応に目を丸くした。
「俺だってな、君とつるみたくなかった。しかたなく君と行動しただけだ。いつもいつも俺をバカにして今日も俺を見下した」
「いや、俺はそんなつもりじゃ――」
「もういいよ」
亮は千円札を置くと店を後にした。
彼は高校時代の人間関係にうんざりしていた。再び学生の底辺になるのだけは避け普通の幸せが欲しかった。
両親の協力もあり無事引っ越しが完了した。
入学の前日亮はキャンパス内をうろついていた。
ふと前を見ると鮮やかな色の髪の学生が集団で高笑いしていた。彼らと自分は同レベルなのか、気分が落ち込み亮は大学を去った。
K大の偏差値は中の中で決して賢いとはいえなかった。自分はここにいるべき人間ではない。そう慰めるも空しく風にすら笑われているようだった。気を紛らわせればどこでもよかった。上着のチャックを上げるとちょうど視界に入ったスーパーに向かっていった。




