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小説版 ねずみくんの日常  作者: 秋本そら
2020年 中秋の名月
12/15

おつきみのよる

「おや、綺麗なお月様ですね」

 空を見上げて呟いたのは、かたつむりのかたぎりつむきくんでした。

「そういえば、今日は十月一日……中秋の名月ですからね。この近くにたしか、ススキが生えている場所があったと思いますが……」

 そう呟きながら、かたぎりつむきくんはのんびりと前へと進みます。これでも頑張って早く移動しようとしているほうなのですが、足がないかたぎりつむきくんは、動くのが大変なのです。

「……着きました! とても見事なススキですねぇ。でも……」

 途方に暮れるかたぎりつむきくん。それもしかたがありません。地面から空を見上げているかたぎりつむきくんには、ススキの穂に邪魔されて、あまり月が見えないようですから。

「あ! ススキに登ればお月様が見えます!」

 のんびり、のんびり。でも急いで。一生懸命ススキの枝を登り、かたぎりつむきくんは空を見上げます。

「はぁ……素敵ですね」

 おやおや、あまりに月が綺麗なものだから、思わずため息が出てしまったようですね。


「……一人で眺めるのもいいですが、お友達と見る月もいいですよね。かえるくんに会いに行きましょう。なにかお土産は……あ、このススキを持っていきましょうか」

 大の仲良し、あまのかえるくんにススキを渡すため、かたぎりつむきくんはするすると枝を下り、根元の近くをもしゃもしゃと食べ始めました。こうして枝を噛み切ることで、ススキを摘もうと思ったようです。

「これ……ちょっと……硬いですね……」

「あ、かたぎりつむきくん! やっと見つけたよ! こんなところで何してるの?」

 真上から突然降ってきた声にびっくりして、ぱっ、と上を見上げます。そこにいたのは……。

「か、かえるくんじゃないですか! 今、君に会いに行こうと思って、お土産にこのススキを摘もうと思っていたところなんですよ」

 それを聞いたかえるくんは、ついさっきまで不思議そうな顔をしていたのに、ぱっと笑顔になりました。

「それでススキをくわえていたんだね! ぼくも、きみのことを探していたんだよ。一緒にお月見したいなぁ、って思ってね」

 かえるくんは、かたぎりつむきくんのいるススキを、そっと手折ります。

「お土産のススキ、ありがとう! とっても綺麗で、今日のお月見にぴったりだよ。さ、行こう!」

「はい!」

 かたぎりつむきくんの返事を聞いたかえるくんは、彼をそっと自分の頭の上に乗せてあげました。一緒に移動するとき、かえるくんはいつもこうするのです。


「今年もお団子を用意したんだ。いくつ食べる?」

「それ、答えが分かっていて訊いていますよね?」

「あ、ばれちゃった?」

「ばればれですよ。今年も一個だけで十分です」

「きみは小食だからねぇ」

 金色の光を放つお月様に照らされながら、二人は満面の笑みを浮かべて、楽しそうに話しながら、夜道を歩いたのでした。

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