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精霊との初めての対話 ~野外授業2~

「楽しそうだね」

 四人が輪になって弁当を食べていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「うん、楽しいよ」

「ああ、楽しいぜ」

「ええ、楽しいわよ」

「うん、楽しいな」

 四人はその声に同時に応えた。誰の声かわからない声だったが自然と応えてしまったのだ。

「それは結構だね」

 四人の声に答える様にまた声がした。と同時に四人の前に小さな影が現れた。

「やあ、はじめましてだね。声は聞いてると思うけど」

「き、君って……」

 突然の珍客に声を震わせるミレア。小さな影がしれっと答えた。

「そうだよ。君たちの言う精霊ってヤツ。ボクは風の精霊シルフ」

「って事は、俺達を学園から運んでくれたのは?」

「そう、ボク達だよ」

 デイブの質問にもあっさり答えるシルフ。続いてルークも質問する。

「ボク達って事は、他にも居るの?」

「もちろん。この周りにもたくさん居るよ」

 シルフによると、精霊は姿を見せないだけでどこにでも居るらしい。ウォレフ先生の言っていた事は本当だったのだ。

「す、凄ぇ……俺達本当に精霊と話してるんだ」

 興奮と感動でデイブの声が震えている。

「夢みたい……」

 ミレアも感慨深い顔。

「君達、ウォレフの生徒だよね。おっと、君達の前ではウォレフ先生って呼ばなきゃいけないのかな?」

 悪戯っぽく笑うシルフにミレアは質問した。

「ウォレフ先生とは長いの?」

「もう何十年になるかなぁ…ウォレフが君達と同じ、駆け出しの魔法学園生だった時からの付き合いだからねぇ」

「そんなに!ちなみに精霊さんって何歳なの?」

 想像以上に長いシルフとウォレフ先生の関係に驚いたエディが思わず口走った質問に、シルフは平然と凄い数字を口にした。

「うーん、百五十歳ぐらいかな」

「えーっ!ひゃくごじゅう?」

 驚いて声を上げるミレア。なんせシルフは少年をそのまま小さくした様な容姿をしているのだから。

「精霊じゃ若い方なんだけどね。人間って、みんな同じ反応するよね。ウォレフもそんな感じだったよ」

「へえ、ウォレフ先生も?」

「そうだよ。誰だって最初はそんなもんさ。ウォレフなんかねぇ……」

 シルフが何か言おうとした時

「おや、シルフが姿を見せてくれたのかい」

「やあ、ウォレフ」

 ルーク達が顔を上げるとウォレフがニコニコしながら立っていた。

「先生、やりましたよ! 遂に俺、シルフと……」

 感激して泣きそうなデイブの声。

「わかっとるよ。デイブ君、素晴らしい!これからも素直な心でがんばるんだよ」

「はい。先生!」

「みんなもその調子でな。素直な心で接すれば精霊はきっと応えてくれる」

「まあ、今回姿を見せたのは気まぐれだけどね」

 シルフがオチを付けた。

「はっはっはっ ありがとうよ。気まぐれでも姿を見せてやってくれて。彼等をよろしく頼むよ」

「わかってるよ。この子達は何か面白そうだしね」

「そうか、面白そうか。まあ、お手柔らかにお願いしますよ。でも、せっかくだから他の子達にも姿を見せてあげてくれる嬉しいんだがな」

 シルフと言葉を交わしてウォレフは歩いて行った。

「ウォルフは良い先生だよ。良かったね、彼の生徒で」

 そう言うとシルフの姿は見えなくなってしまった。そして空から声が降ってきた。

「君達の事は気に入ったから、みんなにも伝えておくからね」


「ボク達、シルフと出合えたんだね」

「うん。まだ夢みたいだ」

 ルークとエディが余韻に浸っているとデイブが喝を入れる。

「浸ってんじゃねぇよ。まだシルフと会っただけじゃねぇか。ノームにウンディーネ、あとサラマンダーだっけ?早く四大精霊を制覇しようぜ!」

「そうだね、せっかく水辺に居るんだからウンディーネが現れてくれないかな?」

 ミレアが言うと、その言葉に反応したかの様に声が聞こえてきた。

「あなた達ね、シルフの坊やが言ってた人間って」

 女性の声だ。四大精霊の中で女性と言えば……ドキドキしながらミレアが問いかけた。

「もしかしてウンディーネ?」

「ご名答」

 シルフが姿を現したと思えば次はウンディーネの声が聞こえた。すっかり興奮してしまった四人だったが、デイブがふと妙な事を呟いた。

「シルフを坊や扱いって……ウンディーネって、歳幾つなんだ?」

「こらこら、レディの年齢を詮索するものじゃ無いわよ」

 デイブの小さな呟きが聞こえたらしく、ウンディーネの声が少し怒った感じに変わった。

「あっ ごめんなさい」

