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僕たち、子供反乱軍  作者: 長谷川 健人
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第0話 終わりと、始まり 前編

アブガニス、昔は多くの国の人々が集まり多文化交流が盛んに行われていた大国。そこは、とても治安が良く、争い事など一切起こらなかった。

しかし、そんな日々は唐突な終わりを告げる。


昨日と何も変わらない朝。多くの家庭では家族揃って朝食を食べている時、それは起こる。


ドォーーン!!!、と。

ブリタニア王国の投下した爆弾の大きな爆発音と共に物凄い爆風がアフガニス全域に吹き荒れる。爆風のあまりの強さに、多くの建物は跡形も残らずに崩れ去っていった。


爆発と爆風の双方に巻き込まれた半径5㎞以内の建物は跡形も残っておらず、完全な更地のような土地へと姿を変えていた。

そのため、被害は計り知れないもので、全ての建物が被害を受け、人身被害に当たっては半径5㎞以内は、ほぼ全滅。それより離れていても、多くの犠牲者を及ぼす程のものだった。


そんなことの起こった日の朝。爆弾投下の直前、少し小さめの一軒家で五人家族で暮らす、とどろき家では、家族揃っての朝食が始まろうとしていた。


「ママとライにいに、はやく、はやく。ごはんが冷めちゃう!」


「はい、はい。今行きますからねぇ。ほら、麗鹿らいかも席に着きましょ」


そのように妹 美海みうの言葉に対しての言葉を口にしながら、台所から家族三人の待つテーブルへと母 玲奈れいなと共に向かう。テーブルの所にあるいつもの席に座る。

それと同時に、先程まで新聞を読んでいた父 祐哉ゆうやが読んでいた新聞紙をたたみ、テーブルの空いているスペースに置く。


「じゃあ、母さんと麗鹿も席に着いたことだし、そろそろ朝飯にしますか!」


「うん!パパ早くいつもの、いつもの!」


「おお!美海はそんなに『いつもの』がやりたいのか!」


うん、うん、という感じで頷く。

それを合図に祐哉が掛け声をかける。


「では!玲奈ママそれと、麗鹿、いつも朝飯を作ってくれてありがと」


玲奈、麗鹿と順々に頭を下げる祐哉。

その後、祐哉の隣に座る弟 とおるの方を向く。


「それと亮。いつもの事だが、食器の準備を1人でやってくれてありがとう」


そう言って、亮に頭を下げる。無言ではあったものの、亮は嬉しそうな顔をした。

そして、頭を上げた祐哉は向いている方向を修正して、『いつもの』を始める。


「それでは、皆さん。両手を顔の前で合掌してください」


パン、パ、パン、パン、と。

祐哉を抜いた四人がそれぞれバラバラに合掌をする。全員が合掌をしたのを確認し、祐哉が掛け声をかける。


「今日一日も皆それぞれ頑張りましょう。では、いただ……」


「あっ!あれなに?」


美海が正面にある窓の方を指差す。

美海の声につられて全員が窓の方に顔を向ける。

窓の外には、花火が打ち上げられた時に見られる火の玉のようなものが、ゆっくりと降下していくのが見える。その火の玉を見て、祐哉が大きく目を見開く。


「な、なな何で、今『逆花火』が!」


窓の外を見て、祐哉がすぐに席から立ち上がる。それにつられるように、玲奈も立ち上がる。

二人の目はとても驚き、何かに怯えていた。それとは、対照的に麗鹿、亮、美海の三人はとても子供らしい興味を抱いた目をして、謎の火の玉を見つめる。


「玲奈……、あれは、」


「ええ、間違いありません。もう、来てしまったんですね」


祐哉と玲奈は顔を見合わせ互いに重苦しい雰囲気を漂わせる。それが何を意味しているのか、はっきりとは分からないものの、それがとても重要な何かを語っているのを麗鹿は一人感じていた。


