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小説版 ねずみくんの日常  作者: 秋本そら
2024年 クリスマスのお話
15/15

ねずみくんのクリスマス その3

「ほれ、これがわしの好きなピーナッツじゃよ。ねずみくんにもらったのがきっかけで好きになったんじゃ。サンタクロースも食べてみないか?」

「たしかに、最近はおに吉も好きだって言っておったのう。どれどれ……うん、うまい! たしかに、これは好きになる味じゃのう」

 双子なだけあって、福の神とサンタクロースの好みは似ているようです。けれど、サンタクロースはさっきから何度もねずみくんにホットミルクティーのおかわりをお願いしています。どうやら、お気に入りの味だったようです。

 からあげやケーキを食べて、ふっと顔をほころばせて。サンタクロースがそっと目を閉じると、みんなの楽しそうな声が耳にこだましていくのが分かりました。

「とてもたのしくていいものじゃな、クリスマスパーティー。来年もまたやるかの?」

 サンタクロースに問いかけられて、ねずみくんはうなずきます。

「もちろんです! みんなで集まって楽しみたいので、きっと、来年も25日にやりますよ」

「そうか。じゃあ、またわたしも来てもいいかね? 今年はなにも持ってこれなかったのじゃが、来年からはきっと、みんなに素敵なプレゼントを用意するからのう」

「ええ、ぜひ」

 そう答えながら、ねずみくんは『プレゼント』という言葉がひっかかりました。


 じつはこの後、みんなでプレゼント交換をする予定でした。

 全員がなにかひとつプレゼントを用意して、みんなで輪になって、目を閉じてぐるぐるとプレゼントを隣の人に渡し続け、『ストップ!』の掛け声で受け取るプレゼントが決まるあれです。正式におよばれしていたわけではないうさのさんはプレゼントを用意していないので、ねずみくんがこっそりひとつ多くプレゼントを用意することでその分をカバーしていました。

 けれど、サンタクロースは今日、なにも知らなかったのでなにも持ってきていません。

 本当なら普段は、とっておきのプレゼントを取り出せる魔法の袋をサンタクロースは持っているのですが、それすらも今はありません。福の神にせかされるようにして家を出てきていたので、忘れてきてしまったのです。だからこそ、サンタクロースは来年から素敵なプレゼントを持って来ると言ったのでした。

 これでは、プレゼント交換をしようにも、プレゼントがひとつ足りません。

 会ってから少ししかたっていませんが、ねずみくんにはなんとなく、分かる気がしました。


 きっと、このことを正直に言えば、サンタクロースは「わたしのことはいいから、みんなでプレゼントを交換するといいじゃろう」とえんりょするであろうことを。

 そしてきっと、そもそも自分がプレゼントをもらうことはないと思っているであろうことも。

 だって、サンタクロースなのですから。

 ずっとずっと、自分がプレゼントを渡す側だったのですから。


「――ねえねえ、」

 ねずみくんは、となりにいたかえるくんのかたを叩いて、そのみみにひそひそとなにかを話しかけます。

「……いいねえ! みんなにも伝える?」

 かえるくんもひそひそ声で首をかしげてみせると、ねずみくんは頷いて、反対のとなりにすわっているとくちゃんに「ねえねえ、」と声をかけます。かえるくんも隣にいる人に伝えて、そんな風にしてみんなにねずみくんの思い付きはじわじわと広がっていきます。

 サンタクロースの両隣にいる福の神とおに吉のところまで話が広がったとき、二人はねずみくんに『話は聞いたよ』というサインでぐっと親指を立ててみせました。サンタクロースにばれないように、こっそりとしたそのサインでしたが、もちろん、ねずみくんは見逃しませんでした。


「サンタさん」

 ねずみくんは、すっと立ち上がるとサンタクロースの方を向きます。そして、あたりを見回してみんなと顔を見合わせると、すっと息を吸い込んで、そして。

「せーのっ!」

「メリークリスマス!」

 みんなで声をあげて、自分の後ろに隠していたプレゼントを、全員がサンタクロースに差し出しました。

「えっ……?!」

 びっくりしすぎて話せなくなってしまったサンタクロースに、ねずみくんは言葉を重ねます。

「いつもプレゼントをみんなに渡してくれるサンタさんに、今年はぼくたちから、プレゼントを贈らせてください」

 それでもずっと、目を丸くして動けずにいるサンタクロースに、福の神がそっと声をかけました。

「まあ、たまにはいいんじゃないかのう、こういうのも。毎年がんばっているごほうびをもらったと思っておけばよいじゃろ。あるいは……優しくてすてきな友達がいっぱいできた、その証だと思えばいいんじゃないか?」

 その言葉を聞いて、サンタクロースはふっと微笑みます。

 その目には、じんわりと涙が浮かんでいました。


「ありがとう、みんな。……最高の、プレゼントじゃよ」


 みんなからたくさんの贈り物をもらって、サンタクロースはとても幸せそうです。

 そして、その笑顔を見たみんなも、同じように幸せそうでした。


 こうして、ねずみくんとみんなの、すてきなクリスマスの夜は更けていくのでした。

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