 年上のお姉さんに怒られた様な気がして素直に謝るデイブ。それを聞いて、ウンディーネの声が穏やかになった。

「素直でよろしい。まあ、二百歳以上だとだけは教えといてあげるわ」

 ウンディーネは二百歳以上!三人は驚いたが、デイブだけはまた妙な事を口走った。

「シルフも百五十歳であの外観だぜ。ウンディーネも二百歳以上だと言えこの声だ。さぞかし美人に違いないぜ」

 デイブのバカ正直な感想。いや、願望と言った方が良いのか。だが、それを聞いてウンディーネの機嫌が良くなった様だ。

「ふふっ ありがとう。でも、姿を見せるのはもう少し仲良くなってからのお楽しみにしておきましょう。期待に添えられれば良いのだけどね」

「いやあ、楽しみにしてますよ」

 能天気にデイブが応える。

「なかなか面白い子ね。気に入ったわ」

 ウンディーネの笑い声が聞こえる。

「それからお嬢ちゃん」

「……お嬢ちゃん……私!?」

 いきなりの呼びかけに声がひっくり返るミレア。

「そう。そこのお嬢ちゃん。私は水辺にしか居ない訳じゃないわ。精霊というのはどこにだって潜んでたりするのよ」

「そうなんですか」

「サラマンダーだって火の気が無い所にも……ほら、ソコで見ているのがわからない?」

「おいおいウンディーネ、バラしちまうなんて趣味が悪いぜ」

 野太い声が響いた。

「サラマンダー?」

 ルークが反射的にその名を口に出す。

「そうだよ、ルフトの坊や」

「ボクがルフトの出身だって知ってるんですか?」

「ああ。俺達は人間の事は良く見てるからな」

「じゃあ、ボクの過去なんかも?」

「ああ、知ってる。お前さん、記憶を失くしてるんだろう?」

「教えて下さい!ボクはいったい……」

「それは教えられないわ」

 ルークとサラマンダーの会話にウンディーネが口を挟む。

「あなたが記憶を失くして、未だその記憶を取り戻せないのは、きっと何か意味がある事だと思うの。だから、あなたが自分で記憶を取り戻さないといけない」

「意味?」

「そう。だから焦らないで。時が来ればきっと記憶は戻るでしょうから」

「ウンディーネの言う通りだぜ、坊や。失くした記憶を追いかけるより、今するべき事を考えるんだな。そうだろ、ノーム」

「ノームって、地の精霊の?」

 ルークが聞き返すと、地の底から響いてくる様な声。

「お前さんも趣味が良いとは言えんな、サラマンダー。自分がバラされたからって、儂の事までバラすなんて」

「はっはっはっ 良いじゃないかよ。シルフとウンディーネが気に入ったって小僧共にサービスだ」

 愚痴るノームをサラマンダーが笑い飛ばす。

「まったくお前さんは……」

 不貞腐れた様なノームの声。サラマンダーとノームの会話がはっきりと聞こえた。デイブは思わず言葉を漏らした。

「マジか……四大精霊コンプリートたぜ」

「ほっほっほっ そいつは良かったな、若いの。だがな、儂等は気まぐれじゃ。一度話が出来たからといっても次があるとは限らんぞ。精々精進することじゃ」

 大地から湧き上がる様なノームの野太い声。

「はい 頑張ります」

 素直なデイブの返事にノームは上機嫌な声で笑いながら励ましの声を送る。

「良いのぉ、素直な若い者は。君等が立派に成長すれば儂等はいくらでも力を貸すぞ。まあ、頑張れ」

「そういうこった。まあ頑張りな」

「次会うのを楽しみにしてるわよ」

 続いてサラマンダーの素っ気ない激励、最後にウンディーネが言葉を残して精霊達の気配は消え、湖畔に静寂が戻った。


「まさかこんな展開になるとはな」

「本当ね。ついさっきまで『精霊の声なんてわかんねぇ』って言ってたのにねぇ」

 しみじみと言うデイブにミレアの容赦の無い突っ込みが入る。

「ほっとけ!」

 拗ねるデイブにルークが力強く言った。

「でも、ノームが言った通り一度だけじゃダメなんだ。これからも頑張らないとね」

 遂に精霊と出会う事が出来たルーク達。彼等の目はやる気に満ちていた。しかし、どこかへ歩いて行ったウォレフが戻って来て彼等に言った一言で厳しい現実に直面する事となった。

「君達、そろそろ集合時間だぞ。早くお弁当、食べてしまいなさい」

 ルーク達はまだ半分も食べていない弁当を掻き込むと、集合場所へと急いだのだった。


 集合時間になり、クラス全員が元居た場所に集まる。

「よし、全員居るな。じゃあ帰ろうか」

 ウォレフは全員が集まったのを確認すると行きと同じ様に風の精霊を呼び、一同を宙に舞わせた。行きはおっかなびっくりだったが、帰りはシルフを側に感じ、心地良い風に身を任せて飛行を楽しむ事が出来たルーク達だった。



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