「麗鹿、亮、美海!」


祐哉は窓から視線を変えて、先程の優しい感じの声ではなく、強めの声で子供たちの名前を呼ぶ。


「今すぐ車に乗れ!」


「えっ、え!でもまだごはんが……、」


「そんなことを言っている暇はない!」


まだ何も分からない5歳の美海を怒鳴り付ける祐哉。美海はあまりの恐さに半泣き状態になる。

普段と違う祐哉に、麗鹿と亮は恐れを感じる。


「貴方、少し落ち着いて。美海も、パパの言うことを聞けば、またご飯は食べられるから今は車に乗りましょ」


「あぁ、悪い。少し頭に血が上り過ぎた。ごめんな、美海。パパが悪かった」


頭を深く下げる祐哉。そんな祐哉を見て、うん、と小さめの声を出す美海。

祐哉が頭を上げた時にはお互いに笑顔だった。

その光景を見ながら玲奈も笑顔になる。しかし、それも長くは続かない。

先程まで笑顔を無かったかのような感じの真面目な顔で玲奈が祐哉に話しかける。


「それよりも……、」


「あぁ、分かってる。皆、早く車に!」


祐哉の声に合わせて、皆が走り、車へと向かう。

いつも、ここで夢は終わる。



「お…ら……、おい!……か、おい!麗鹿!」


シングルベッドで寝ていた黒髪の小さな14歳の東洋人。轟 麗鹿は自身を呼ぶ声につられるように、ゆっくりと目を開ける。正面では、眩しく光る蛍光灯が、不規則についたり、消えたりを繰り返す。


「おっ!やっと起きたか。なかなか起きない心配したぞ」


麗鹿を起こす為に寝ていた彼に声をかけていた茶髪のような髪色で長身の18歳の白人。クルドゥ・バロッタは全く心配していなさそうな、笑みを浮かべて起きたばかりの麗鹿の肩を叩く。

しかも、手を抜かず力強く。麗鹿はそれが嫌だった。


「まだ起床の時間じゃない…、」


「おい、おい。起床の時間じゃないと起きちゃいけないのか?」


「うっ……、」


クルドゥの意見は正しい。それでも、それを認めたくない麗鹿がここにいる。

そのためか、麗鹿は未だに意地をはって、ベットから起き上がろうとはしない。


「はぁ……、」


大きめのため息を一つ、クルドゥがつく。

もちろん、麗鹿のことについてのため息だ。


「おい、麗鹿。そろそろ起きてくれ。お前が起きないだけで始められないんだよ…、」


「知らん。定例会議なんて、勝手にやってろよ、俺には関係ないだろ」


麗鹿はそう言って掛け布団を手繰り寄せ、クルドゥの顔が見えなくなる程度まで視界を隠す。そして、クルドゥのいる方と逆側を向いて再び目を閉じる。


いつものことではあるが、クルドゥとしてはそろそろ止めて欲しいと思っている。

こんなことでは、万が一の緊急時に迅速な避難が出来なくなってしまう。


「はぁ……、おい!麗鹿!起きろ!今日は定例会議じゃないんだ!」


「……じゃない?」


「あぁ、今日は緊急集会だ。だから、寝ている暇なんてないぞ!」


麗鹿のくるまる布団を無理やり剥ぎ取る。

布団を取られ、丸裸にされた麗鹿はそれなりの寒さに目が覚める。


「おっ!やっと起きたな。まぁ、まだ意識がはっきりとしてないだろうが、取り敢えず着替えて会議室に来い。そこに、各班長が集まってるからな」


そう言い残してクルドゥは部屋から立ち去っていく。布団を取られて丸裸になった麗鹿をそのままにして。


それから少し時間経つと、麗鹿は自分から起き上がり着替えを済ませ、クルドゥに言われた会議室へと向かう。

麗鹿の部屋から会議室まではそこまで離れていないので、麗鹿はすぐに会議室に着いた。


コンコン、と。

会議室の扉を二回ノックする。その後、中からの返答を待たずに扉を開ける。

中には生活班、情報班、技術班、戦闘班の班長と副班長、それと総指令 クルドゥともう一人、麗鹿が部隊長を勤める零部隊の副隊長である年端も行かないような見た目の16歳の白人少女。ユーミ・アルファーの十人がそれぞれ席に座っている。

