18話 邪神の力、魔法の力
今回、槌を使うシーンがあるので槌の部位の名称の補足説明させていただきます。
ヘッド→叩くための先端の大きい所です。Tの字の横部分の所
シャフト→持つ部分。柄ですね
フェイス→ヘッドの叩く面
合っているでしょうか…
違っていたら教えて下さると助かります
真夜中のフナリスに轟音が響く。
街は目を覚まし路地に飛び出し轟音の方向を見る者、パニックになる者、泣いた赤子を抱き寄せる者で大混乱に陥っていた。
「予想はしてたけどやっぱりこうなるよね〜・・・」
少し背の高い民家の屋根に着地したリューシュは街の様子を見てため息を吐く。
その後大きく息を吸い眼下に広がる民衆に向け両手を向ける。
「大人数には久々に使うからなまっちゃったかなぁ?皆に届くと良いけど!!『ウイン・ソール』!!」
リューシュの両手が淡い緑に光り、街中に優しく、だが力強い風が吹き抜ける。
街の人々は全身を撫でる風に気付き振り向く。ふと視界に入ったのは屋根の上に立つ緑の長髪の女性の姿だった。
「お、おい。あそこの屋根に誰か居るぞ」
誰かが声を出してリューシュを指さす。
「あ?何言ってんだよこんな時に」
その声に答えるように返事をしたのは遠く離れた街の端に居る男だった。
「よし、皆に魔法かけれたみたいだね〜!いやぁこうやって目立つのもなかなか悪くないねぇ?」
リューシュは飛び起きて街の外に出た市民全員に『ウイン・ソール』をかけることに成功していた。
『ウイン・ソール』の効果は二つ。移動速度の上昇と聴力の上昇。
「みんなの声がよく聞こえるから、皆はうるさくしないでね?? 私の声だけ聞いてね〜!」
「みんな夜にうるさくしてごめんね!でも聞いて欲しいんだ。今この街は崩壊させられそうなんだ。急には飲み込めないと思うけど信じて欲しい。この騒ぎが何よりの証拠だよ。でも大丈夫!! 私達がやっつけてる最中なんだ〜!だからみんなには避難して欲しい!私が魔法をかけたから速く移動できるはず。こんなにたくさんの人にかけたのは久々だから魔法がいつまで続くか分からない。早く逃げて!」
市民全員の視線を浴びながらリューシュは伝える。この街の危機を。異変を打破している最中だと。そして逃げるべきということを。
「おい、早く逃げた方が良いんじゃないか?」
「あの人が言うにはこの街ヤバイんだろ?」
「でも、なんとかしてくれてるって・・・」
「あいつ自体がフナリスを崩壊させてるかも知れない」
「俺もだ。余所者の言葉は信じれない。罠かもしれん」
しかし街に広がるのは戸惑い。あるいは疑惑。リューシュの訴えはなかなか通じない。
「お願いだ。みんな逃げてくれよ!」
もう一度リューシュは叫ぶ。
しかし魔法の効力がが切れたのか人々は反応しない。
「っ!くそ!みんな何で聞いてくれないんだよ。もういいよ。奥の手だ」
屋根を踏み込みしばらく瞳を閉じていたリューシュはつぶやく。
そして呪文を唱えだした。
「鼓膜どうなっても知らないからね。『フレイ・フォース』、『ウイン・ソール』。これで君たちには嫌でも逃げてもらうよ。」
『フレイ・フォース』でリューシュは自らの魔法威力を爆発的に上昇させた。そして『ウイン・ソール』の標的は市民。
すぅ、と息を吸い込みリューシュは三度叫んだ。
「逃げろって言ってるのが分からないのかい!? 私だって今戦ってる友達を助けに行きたいんだ!! 死にたくなけりゃさっさと居なくなれって言っているんだよ!!!」
リューシュの声は民衆の耳を貫いた。突然の出来事に呆気に取られ静寂が街を包む。
「あの女狂ったか?」
「俺達が先に殺されかねんぞ!逃げた方がいいんじゃねぇか?」
誰が言ったかリューシュを恐れる声に包まれた人々はリューシュに背を向け高速で逃げ始めた。
「なっ!なんか歩いてんのに速くねえか!?」
「痛て!ぶつかって来んなよ!!」
そんな声を響かせながら。
「あはははは。スッキリした〜!!私を怒らせた罰だよ〜!お尻でもぶつけながら逃げると良いよ〜」
屋根の縁にに座ったリューシュは足をブラブラと振りながら静まり返った街を笑顔で見下ろしていた。
「私もサリス君も人に好かれないねぇ」
◇
「君、なかなかしぶといね。さすが創られた生物と言うべきかな。」
