フィロソフィマン 1
序章 光の行方
目の前に星が降ってきた。
それは恒星からの光だった。かつて自分が失くしたものが、そこにはっきりとある。ざらりとした感触。眼前に迫る海が、陽光を浴びて銀色に輝いている。
それは、恒星からの輝きにしか思えなかった。
僕はこれから、空中への旅に出る。かけた費用は10万円。社会人の身分になっても、そこそこの額。しかし、命を張る代金としては安い。自転車に取り付けられた翼は、風の力をしっかりと受け止めているが、いつ壊れるのかは、誰にもわからない。
大学時代、鳥人選手権部に所属していた。大会で結果を残すことはなかったが、今でも夢に見る。水泳場の水面、太陽の光、仲間の声。自分の中にあった、どこまでも手の届きそうな感覚。
僕の両手は、あの時確かに、何かをつかむためにあった。
今はどうだ。何か掴めるのか。
わからない。ただ、教職をたった3年で降りた臆病者に、何ができるのか、試したい気持ちが確かにあって、今、ここにいる。
自殺の名所として有名なここで、この断崖絶壁で、空を飛ぼうという自分の無謀が、一体どこから来たものなのか。どうして、こんなことをしようとしているのかわからない。しかし、ブレーキが壊れてしまっているのか、僕はもういっそ楽しい気持ちで、ペダルを漕いでいた。
先生。
心臓の鼓動、自分の呼吸音、そして風のなびき、海の潮騒。あらゆるものを押しのけるような静かな声が聞こえる。僕の中に、彼は今でもいるのだ。
どうしたら、いいんだ。どうしたら楽になれる。
僕は若かった。残念なことに、多くの修羅場も、多くの経験も、積んでいなかった。しかし、社会人であり、担任であり、教師だったのだ。グレートティーチャーにはなれなかったが、ただの先生になら、慣れたつもりだった。
どうしたら楽になれる?彼の声にも、僕の声にも思える。
ペダルを漕ぐ。3、2、1のタイミングで、体が空中に投げ出された。全身に今まで以上の風を受け、手がかじかむ。夏だというのに、海からの風は冷たく、ハンドルを握る手には力が入らなくなりつつある。
重力の影響を受ける。しかし、体を前へ。放物線を描くように、僕の体は落下するはずだが、どこまでも遠くへ。原理上、高い位置から投射すれば、物体は遠くへ移動できるはず。
その時だ。
目の前に確かに、恒星からの光が差した。
それは、さながら暗黒星雲の影が消え、光が差したような感覚だった。今まで、眼前に存在していた何かが、僕の前で消えた。
ああ、これはあきらめなのだ。
おそらく、僕は死ににきた。死にたくないと今でも思っている。翼が折れた音。そちらの方を見ようとも思わない。声も出ない。口が縫い付けたようなのだ。
僕は、背中を押したのだ。
星は僕自身だ。恒星は落下していく。崖の影に入った海は、先ほどまでのきらめきを消し、恐ろしい暗黒をたたえていた。海面に近づいていくのを、永遠のように感じる。いつの間にか、ハンドルから手を離し、体は投げ出されていた。
死にたくないな。そう思った時、僕の世界は消え失せた。