その中で唯一空いているユーミの隣の席に麗鹿は腰を掛ける。


「で、今回召集が掛かった理由はなんなんだ?」


軟弱な体つきの18歳の白人。戦闘班の班長 ライ・ノバが口を開く。

それに続くように、細身の東洋の17歳の美人。生活班の班長 白木しらぎ ゆいが口を開く。


「クルドゥ総指令。私、仕事が立て込んでるので早く話を進めてもらえるかしら」


「……、」


クルドゥは口を開かない。そして、何処か重苦しい雰囲気が会議室を漂う。そんな空気の中でクルドゥが口を開く。


「昨日、ブリタニア軍の基地に潜り込んでいる変色龍カメレオンから、『ブリタニア軍が第一支部に攻撃を仕掛ける』と言う連絡があった」


「なッッッ!!!」


驚きの声をあげながら、ライが席から立ち上がる。それにつられるように、驚きながら麗鹿とクルドゥ以外の全員が席から立ち上がる。


「まてまてまて!そう言う冗談はキツいぜクルドゥさんよ。そんな嘘っぱちアンタらしくないなぜ」


「そうだな。確かにライの言うとおり、今の発言は普段の俺らしくないな」


「そ、そうだろ!だからそんな嘘なんてやめて……、」


「だがなライ。これは事実だ」


会議室は一気に静まりかえる。中には絶望感に心が支配されている者もいる。

それでも、クルドゥは話を進める。


「変色龍からの情報だと、ブリタニア軍は明後日の早朝に第一支部を攻めてくるそうだ」


麗鹿の所属する反乱軍はブリタニア王国に反乱するために幾つかの支部を地域の中に設けている。

その中で、総本部の次に重要視されているのが、第一支部である。そこには、大量の物資や武器、それとブリタニア王国から奪い取ってきた、No.(ナンバーズ)をモデルとして創られた人工複製機体レプリカが数十機置かれている。


「なによそれ!そんなのもう無理じゃない!」


結が弱音を吐く。もちろん、みんな心の中ではそんなことを呟いているのだろう。それでも、それを表に出さないように我慢している。

そんな中でも、クルドゥは話を進める。


「それで、俺は今回のこの戦いは捨てようと思う」


「捨てる?それはどういういみだ?」


ライは不思議そうな顔をして、クルドゥに疑問を投げ掛ける。これは全員が抱いている疑問であった。


「言葉のままだ。俺は今回は逃げることにする。もちろん、全てを持って逃げるには時間が少な過ぎる。だから今回は麗鹿たちの零部隊に時間を作ってもらおうと思っている」


ライの方を向いていたクルドゥが自然と麗鹿の方へと方向を変える。麗鹿はすぐに視線に気づく。


「俺は何をすればいい」


「ちょっ、隊長!何を言ってるんですか!」


麗鹿の言葉にユーミは反応をする。

しかし、そんなユーミに麗鹿は耳を貸さない。

麗鹿のあまりの落ち着きぶりに周りの者は皆目を見開く。それを麗鹿は気にもとめない。

そして、もう一人。麗鹿のその行動を気にもとめずに、クルドゥは話を進める。


「ありがとう、麗鹿。お前は俺の思った通りの男だ!で、だが今回はお前に時間稼ぎをしてもらおうと思う」


「時間稼ぎ?」


「あぁ、時間稼ぎだ」


会議が始まって初めて麗鹿の表情が動く。

先程までの無表情から、少しばかりの戸惑いを感じさせる表情へと。そんな麗鹿よりも先に口を開いたのはユーミだった。


「総指令。その『時間稼ぎ』って言うのはどういったものなのでしょうか?」


ユーミの突然の質問に会議室は再び沈黙に包まれる。そんな重苦しい空気をクルドゥが崩す。


「ありがとう、アルファー副隊長それを今から説明しようと思っていたんだよ」


そう言ってクルドゥが『時間稼ぎ』についての話を始めた。それを全員真剣な表情をして聞いた。

そして、


「た、隊長!ちょっと待って下さい!」


クルドゥの話が終わり、会議室を後にする麗鹿を追うようにしてユーミが会議室から駆け足で出てくる。そんな声には気づいていないようにして、麗鹿は歩みを進める。


「ちょっと隊長!『待って下さい』って言ってるじゃないですか!」


「……、」


「隊長!」


黙ったままの麗鹿の顔の横にユーミは自身の顔をもっていく。そして、麗鹿を横から見つめる。

麗鹿は何を深く考えるために自分だけの空間に入り込んでいるようだった。


パンッ、と。

麗鹿の顔の前でユーミは手を叩く。


「何だ?ユーミ」


しかし、麗鹿は全く驚かずにユーミに問いかける。

これがいつも通りの麗鹿だ。そんな麗鹿を見て、ユーミは少しホッと落ち着く。

それでもまだ、ユーミは完全には落ち着かない。


「『何だ?』じゃないですよ!総指令からの指示だからって、あんな作戦を易々と受けよらないで下さいよ!死ぬ気ですか!」


「あぁ、そうかも知れないな……、」


「って、ちょっと待って下さいよ!そんな縁起の悪そうな台詞言わないで下さい!」


少し上の方を見上げながら言われた麗鹿の台詞の縁起の悪さに少し身震いをした気がするユーミ。

そんなユーミの言葉や態度など気にもせずに麗鹿はまだ、深く何かを考え込む。


「おいおい麗鹿さんよ。そんな暗めの顔なんてしてたら、こんの後の作戦に失敗しちまうぜ」


「あっ!の、ノバ班長」


焦り気味の感じで、あわあわしながら会議室の方から歩いてきたライに敬礼をする。そのライの後ろからは、長身で体つきの良い18歳の黒人。戦闘班副班長ルーディウス・ラバーがライの後ろを追うようにして歩いてくる。