土で出来たドームの中、ベルコが街を襲った怪物の死体を寄せ集めて造った巨大な四本腕の化物、ヨトゥンの攻撃をアベンチュリンは不動槌を振り防ぐ。骨と鈍器がぶつかる鈍い音が反響する。
「グゥアァァァァア!!」
飛び退いたヨトゥンは再び飛び上がりアベンチュリンを鋭い爪で切り裂こうと空中から襲う。
「む。君には少し秘密がありそうだな。いくら骨を砕いても手応えがない」
「『テラ・スパイク』!」
不動槌のヘッドを地面に起き、シャフトの先端に両手を置いたアベンチュリンはその状態で呪文を詠唱。
アベンチュリンの前方の地表に幾つも小さな円形の捻れが生じる。その捻れの中心が少し浮き上がり尖った砂の山の様になったかと思うと一気に土の棘となりヨトゥンの全身を貫く。
「ゴアァァァ・・・」
全身を貫かれたにも関わらずヨトゥンは身体を動かし棘から抜けようともがく。返しが付いた棘に身体中の肉が引き裂かれてもなおヨトゥンは動き続ける。
「まだ動けれるのか君は。返しが付いた僕だけの特別性なんだけどな。少し君の身体を調べさせてくれ」
アベンチュリンは未だに棘から脱出出来ないヨトゥンに近づき一歩手前で不動槌を構える。
「『テラ・スパイクメイス』」
構えた不動槌のフェイスに向かって土が収束する。収束した土はフェイスを包み、ヨトゥンを貫いた棘と同じ棘となる。
「まぁ、これもただの応用なんだけどね。僕もまだまだだな。好奇心が出ちゃうと抑えれない」
アベンチュリンは棘の付いた不動槌を振りかぶり迷うこと無くヨトゥンの腹を殴りつけた。
「グゲャァァアァア!!!」
腹を抉られたヨトゥンは悲鳴を上げる。
「ようやっと弱音吐いてくれたね。でもやっぱり何かおかしいな」
身動きの取れないままのヨトゥンは更に大きくのたうち回る。
大きく動けば動くほど肉が切れていくがお構いなしに棘からの脱出を成功させた。
「なるほど。そうやってほぼ無限に身体が再生するのか。再生と言うより修復かな?」
再びアベンチュリンの前に立つヨトゥンは既に無傷の状態だった。
「謎解きをしながらの戦いか。とことん僕専門の敵じゃないか」
そう呟くとアベンチュリンはスーツの懐から眼鏡を取り出し、掛けた。
◇
「ふふ。私の相手もいいけれどあの女の子は大丈夫かしら?」
挑発と共に大振りの鎌での首を狙った一撃をサリスは片手剣で受け流す。
「問題ないな!あのトカゲはグレンデル一人で十分さ『フレイ・ジャグル』!!」
片手剣を持っている右手で受け流しつつ空いた左手をベルコに向ける。
掌から無数の炎の球が浮かび上がりベルコに向かって飛ぶ。
「芸のない男ね。さっきもその魔法使っていたわね」
炎の球を大盾で防いだベルコは盾の影から顔を出しサリスを嘲笑う。
「これで十分だと思っているからな。これならどうだ。『フレイ・カノン』!!」
先程とは違い無数の炎の球が一つに収束し、ベルコを呑み込むには十分な大きさになるとサリスは巨大な炎を打ち込む。
「あら、さっきのが大きくなっただけの美しくない魔法ね。避けるまでも無いかしら」
ベルコは構えた大剣を振り炎の球を真っ二つに切った。
「お前のその武器、ほんと気持ち悪いな。何にでもなるのか?」
大技をかわされたサリスは、「ははっ」と笑いながら呟く。
「勘がいいのね」
大剣を構えた状態のベルコは次の瞬間鋭いナイフを握っていた。
「貴方の言う通り。わたしは終焉徒!狡猾の邪神、ロキ様の力をお借りしているの。魔素に直接干渉してその物体の性質を変換出来るわ。この通り最初はただの棒だった私の武器も剣にもなれば杖にもなる。何て美しい術なのかしら!」
ベルコが喋り終えた時には長い槍を構えていた。
「楽しませて頂戴」
ベルコの槍による連続突きをサリスはバックステップで飛び退き距離をとる。
「『フレイ・ランス』俺だって槍くらい出せる」
サリスは炎で出来た槍を持ちベルコに向って突撃。近距離の勝負に持ち込む。
しかしベルコはサリスが炎の槍の陰に片手剣を握っている事を見抜き、すかさず武器を槍から湾曲した片手剣に変換。
炎の槍を捨てたサリスは剣での近距離戦に持ち込む。剣戟の音が辺りにこだまする。
「まだまだ戦いはこれからだな!『ウイン・ジェット』!」
「ぐっぁ!」
剣をいなしながら左手を勢いよくベルコの顔の前に振ると突風が大砲の様に吹き付ける。空気の大砲を顔に受けたベルコは耐えきれず吹き飛ばされる。
「お前の弱点はもう見破らせて貰った。すぐに楽にしてやる」




