ねずみくんと節分 ご近所さんとのドタバタ騒ぎ!
節分の夜。
豆まき遊びを終えたねずみくんは、リビングで一人、コタツに入ってくつろいでいました。机の上には大豆とピーナッツがこんもりと用意されています。そして、ねずみくんの特製ミルクティーが入ったコップが……なぜか、三つ。
「……そろそろ、いらっしゃるかなぁ」
ねずみくんがそう呟いた、その時。
「の、のねずみさーんっ!」
そろそろ聞き慣れ始めてきた、ご近所さんの声が。リビングにバタバタとやってきたのは……うさぎの、うさのひとみさんでした。
「こんばんは。どうしたんですか?」
「こ、こ、ここって、節分に本物のおにが来るんですか⁉︎ さ、さっき、ツノが二本の赤おにが来たんですっ!」
真っ青な顔をしたうさのさん。もしかしたら、越してくる前の場所では、本物のおにはこなかったのかもしれませんね。
ねずみくんはうなづきます。
「そういえば、うさのさんは越してきてから初めての節分ですもんね。はい、来ますよ。でも、悪いおにじゃありませんから」
「で、でもっ! 怖いじゃないですかぁ……」
寒さと恐ろしさで震え始めたうさのさんに、ねずみくんは、ひとまずコタツに入るように促しました。そして、自分の分のミルクティーを渡します。
「これ、どうぞ。ぼくが作ったミルクティーです」
「ありがとうございます。……美味しいです!」
「遠慮せずにどうぞ。なくなったらおかわりも用意しますから」
甘くて美味しいものを飲み、体が温まってくると、自然と気持ちも落ち着いてきたようです。
「もう大丈夫そうですね」
「はい!」
うさのさんの表情は、すっかり明るくなりました。
と、その時。
「おや? ねずみくん、そこにいるのは誰だい?」
突然リビングに現れたのは、なんと、ツノが二本の、赤おに。しかも、なぜか湯気を上げています。
「ひいっ!」
あまりにびっくりして、怖くて、声も出せなくなってしまった、うさのさん。偶然にも、うさのさんと赤おには面と向かって話す形になっていたのです。
一方ねずみくんは、いつも通りの様子で、赤おにに声をかけます。
「あ、おに吉さん。こっちは、ご近所さんのうさのひとみさんだよ。湯加減、どうだった?」
「ちょうどよかったよ! ありがとな!」
そう。赤おにの正体はおに吉。実はさっき、ねずみくんから浴室を借りて、お風呂に入ってきたところだったのです。
「あ、うさのさん。大丈夫ですよ、おに吉さんはぼくのお友達なんです。快活で優しいおにですよ」
「……って言われてもっ! さっきうちにきたおにですしっ!」
恐ろしさで声を震わせながら、顔を真っ赤にして叫ぶうさのさん。
「……あー、そういえばこのおじょうさん、最後に行ったところで、がむしゃらに豆を投げてきた子だったなぁ……」
おに吉も困ったように、頭をかきました。
「なんじゃ、騒がしいのう」
そこへやってきたのは、福の神のふくちゃんです。ふくちゃんは、ぱっと見は優しいおじいさんに見えます。白い眉毛。藍色の帽子に、藍色の着物。打ち出の小槌と幸せの種が詰まった袋を持っています。
「お待ちしていましたよ。こんばんは」
ぺこりとねずみくんが頭を下げると、ふくちゃんは「おっ、コタツの季節じゃのう」と言って、ねずみくんの向かいに潜り込みました。
一方、コタツに入りたくても、うさのさんに怖がられてしまうので入れないおに吉は、ふくちゃんに助けを求めます。
「ふくちゃーん、うさぎのおじょうさんが『おにさん怖い!』って震えてるんだよ……」
騒がしさの原因を知ったふくちゃんは、あっさりとこう言いました。
「まぁ、その見た目じゃし、実際に悪いやつもいるから、仕方ないかもしれないのう」
「ひどいよ、ふくちゃん!」
おに吉はますます落ち込んでしまいました。
「あ、あの……そちらのおじいさんは、どなたですか?」
一人、話についていけないうさのさんが、尋ねます。
「わしか? わしは福の神じゃ。ここにおるねずみくんや、おに吉の友達なんじゃよ」
「え……えっ、本物の……?」
その場にいる全員がうなづくと。
「……えーっ⁉︎」
うさのさんは思わず目を丸くして、叫んでしまいした。
「な、なんで、のねずみさんは、赤おにや神様と仲良しなんですか⁉︎」
「一昨年の節分の時に、たまたま仲良くなったんですよ」
なんてことないように答えるねずみくんに、うさのさんはため息をひとつ。
「おにや神様と『たまたま』で仲良くなれちゃうのねずみさん、凄くないですか……?」
「え、そうかな?」
ねずみくんは不思議そうに首を傾げます。
「ま、おじょうちゃん。これも何かの縁じゃろう。お近づきの印に、これをあげようかの」
ふくちゃんが取り出したのは、福を呼び寄せるお守りでした。ふくちゃんの服と同じ、藍色っぽい色をしています。
「福の神じゃからの。幸せを呼ぶお守りじゃ」
「あ、ありがとうございます!」
神様から直々にもらったお守りです。うさのさんは飛び上がりそうになりながらも、大事に、それを受け取りました。
その時、おに吉がおずおずと近づいてきて、うさのさんの向かいに座りました。うさのさんは、驚いたようにピクリと耳を動かします。
「……おれのこと、怖いかもしれないけど、よければ受け取ってくれないか?」
おに吉が取り出したのは、肌の色と同じ、真っ赤なお守りでした。
「これは、悪いことを遠ざけるお守りなんだ。ふくちゃんのお守りと一緒に、持っていて欲しい」
うさのさんは、どうしていいか分からないまま、固まってしまいました。
「おじょうちゃん、そこにおる赤おにはとってもいいやつなんじゃぞ。何せ、わしの友達じゃし」
ふくちゃんにそう言われてしまうと、うさのさんも、おに吉が悪いおにではないことを認めざるを得ません。だって、ふくちゃんは神様なんですから。
そっと差し出されたお守りを、うさのさんは恐る恐る、でもしっかりと、受け取りました。
「まだちょっと怖いですけど……のねずみさんと福の神さんの、お友達なら」
2020年、節分。
ねずみくんのご近所さん——うさのひとみさんと、おに吉やふくちゃんが出会った夜の、ちょっとしたお話です。