「ユーミちゃん。そんなに畏まったことなんてしなくていいよ。もっとリラックスした感じで、ね」


「いえ、そのようなことは出来ません」


笑顔でユーミに話しかけるライ。その顔はとても疚しいことを考えているような感じを感じざるおえないような表情をしていた。


「ほら、ユーミちゃん。もっとこう、いつもみたいにユーモアと言うか、こう……、」


「それぐらいにしろ、ライ・ノバ」


ユーミの後ろで二人と言うかライの独り言のようなものを聞いていた麗鹿がユーミの前に出てくる。


チッ!、と。

ライが舌打ちを堂々とする。


「麗鹿くん。君は空気が本当に読めないね!」


「それがどうした?何か問題でもあるか?」


少し遊び半分のライに対して、麗鹿は真剣な表情で対応する。これがいわゆる、『空気が読めない』と言うものだ。

そんな麗鹿のせいでライの遊び心はすっかりと晴れ晴れとしてしまった。


「(はぁ、これだから麗鹿くんのことは嫌いなんだよなぁ)」


「何か言ったか」


ライの小さな独り言が麗鹿の耳に少しだけ届いてしまう。これは、とても厄介なパターンだ。

それを無理やり通り抜けるようにライが続ける。


「何も言ってないよ。そんなことより、あの作戦、手伝ってあげようか?そうした方がきっと楽に…」


「いや、結構だ」


「ちょっと隊長!今のはないんじゃないですか!」


ライの話を全て聞かずに断る麗鹿に、ユーミが怒りを向ける。それに対して、ライは麗鹿の発言に少し驚いてから呆れていた。

あまりの冷たい対応に呆れたライは、ため息を一つ吐き言葉を発する。


「そうか。なら、もういい。行くぞルーディウス」


「ちょっと待っ……、」


ユーミの呼び止めに耳を傾けることなく、ライはルーディウスを連れて麗鹿たちから離れていく。

そんなライたちを麗鹿は気にもとめない。しかし、ユーミは麗鹿とは違い、とても気にしていた。


「隊長!なんで、いつもいつも大切なところで!」


「……、」


また黙りこむ麗鹿。そして、そんな麗鹿に呆れるユーミ。そんな中、珍しく麗鹿から口を開く。


「ユーミ。今すぐ、いつもの所に全員を集めろ」


「急に何ですか?さっきまでろくに口も聞……、」


「いいから、早く集めろ!」


「は、はい…」


急な麗鹿の口調変化にユーミは驚く。まぁ、それでもこれはいつもの事なので特に気にはしていないものの、今日はいつもとは少し麗鹿の表情が強張っていて、少し重い雰囲気が漂っていた。

それでも、ユーミはその雰囲気を長くは気にせずに、すぐ様零部隊のメンバーを集めに会議室を通る長い廊下を走って、メンバーを集めに行く。


「ノバ班長。らいかは何をしようとしているのでしょうか?」


麗鹿たちと反対の方向へと歩いていったライとルーディウスの二人が、歩きながら話を始める。


「そんなの俺には分からないさ。でも、そう良いことではないと思うよ」


「左様ですか。では我々も動き始めた方がよろしいでしょうか?」


「んん~~」


歩みを止めて、ルーディウスへの返答に悩むライ。

少し悩むんだライは直ぐに答えを出した。


「別に平気じゃない。麗鹿くんのことだから何かあるのかも知れないしね」


不気味な笑顔を浮かべながら、後ろのルーディウスの方向へと振り返って言う。これがいつものライである。ルーディウスはこれが少し怖い。

それでも平常心を保って言葉を返す。


「さ、左様ですか」


「うん。じゃあ、行こっか」


そう言って、止めていた歩みを再び動かし始める。


「(ふふふ、麗鹿くん。俺は君の行動を楽しみにしてるから、しっかりと楽しませてね。ふふふ……、)」


屋根が高く、縦に長い大きめの建物の中に50人ほどの人が、横に十列、縦に十五列に綺麗に並んだ者たちがいる。


「皆聞け!只今より、対人型有人機体殲滅部隊、通称 零部隊の緊急集会を開始する。皆のもの、隊長に敬礼!」


零部隊で最も体つきが良く、長身の白人男。そして二人目の副隊長 ライラ・クラークの掛け声に合わせて、隊列を組んだ零部隊の者たちが、ライラの隣に立つ麗鹿に向けて一斉に敬礼をする。

