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小説版 ねずみくんの日常  作者: 秋本そら
2024年 クリスマスのお話
14/15

ねずみくんのクリスマス その2

「からあげおいしーい!」

「ねずみくんって本当に料理得意だよね!」

 おさかなのからあげを食べたとくちゃんとかえるくんにさっそくほめられて、ねずみくんはちょっと照れたようすでした。

「よろこんでもらえてよかった! 今日はちょっとスパイシーな感じにしてみたんだ」

「スパイシーといえばさ、今日のミルクティー、もしかしてシナモン入りだったりする? とってもいい香りでおいしいよ」

 マグカップを片手にそう言って微笑むのは花犬さんでした。犬なだけあって、鼻はとても利くようです。

「さっすが花犬さん! キャラメルも入れて、少しクリスマス風にしたんだ」

「うさのさんのケーキとすごく合うんだよ、これ。うさのさんもありがとうございます! クリームがしつこくないくらいに甘くて、フルーツとの相性抜群でおいしいです」

「そんなに褒めていただけるなんて……こちらこそ、おいしく食べていただけて嬉しいです!」

 ケーキをほめられたうさのさんは、顔を赤くして頰をおさえています。

「もしゃ、もしゃ……レタスも新鮮でいいですねぇ」

 机の上にいるかたぎりつむきくんは、体をせいいっぱいのばして、お皿の端っこからはみ出している野菜をほおばっていました。声は嬉しそうですが、体をうんと伸ばすのは少し大変そう。

 クリスマスにもかかわらず、大好物のピーナッツばかりを食べていたおに吉が、その様子をみかねたのか大皿から野菜を多めにとってかたぎりつむきくんの前に置きました。

「食べにくくないか? 言ってくれればとるから、遠慮なく言ってくれ」

「いいんですか? ありがとうございます!」

 かたぎりつむきくんは、ぱあっと顔を輝かせて、めのまえの野菜にかぶりつきます。


 そんな風にみんなで楽しんでいると、玄関の方から「おーい」とおじいさんのような声が聞こえてきました。

「あ、いらっしゃったみたい! どうぞ、お入りください! 一緒にいらしたお知り合いさんもどうぞ!」

 ねずみくんが叫ぶと、背の低いおじいさんのような人が入ってきました。真っ白でふわふわなあごひげと、同じく真っ白な眉毛。青い着物のような服に、同じ色の柔らかそうなぼうし。その手に打ち出の小槌と幸せの種が入った袋を抱えたその人は、今日のパーティーに呼ばれた最後の一人。

 おに吉は「ふくちゃん、やっと来たか!」と笑顔を浮かべました。

「福の神さん、こんばんは! お好きなところに座ってください。ピーナッツもありますよ」

「お、ありがとのう! さてさて、今日のねずみくんの料理もたのしみじゃのう」

 ――そう、福の神でした。

 おに吉と同じでピーナッツが大好きなその神様は、おに吉の近くに座って一緒にピーナッツを食べ始めます。そんな福の神にクリスマス仕様のホットミルクティーを差し出しながら、ねずみくんは首を傾げます。

「あれ、お連れさんはいらっしゃらないんですか?」

「それがのう、クリスマスパーティーに誘ったら『行きたい』って言っとったのに、人前に出たがらないんじゃよ。どれ、わしが呼んで来ようかのう」

 よっこいしょ、なんて声をあげて福の神は玄関の方に向かったかと思うと、背の低いおじいさんのような人――福の神とそっくりな誰かを連れて戻ってきます。

 その人は、福の神と同じで眉毛もあごにたくさんあるひげも真っ白で、けれど、かぶっているぼうしと服は真っ赤で、服のところどころには白いもこもこがついていて――。

 みんながその正体に気付いてソワソワし始めたころ、その人は「ホッホーウ!」と高らかに笑いました。

「メリークリスマス! はじめまして、わたしの名前はサンタクロースじゃ。いつも福の神がお世話になっておる」

 ――そう。福の神が連れてきたのは、サンタクロースだったのてす!

「……えーっ!?」

 みんなはびっくりしたように大声をあげますが、福の神と長い付き合いのおに吉だけは、何かを思い出そうとするように首をひねっていました。

「えーっと、ふくちゃんとサンちゃんの関係ってなんだったっけ?」

「双子じゃよ」

 福の神はおに吉の問いにもあっけらかんと答えて、またおに吉の近くに座ると、サンタクロースのことも近くに呼びました。

「ほれ、ここにでも座ればよいじゃろ」

「そうじゃな。おじゃまします、っと。……今日は急に参加してしまってすまないのう。でも福の神に誘われて、クリスマスパーティーがどんなものか、気になってしまってのう。私の役目はほら、子どもたちにこっそり内緒でプレゼントを渡すことじゃから、あんまり人前に出ないほうがいいんじゃないかと迷ったんじゃが、福の神が大丈夫って言い張るもんじゃから、きてしもうた」

 そう言いながらもほっほっほ、と笑うその人は、サンタクロースのイメージそのもの。

「サンタさんは、クリスマスパーティーは初めてですか?」

 クリスマス仕様のホットミルクティーを持ってきたねずみくんは、ふと気になったことをそのまま口に出しました。するとサンタクロースは「まあのう」とどこか誇らしげに、でもちょっとだけ寂しげに鼻をこすります。

「だって、クリスマスイブの夜は、ずーっとプレゼントを配り歩いとるからのう。トナカイがおってそりがあるとはいえ、一人じゃ大変じゃし、福の神にも手伝ってもらっておるがの」

「そうそう。じゃからパーティーに誘われたときに25日にしてもらえると嬉しいって伝えたんじゃよ」

 ――そう。

 今年のクリスマスパーティーの日程を、25日にしてほしいと言っていたのが福の神であったことを、ねずみくんはちゃんと覚えています。

「そうだったんだ……」

 ねずみくんはびっくりしたように目を丸くしていましたが、やがてにっこりと笑うとサンタクロースにマグカップを差し出します。

「毎年、ありがとうございます。よければこれ、ぼくの作ったミルクティーです。きっと、冷えた体もあったまると思います」

 そのマグカップをそっと受け取って、サンタクロースはホットミルクティーを一口。

 すると、サンタクロースの表情が、じわじわとほころんでいきました。

「こんなにおいしいミルクティーは初めてじゃよ。ありがとう」

「いえいえ、喜んでもらえたらうれしいです。料理もいっぱいあるので、ぜひ食べてみてください! ケーキはぼくじゃなくて、そちらにいるうさのさんが作ったものなんですけど、すっごくおいしいですよ」

 いつの間に用意したのやら、ねずみくんが取り皿とフォークをサンタクロースに手渡すと、サンタクロースもにっこりと微笑みます。

「それじゃあ、お言葉に甘えることにしようかのう。ありがとう」


 福の神とサンタクロースを加え、改めて始まったクリスマスパーティー。

 初対面の人がいるからとみんなの自己紹介から始まり、お互いの話をして、盛り上がって。

 だんだんと、先ほどまでの賑わいを取り戻していきました。

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