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小説版 ねずみくんの日常  作者: 秋本そら
2020年 節分のお話
11/15

ねずみくんと節分 ご近所さんとのドタバタ騒ぎ!

 節分の夜。

 豆まき遊びを終えたねずみくんは、リビングで一人、コタツに入ってくつろいでいました。机の上には大豆とピーナッツがこんもりと用意されています。そして、ねずみくんの特製ミルクティーが入ったコップが……なぜか、三つ。

「……そろそろ、いらっしゃるかなぁ」

 ねずみくんがそう呟いた、その時。


「の、のねずみさーんっ!」

 そろそろ聞き慣れ始めてきた、ご近所さんの声が。リビングにバタバタとやってきたのは……うさぎの、うさのひとみさんでした。

「こんばんは。どうしたんですか?」

「こ、こ、ここって、節分に本物のおにが来るんですか⁉︎ さ、さっき、ツノが二本の赤おにが来たんですっ!」

 真っ青な顔をしたうさのさん。もしかしたら、越してくる前の場所では、本物のおにはこなかったのかもしれませんね。


 ねずみくんはうなづきます。

「そういえば、うさのさんは越してきてから初めての節分ですもんね。はい、来ますよ。でも、悪いおにじゃありませんから」

「で、でもっ! 怖いじゃないですかぁ……」

 寒さと恐ろしさで震え始めたうさのさんに、ねずみくんは、ひとまずコタツに入るように促しました。そして、自分の分のミルクティーを渡します。


「これ、どうぞ。ぼくが作ったミルクティーです」

「ありがとうございます。……美味しいです!」

「遠慮せずにどうぞ。なくなったらおかわりも用意しますから」

 甘くて美味しいものを飲み、体が温まってくると、自然と気持ちも落ち着いてきたようです。

「もう大丈夫そうですね」

「はい!」

 うさのさんの表情は、すっかり明るくなりました。


 と、その時。

「おや? ねずみくん、そこにいるのは誰だい?」

 突然リビングに現れたのは、なんと、ツノが二本の、赤おに。しかも、なぜか湯気を上げています。

「ひいっ!」

 あまりにびっくりして、怖くて、声も出せなくなってしまった、うさのさん。偶然にも、うさのさんと赤おには面と向かって話す形になっていたのです。

 一方ねずみくんは、いつも通りの様子で、赤おにに声をかけます。

「あ、おに吉さん。こっちは、ご近所さんのうさのひとみさんだよ。湯加減、どうだった?」

「ちょうどよかったよ! ありがとな!」

 そう。赤おにの正体はおに吉。実はさっき、ねずみくんから浴室を借りて、お風呂に入ってきたところだったのです。


「あ、うさのさん。大丈夫ですよ、おに吉さんはぼくのお友達なんです。快活で優しいおにですよ」

「……って言われてもっ! さっきうちにきたおにですしっ!」

 恐ろしさで声を震わせながら、顔を真っ赤にして叫ぶうさのさん。

「……あー、そういえばこのおじょうさん、最後に行ったところで、がむしゃらに豆を投げてきた子だったなぁ……」

 おに吉も困ったように、頭をかきました。


「なんじゃ、騒がしいのう」

 そこへやってきたのは、福の神のふくちゃんです。ふくちゃんは、ぱっと見は優しいおじいさんに見えます。白い眉毛。藍色の帽子に、藍色の着物。打ち出の小槌と幸せの種が詰まった袋を持っています。

「お待ちしていましたよ。こんばんは」

 ぺこりとねずみくんが頭を下げると、ふくちゃんは「おっ、コタツの季節じゃのう」と言って、ねずみくんの向かいに潜り込みました。


 一方、コタツに入りたくても、うさのさんに怖がられてしまうので入れないおに吉は、ふくちゃんに助けを求めます。

「ふくちゃーん、うさぎのおじょうさんが『おにさん怖い!』って震えてるんだよ……」

 騒がしさの原因を知ったふくちゃんは、あっさりとこう言いました。

「まぁ、その見た目じゃし、実際に悪いやつもいるから、仕方ないかもしれないのう」

「ひどいよ、ふくちゃん!」

 おに吉はますます落ち込んでしまいました。


「あ、あの……そちらのおじいさんは、どなたですか?」

 一人、話についていけないうさのさんが、尋ねます。

「わしか? わしは福の神じゃ。ここにおるねずみくんや、おに吉の友達なんじゃよ」

「え……えっ、本物の……?」

 その場にいる全員がうなづくと。

「……えーっ⁉︎」

 うさのさんは思わず目を丸くして、叫んでしまいした。

「な、なんで、のねずみさんは、赤おにや神様と仲良しなんですか⁉︎」

「一昨年の節分の時に、たまたま仲良くなったんですよ」

 なんてことないように答えるねずみくんに、うさのさんはため息をひとつ。

「おにや神様と『たまたま』で仲良くなれちゃうのねずみさん、凄くないですか……?」

「え、そうかな?」

 ねずみくんは不思議そうに首を傾げます。


「ま、おじょうちゃん。これも何かの縁じゃろう。お近づきの印に、これをあげようかの」

 ふくちゃんが取り出したのは、福を呼び寄せるお守りでした。ふくちゃんの服と同じ、藍色っぽい色をしています。

「福の神じゃからの。幸せを呼ぶお守りじゃ」

「あ、ありがとうございます!」

 神様から直々にもらったお守りです。うさのさんは飛び上がりそうになりながらも、大事に、それを受け取りました。


 その時、おに吉がおずおずと近づいてきて、うさのさんの向かいに座りました。うさのさんは、驚いたようにピクリと耳を動かします。

「……おれのこと、怖いかもしれないけど、よければ受け取ってくれないか?」

 おに吉が取り出したのは、肌の色と同じ、真っ赤なお守りでした。

「これは、悪いことを遠ざけるお守りなんだ。ふくちゃんのお守りと一緒に、持っていて欲しい」

 うさのさんは、どうしていいか分からないまま、固まってしまいました。


「おじょうちゃん、そこにおる赤おにはとってもいいやつなんじゃぞ。何せ、わしの友達じゃし」

 ふくちゃんにそう言われてしまうと、うさのさんも、おに吉が悪いおにではないことを認めざるを得ません。だって、ふくちゃんは神様なんですから。

 そっと差し出されたお守りを、うさのさんは恐る恐る、でもしっかりと、受け取りました。

「まだちょっと怖いですけど……のねずみさんと福の神さんの、お友達なら」


 2020年、節分。

 ねずみくんのご近所さん——うさのひとみさんと、おに吉やふくちゃんが出会った夜の、ちょっとしたお話です。

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