それに礼を返すように、麗鹿とその隣にいるユーミが敬礼をする。その後、麗鹿が敬礼を止めるのに続いて、他の者たちも敬礼を止める。


「それでは、これより隊長による御言葉だ。皆心して聞け!では、宜しくお願いします」


ライラは今まで立っていた位置から少し下がり、麗鹿を一番前になるように移動をする。

一番前へと移動した麗鹿は、ゆっくりと全体を見回した後、話を始める。


「これより我々、零部隊は他の部隊や、班とは違う独自の作戦に入る。作戦の内容は……、」


麗鹿の言葉に、多くの者たちがざわめき始める。


「静粛に!」


麗鹿の一歩前に出たライラが声をあげ、ざわめきを納める。その声により、辺りは静まり返る。

そのまま、ライラが静かに一歩後ろに下がる。


「作戦の内容は、最前線にある第一支部の撤収の時間稼ぎ。この作戦には、俺、ユーミ、ライラを含む8人のメンバーで執り行う」


「ちょっと待って下さい轟隊長!そんなの聞いてないですよ!」


隊列の前列に並ぶ一人の隊員が声をあげる。

それに続くように、周りもザワザワし始める。

そんなことは気にもせずに、麗鹿は続ける。


「作戦の詳しい内容は、今からユーミが名を呼ぶ5名に別室で説明する。名前が呼ばれた者は列から抜けて、左端に別で列を作って並ぶように」


「では……、」


後ろの方にいたユーミが麗鹿の前へと出てくる。手には一枚の紙がある。

その紙に書いてあるであろう五人の名前を一人づつユーミが読み上げ始める。


荒井あらい さやか


「はい!」


長身で綺麗な声の黒髪ロングヘアーの東洋人。荒井 彩、18歳が大きめの声でしっかりと返答をする。その後、麗鹿の言っていたとおりに列から抜けて、左端の方へと向かい、隣の列の先頭の横に並ぶ。

それを確認したユーミが次の名前を読み上げる。


「ドルト・イレファラー」


「はい、なのである」


ちょっと意味の分からない語尾をつけた長身で体の大きい黒人。ドルト・イレファラー、18歳。

ドルトは他の隊員と体格が全く違う。隊員の大半が痩せ形なのに対し、彼はとても筋肉質であり、身長などは他の隊員よりも一回りも二回りも大きいように見える。

そんな彼が一歩一歩力強く歩き始める。

そして、ドルトが並んだのをユーミが確認したユーミが次の名前を読み上げる。


「ユー・ランドリア」


「は~い」


衣類は少し乱れ、髪が金髪に染められた白人。ユー・ランドリア、17歳は、彩やドルトとは違い長く伸ばしたやる気のない返答をする。その返答に、辺りが再びザワザワし始める。

そんな周りなど気にする様子もなく、ユーは彩とドルトのいる左端の所へと向かって歩みを進める。

そして、ユーが並んだのを確認したユーミが次の名前を読み上げる。


「リリータ・リ・タージア」


「……、」


なんの返答もない。

建物の中が騒がしくなり始める。今まで以上に多くの者がザワザワし始める。

そんな中、今まで以上に大きな声でもう一度ユーミが名前を読み上げる。


「リリータ・リ・タージア!」


「ふぁ~~~い」


幼い子供の返事ような小さな声が聞こえてくる。その声の聞こえた方向へと、隊員の視線が動く。しかし、そこに人の姿は見当たらない。


「僕はここだよ!ここ!」


視線の下の方から先程聞こえた子供の声が聞こえてくる。その声につられ、視線を下に動かす。

視線を動かした先には、パジャマ?のような格好をした幼女?のような白い肌で金髪の子が立っていた。

彼女がリリータ・リ・タージアである。

身長は123センチメートル。体重25キロととても小柄である。そのため、周りの人に気づかれないことが多い。彼女曰く、『僕は体が小さいから、大体の人の視線には入らないんだ。だから、一日中パジャマで居ても、問題がないんだ。まぁ、もし気づかれちゃっても年齢を偽れば良いだけなんだけどね』と言うことらしい。ちなみに、リリータはこの体型にして、18歳である。

