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小説版 ねずみくんの日常  作者: 秋本そら
2024年 クリスマスのお話
13/15

ねずみくんのクリスマス その1

 12月25日、クリスマスの夜のことです。


「今日はクリスマスパーティーだからね、たくさん料理を用意しなくちゃ!」

 ねずみくんは、台所をパタパタと移動しながら、パーティーの準備をしていました。

 レタスをどっさりと敷いたお皿の上にはおさかなの唐揚げを山のように載せて、クリスマスらしく赤いプチトマトをたくさん散らしたものを。

 塩が軽くきいたおにぎりは、食べやすいようにちいさめで。ぱくぱくとつまみやすいクロワッサンは、トースターで少しだけあたためておきます。

 なぜかリビングにあるこたつの上には、大量のピーナッツが用意されています。

 飲み物はもちろん、お鍋で茶葉を煮出して作った、甘くてどこか安心する味のホットミルクティー。ねずみくんの得意料理です。

 ……さて、そんなことをしているうちに、玄関の方から少し低くて明るい声が聞こえてきます。


「おーい、ねずみくーん! クリスマスの飾り持ってきたぞー! 飾っていいかー?」


 ききなじみのある声とともに、二本のつのが生えた赤鬼が入ってきました。その姿は虎のパンツに金棒を持っていて、クリスマス飾りの入ったカバンを持っていることさえ除けば、鬼のイメージそのもの。けれど、ねずみくんは慣れたように迎え入れます。

 それもそのはず、おに吉という名のこの赤鬼は、ねずみくんのお友達なのです。

「あ、おに吉さん! こんばんは、自由に飾っていいよ!」

「おー、ありがとな!」

 おに吉はリビングをぐるっと見渡したのち、ふと、こたつの上のピーナッツに気づきました。

「あ、おれが好きなやつだ! ねずみくん、ピーナッツ食べていいか?」

「いいよいいよ! おに吉さんのために用意したんだもん」

「ありがとう!」

 それじゃ遠慮なく、と、クリスマス飾りそっちのけでおに吉がこたつに入り、ピーナッツに手を伸ばした、そのとき。


「ねずみくーん、こんばんはー!

 ……あーっ! おに吉さん、飾り付けサボってるー!」


 夜とは思えないほどの元気のいい大声で、1匹の馬が駆け込んできました。ねずみくんは料理をしているので振り返る余裕もなく、声を張り上げます。

「ああ、とくちゃん! こんばんは、ゆっくりしていってね」

 とくちゃんと呼ばれた馬の男の子――うまのとくは、両腕に抱えたクリスマスツリーのオーナメントをおろし、ぴしっとおに吉の方を指差します。

「はぁーい。でもその前に! おに吉さん! 飾り付けしないとでしょー!」

「ええー? 別にいいじゃないか、ピーナッツつまむくらい」

 大好物を食べながら笑顔のおに吉に、とくちゃんはおおげさにため息をひとつ。

「分かってないなぁー。がんばって飾りつけをした後のお料理とかー、大好物がいっちばんおいしいんだよー? ぼく、背は高いけど首が長いだけで、うでも足も短いから飾りつけするの大変なんだよー。てつだってー!」

「はいはい、分かったよ。じゃあ、なにから飾る?」

「うーんとねえ……」

 二人が飾りを前にうんうんと悩み始めたころ、また誰かの声が聞こえてきました。


「ねずみくん、こんばんは。とっておきのクリスマスツリーを仕入れてきたよ!」

「こんばんは! ぼくもおかし、たっくさんもってきた!」


 大きなクリスマスツリーを抱えてやってきたのは、お花屋さんをひらいている犬の青年、花犬ふさこさん。ツリーを運ぶ手伝いをしながらも肩掛けかばんにお菓子を詰め込んで持ってきてくれたのは、かえるの男の子、あまのかえるくんでした。かえるくんのあたまのうえには、かたつむりのかたぎりつむきくんも一緒です。

「花犬さん、今年もツリーをありがとう! かえるくんもおいしそうなものいっぱい、ありがとう!」

 料理の大皿を持って、ねずみくんは二匹を迎えました。そして、お皿をこたつの上に置くと、皆がわいわいと話しながら部屋を飾り付けていくのに混ざります。


「のねずみさん、こんばんは! みなさん、もうお揃いですか?」


 男の子の友達が多いねずみくんにとっては、珍しく聞く女の子の声。けれど、この鈴のような声の持ち主のことも、ねずみくんは知っています。

「うさのさん、こんばんは! まだ全員はそろっていませんよ。外は寒いと思うので、中へどうぞ」

 ねずみくんがそう呼びかければ、玄関の方から一匹のうさぎ――うさのひとみさんがなにか箱を抱えて入ってきます。

「みなさんで食べてほしいなって思って、ケーキを焼いてきたんです! よければどうぞ」

「ありがとうございます! うさのさんもよければ、ぼくの料理を食べていってください。たくさん作ったんですよ」

「いいんですか? ありがとうございます!」

 うさのさんは、ねずみくんのご近所さん。友達というにはまだ少し遠いような気がしますが、ねずみくんが友達をよんでパーティーをするときにはいつも、なにか甘いものを作って持ってきてくれます。なのでねずみくんは、いつもこうして差し入れをしてくれるうさのさんのことも、パーティーに招き入れることにしていました。

 うさのさんも混ざって、みんなで部屋とクリスマスツリーを飾りつけていけば、部屋はどんどん明るく華やかに、きらきらとして見えるような気がします。


「――できた!」


 やがて、みんなはいっぺんに大きな声で叫びます。

 ちかちかと光るクリスマスツリーに、きらびやかに飾り付けられた部屋。おいしそうなごちそうとおかしにケーキ、そして、あたたかなこたつと、楽しそうなみんなの笑顔。

「クリスマスパーティーをはじめよう! 今いるのは、いち、に、さん、し……あれ、ひとり足りないね」

 誰が来ていないのかはすぐに分かったねずみくんですが、どうしてだろう、なにかあったのかな、と不安になって首を傾げていると、おに吉があっと声をあげました。

「――ああ、そうだ! ねずみくん、ふくちゃんから伝言を預かってるんだ。『少し到着が遅れそうだから、先にはじめといてくれ。わしの知り合いも一人いっしょに連れていくからのう』ってさ」

「あ、そうなんだ! じゃあ、お言葉に甘えてはじめようか」

 そのねずみくんの言葉に、みなはおもいおもいにこたつに入ったり、床に座布団をしいて座ったりします。そして、全員にねずみくん特製のホットミルクティーが配られて。

「誰がかんぱいする?」

「えー、そりゃあねずみくんの家なんだからねずみくんじゃない?」

「それもそうだね。ねずみくん、お願いしてもいい?」

「ほらほら、立って立ってー!」

 みんなにたくさんの声をかけられて、ねずみくんは恥ずかしそうに、けれどたのしそうに、音頭を取るために息を吸い込みます。


「それじゃ、すてきなクリスマスの夜に、かんぱい!」

「かんぱーい!」


 そんなにぎやかな声とともに、クリスマスパーティーは幕を開けたのでした。

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