そんなリリータがパジャマ姿のまま歩き始める。

そして、今までに呼ばれたメンバーの後ろに並ぶ。

それをしっかりと確認したユーミが最後の一人の名前を読み上げる。


「レイガン・オルソード」


「は、はい!」


名前から受ける印象とは違う、高く弱々しさを感じさせる女の子?のような声が聞こえてくる。

そして、左側の黒髪が短めで右側の黒髪が長いため、右目の隠れた女の子のような白人の男の子。レイガン・オルソード、15歳が列に向かって歩き始める。

レイガンを見た多くの男が、レイガンに一目惚れをしてしまった。しかし、残念なことにレイガンは立派な男である。そのことをまだ知らない者たちはラッキーである。

そんなレイガンが列に並ぶ。


「以上の五人は集会終了後、第二作戦会議室に集合すること。全員が集合したら今回の作戦会議入る」


「以上で緊急集会を終了する!皆のも、隊長に敬礼!」


ライラの掛け声に合わせて、全隊員が敬礼をする。

それを見た麗鹿はゆっくりとその場から去って行く。麗鹿に続きユーミも去って行く。

それを確認した者たちは個々に敬礼を止める。そして、ばらばらに解散していく。


5分後、第二作戦会議室には長方形のテーブルを囲むようにして、男女八人が椅子に腰をかけて座っている。

短い辺の所に轟 麗鹿。麗鹿から見て右側の一番手前にユーミ・アルファー、その次に荒井 彩、ドルト・イレファラー、ユー・ランドリア。左側には、ライラ・クラーク、リリータ・リ・タージア、レイガン・オルソードの順で席に着いている。


「なぁ、麗鹿…ぷっ、た、隊ちょ…ぷっ、」


「ユーさん。麗鹿でいいですよ」


「隊長!何を言っているんですか!こんな下級ゴミどもにそんなことを許してはいけません!」


ユーミが麗鹿に強い口調で怒る。

そんな彼女ユーミは彼らの関係をよく知らない。そのため、このようなことを言ってしまう。

そんな彼女を気にせず話は進む。


「いや~、やっぱりお前が隊長ってのには慣れねぇな。なんてことは置いといて、今回はどういうして俺たちみたいな下級ゴミメンバーを集めたんだ?」


「ユーさん。自分はユーさんたちのことを下級だと思ったことは一度もありませ!と言うか、ユーさんこそ、本当の零部隊の部隊長だと思ってるくらいですよ!」


「お!嬉しいこと言うなよ!だが、俺にそんな重役は勤まらねよ。もちろん、ここにいるこいつらもだ。それは、お前も分かってんだろ」


麗鹿は黙ってゆっくりと頭を縦に振る。

この会話の内で、麗鹿の一人称が『俺』から『自分』に変わっていること。さらに、口調が穏やかになっていることにユーミは少しばかり違和感を覚える。普段の麗鹿はユーミと二人の時でも、このような口調にはならない。


「ユー、その話はそこで止めなさい。それで麗鹿。今回の作戦とはどういったものなのですか?」


急に麗鹿とユーの間に入ったのは彩だった。

彼女さやかは二人の会話を途中で止め、元々麗鹿が話そうと思っていた話に戻してくれた。


「ありがとございます、彩さん。では、話を戻して今回の作戦について説明していきます。まず、今回の作戦は敵軍ブリタニアと、殺り合うことになります。なので、皆さん…、し…」


「麗鹿、そんなこと最初から分かってます」


彩が麗鹿が"死"と言うキーワードを口から出すのに詰まっているのを助けてくれる。

そんな彩の言葉に他の全員(ユーミとライラ以外)が無言で頷く。表情の一つになんの迷いもなく。

そんな彼らにユーミは驚きの表情を浮かべる。

そして、急に椅子から立ち上がり言葉を発する。


「な、何を言ってか分かってるんですか!今あなたたちは『死にます。』と言ったようなものですよ」


ユーミの言葉に無言で頷く彩たち。そんな彼女たちに先程以上に驚き、目を丸く見開く。

そんなユーミに対して、ユーが一つため息をつく。

そして、重い口を開く。


「なぁ、ユーミ副隊長さんよ。あんたは家族がいるか?」


「えぇ、父と母、あと妹と弟が一人ずついます」


「そうか、俺も父親と母親、あと妹が一人いた」


悲しい表情で呟くユー。そんな彼の目は、何処かを1人眺めているように見えた。

そんなユーなど気にせず、ユーミは尋ねる。


「『いる』じゃなくて、『いた』って……」


ユーのことをそれほど気にしていなくても、ユーミの言葉はとても詰まっていた。


「あぁ、俺以外はもう居ないんだ……」


「………、」


何も掛ける声が思いつかない。と言うか、自分のやってしまったことに、ユーミは後悔をする。

そんな二人の会話に誰もが言葉を発することが出来ない。そのため、部屋の中に妙な空気が漂う。

そんな中、ユーがちょっとした話を始める。


「まぁ、こんな時にはあれだが、ちょっとした昔話をしよか」


その場の空気を変えようと思ったのか、とある少年の話を始める。


「昔在るところに、とある少年がいた。その少年は父、母、妹の四人の家族で幸せな毎日を過ごしていました。そんなある日、その時は突然訪れました。その日は、学校の校外学習で少年と妹は自分たちの住んでいる町から少し離れた場所に行っていました。そんな時、空高くから小さな火の玉が降ってきました」


「えっ!それってまさか……」


話の途中でユーミの口から言葉が漏れ出す。

そんなユーミの言葉は気にせず話は続く。


「その火の玉は時間が経つにつれて、段々下に落ちていきます。そして、その火の玉が地上に落ちた瞬間、ドォーーン!!!と、物凄い音と物凄い爆風、それと、とても強い光りが一斉に少年を襲いました。その瞬間、少年は気を失いました。それから少し時間が経った時、少年の目が覚めました。その時、少年は見てしまいました。先程まで目の前にあった大きな町は円を描くように無くなり、まるで花火のような状態になっていました……」


「…………、」


「今日はここまで。話をずらして悪かったな麗鹿」


周りがあまりにも静まりかえっているのに気がつき、話を止めるユー。そんな中、急にユーに謝られた麗鹿は正直対応に困っていた。


「あっ、は、はい……」


「ユー、あまり麗鹿を困らせないで下さい。話が進まないではありませんか。少しはそこを配慮した上で話をしてください」


「い~や、悪いな彩、それに麗鹿も。話に夢中になるとついこうなっちまうんだよ」


苦笑いを浮かべるユー。

そんなユーに対しての謝罪の気持ちを、ユーミは隠しきれずにいた。でも、自分から謝る勇気をユーミは出すことが出来なかった。


「じゃ、じゃあ話の続きをします。その作戦についてですが、今回は以前通りの近接攻撃、遠距離攻撃、支援の三つの役割に分けようと思います」


「うむ。と、言うことは昔のように、ドルトと麗鹿殿が近接。ユー殿とリリータ殿が遠距離。彩殿とレイガン殿が支援であるな」


「あの、私たちのことを忘れないでください」


「おぉ、これはすまないのである」


ユーミとライラを忘れてしまっていたドルトは、ユーミの指摘を受けるなり、すぐに二人頭を下げる。

『そんなに頭を下げるか?』と思ってしまうほど、頭を深く下げるドルト。そんなドルトにユーミの視線は奪われる。


「ドルトさん、頭を上げて下さい。その事は自分に考えがありますので……」


「おぉ!麗鹿殿、それは感謝である」


一度頭を上げたものの、再度頭を下げるドルト。こうすぐに頭を下げるのが少し面倒である。


「そ、それで、ら、麗鹿くん。今回はど、どんなメンバーで行くんですか?」


先程まで、一言も発していなかったレイガンが口を開く。レイガンは麗鹿と歳が近く一番仲が良い。それでも彼は上手くじゃべれない。いわゆる、人見知り的な部分がある。


「今回は、遠距離にライラを、支援にユーミを入れようと思っています。これに不満などのある人は居ますか?」


誰も、手も上げず口すら開かない。不満などがある者は居ないようだ。なので、麗鹿は話を進める。


「それで、今回は八人での作戦になりますので、普段のように近接、遠距離、支援の三人一組のグループでは行けませんので、二人一組のペアーになって作戦に入りたいと思います」


「おぉ!ペアーか!懐かしいじゃあねぇか!」


「ユー、うるさい」


彩の一言でユーが黙る。


「それでは、そのペアーを発表します。一組目は、自分とドルトさん。二組目、ユーさんと彩さん…」


「げぇ!彩とかよ…、麗鹿それ変え……」


「ユー!」


次は『うるさい』も、『黙れ』も無しの、『ユー!』のみで注意をする彩。その時の彩から感じられる威圧感は物凄かった。その威圧感にユーは一発だった。


「三組目、リリータさんとレイガンくん。4組目、ライラとユーミ。この四組で作戦に入りたいと思います。それと、今回の作戦で使う機体は、遠距離攻撃と支援を得意とする『B-10型』が六機。ユーさん、彩さん、リリータさん、レイガンくん、ライラ、ユーミに乗ってもらいます」


「麗鹿殿、我はどれに乗ればいいのであろうか?」


「はい。ドルトさんは近接攻撃を得意としながらも遠距離、支援も出来る自分たちの持っている中で最も最新の機体『B-100型』でお願いします」


「うむ。分かったのである」


「そ、それで、ら、麗鹿くんはどれにするの?」


「え~と、自分は近接攻撃に特化した『B-50型』で行こうと思います。そっちの方が自分は楽ですからね」


苦笑いを浮かべながら、頭を触る麗鹿。そんな麗鹿に他の者は皆、納得という表情を浮かべる。


「で、俺たちはどう動けばいいんだ?」


「今回の作戦に決まった動きは特にありませんので、取り敢えず二人で適当に動いてください。時間を其なりに稼げたら自分の方から撤退の指示を出します。明日の朝にもう一度ここに集まって再度作戦を確認した後に第一支部へと向かいますので、宜しくお願いします」


「了解だぜ、た、隊ちょ…ぷっ」


「麗鹿でいいですよ、ユーさん」


最後はユーと麗鹿の最初のボケを再び行い会議室の中が明るくなって、個々は部屋を後にする。

最後に残ったのは麗鹿とユーミ。ライラはここには居なかった兵の元へと向かった。


「隊長!なんであんな下級兵ゴミどもにあんな風に接するんですか!あれじゃあ、他の者たちから下級兵のように扱われてしまいます!」


イライラとしながら、麗鹿を一方的に怒鳴り付けてくるユーミ。

そんな彼女に対して、先程までと同じように麗鹿は接する。


「確かにユーさんたちは、他の者より個性が強かったりし過ぎて未だに一番下の階級にいる。それでもユーさんたちは初期メンバーの十一人で、初期からいる自分にとっては最も仲の良い仲間ともだちであり、互いに信頼し合える仲なんだ」


「十一人?十人ではなくて?」


「あっ!ごめん、ごめん。今のは間違えた」


「は、はぁ……」


少し困惑した表情で麗鹿の発言の訂正を聞くユーミ。そんなユーミに麗鹿は少し焦る。


(やばい!やばい!やばい!間違えた!そうだよ、今回の世界ではあの人が居ないんだよ。何間違ってんだよ俺!)


「まぁ、人は間違える生き物ですからね。それよりも、『最も』ですか…。そう、ですか…」


今まで強気でいたユーミが初めて弱気になる。そんな彼女は、先程までとは全く違い、綺麗で弱気な小女のように見える。

そんな彼女を見て、麗鹿は焦りながら対応をとる。


「あっ、え、えっと、そういう意味で言ったんじゃなくて、えっと…そう…、なんて言うか…」


「なんですか……」


両頬をぷっくりと膨らませて、女々し顔で麗鹿を見つめるユーミ。そんな姿を一目でも見たら普通の男の子ならイチコロだろう。それでも彼女に恋しない麗鹿は違う意味でとても凄いのだろう。

そんな麗鹿が、何かひらめいたような目をして、口を開く。


「そう、ユーミはユーさんたちとは違う意味で信頼出来て、自分にとって居なくてはならない存在なんだよ」


「(『居なくてはならない存在』って……)」


嬉しそうに顔を赤くするユーミ。そんな彼女の表情の変化に麗鹿は気づく。


「ユーミ、どうした?」


「っは、はいっ。『どうした?』とは」


「いや、今顔を赤くし……」


「してません!」


麗鹿の言葉の途中で強い言葉を挟むユーミ。そんなユーミに麗鹿は少し驚いていた。

それからというもの、その場はとても不思議な空気に包まれた。その空気を変えたのは、麗鹿の思いきった一言だった。


「ゆ、ユーミ」


「はっ、はいっ。なんでしょうか隊長」


「そろそろ、部屋に戻って寝よっか」


「えっ!?…………、はい…」


少し何を考えてからユーミは返事を返す。

このあと、麗鹿の部屋にユーミが風呂上がりのパジャマ姿で来たことは、本当に一瞬だけだが部隊の中で噂されることを、麗鹿とユーミはまだ知らない。

そして、月が沈み太陽が昇る。

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