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異世界召喚する際は、事前にご連絡願います

異世界召喚する際は、事前にご連絡願います 2

作者: 大福 苺

2回目の投稿は、まさかの短編続編です。

前回のを読んだ後にこちらを読むことをおすすめします。

誤字脱字あると思いますが、文章・表現などとくに気にせず、

軽く読んでいただけるとありがたいです。

「なにこのデジャブ!」


 階段降りたら、そこは異世界だった。


◇◇◇◇◇◇


 柊真琴 17歳。

 現在、腐女子街道前進中。

 異世界へ勇者として召喚された経験を持つ女子高生。


 今日はヲタク仲間のガンダルさんと一緒に、県外で開催されるコスプレ大会に行く予定。

 親友のえっちゃんと私はBL大好き腐女子コンビで、ガンダルさんはコスプレ好き。ヲタク同士、とても気の合う仲間達だ。

 ちなみにガンダルさんは、1年前、私が異世界へ召喚された際にあちらの世界で出会った人である。前職は国の宰相という、ちょっと稀有な経歴の持ち主。あちらで王様見限って、転職どころか転世界して、現在は日本で実業家として成功している。腐女子仲間の間では、「腹黒ドS」というキャラが確立している人物でもある。


 待ち合わせの時間は朝7時。今朝も早めに起きて、シャワーを浴びる。

 1年前はシャワー浴びて浴室出たら異世界に召喚されてたんだよね。びしょ濡れ真っ裸で見知らぬ世界の見知らぬ人達の前に登場とか。どんな羞恥プレイだよ。

 そんなことを考えながら、浴室を出ようと扉を開けた。素早く髪を乾かし、自分の部屋に戻って出かける準備をする。クローゼットを開けて、真新しいワンピースを取り出した。

 昨日ガンダルさんとえっちゃんの三人で買い物に行った時に、ガンダルさんが買ってくれたものだ。


 え?いらないよ~と断る私に、眼光鋭く鼻息荒めの真面目な顔で「私はマコトに服をプレゼントしたいのです!」と強調し、自分好みで選んだ服をサッサと会計して私の手に握らせる、という強行手段に出た。私の好みは一切反映されていない。

 後ろにいたえっちゃんが「きゃっ!男が女に服をっ」と呟き、顔を真っ赤にして鼻を抑えていた。最近えっちゃんが挙動不審過ぎて心配だ。

 帰り際には、腹黒ドSそうな顔したガンダルさんに「明日はその服を着てきてくださいね」と手をぎちぎち握られながら念押しされ、逆らう勇気のない蚤の心臓を持つ私は、こくこくと頷いたのだった。


 そういうわけで、今日はこのワンピースを着て行くわけだけど。

 本当は歩きやすいパンツ系が良かったんだけどなぁ。

 着替えて部屋から出ると、向かいの部屋から出てきた兄と鉢合わせた。日曜なのにこんな朝早くから起きてるなんて珍しい。しかも下はジーンズ腰穿き上は裸という、とてもワイルドなお姿。鍛え抜かれた美しい細マッチョを惜しげもなく晒していらっしゃる。眼福眼福。


「お兄ちゃん、おはよう」

「ん~真琴~、おはよう」


 兄は私を抱きしめると、頬にちゅっとキスをした。

 毎日のことで私は慣れてしまっているが、慣れていない読者のために言っておく。兄はシスコンである。

 どの程度かっていうと、出来もしない結婚を前提とした交際を申し込んでくるほどの重度だ。兄の将来…いや、私の将来が心配である。

 身を捩り、その逞しい腕から逃れた私は、上目遣いに背の高い兄の顔を睨んだ。兄は一瞬目を見開いて私を凝視し、ごくりと喉を鳴らして私の頬に手を添えようとしたが、何かを堪えるようにぐっと目を瞑った。

 どうしたんだろう?目にゴミでも入ったのかな?でもごめん。取ってあげてる時間の余裕はないよ。


「じゃあ、私急いでるから行くね!」


 そう言って階段へ向かって歩き始めると、後ろから兄が慌てて追いかけてきた。


「なんだ、今日はえつこちゃんと待ち合わせか?」

「ううん、今日はガンダルさんと二人で県外へ「はあ!?」」


 私が言い終わらないうちに兄が言葉を被せてきた。


「なんであいつと!?二人で県外って…」

「えっとね、コスプレのイベントに行くの!」


 コスプレ大会を想像し、緩るみきった笑顔でそう答えた。

 すると、いつのまにか私と並んで手を繋いだ兄が、階段を下りながら不機嫌そうにぼそりと呟いた。


「俺も行く」

「え…」

「俺も行く」


 二度言ったね、この人。


「いやいやいや。お兄ちゃんそういうキャラじゃないし。絶対コスプレのコの字程も興味ないでしょ!?」

「そんなことはない。お前に俺好みの服を着せて、あんな事やこんな事を妄想「ギャー!!もういいから!!行きたいのわかったから!!」」


 兄はド変態だった!


 まさかの赤裸々告白に、今度は私が兄の言葉に被せて叫んでいた。

 やっぱりこの人、血のつながりガン無視だよ!しかも今の、コスプレ関係なかったよね!?

 さりげなく手元に視線を移し、繋いでいた手の力を抜いて放そうと試みる。そんな努力もむなしく、気付いた兄に力を込めて繋ぎ直されました。指を絡めて。


 兄のシスコンが、末期のヤンデレに見えるのは気のせいだろうか?


「で。どこで待ち合わせ?」

「えっと、ガンダルさんが車で迎えに来てくれるの」

「…俺も一緒に乗って行く」


 半裸の兄が手をくいくいと引っ張り、階段の途中で立ち止まっていた私に歩くよう促した。


「あの…お兄ちゃん?」

「ん?」

「このまま出かけたりはしないよね?」

「え、行くよ。急いでるんだろ?」

「…忘れてるかもしれないから言うけど。服は?上半身裸だよ?」


 言うのと同時に階段を降りきった。


 その時、突然白い光が辺り一面を覆い尽くした。

 あまりの眩さに、開けていられなくて目を瞑る。体の周りに冷気を感じて体が少し震えた。

 何が起きたかわからず、心臓がどきどきしてパニックになりかけたけど、隣にいるはずの兄がぎゅっと手を強く握ってくる感覚にホッとし、今はその温もりがありがたかった。

 光が弱くなったのを瞼に感じ、そっと目を開く。もくもくとした煙のようなものが自分の体を包んでいた。


 ん?あれ?この感じ、前にもどこかで…


 そう思っていると、繋いでいた兄の手がビクリと動き、そのまま私を胸元へ引き寄せ抱き込んだ。驚いた私は顔を上げた。そこには、怒りに満ちた目で前を見据える兄の顔があった。


 忘れていたが、兄は怒ると大魔王だった。



◇◇◇◇◇◇


 柊要 18歳

 自他ともに認める重度のシスコン。

 異世界へ勇者として召喚された経験を持つ男子高校生。


 正面に立つ白いドレスを着た美少女に微笑む。

 彼女は薄っすらと赤く頬を染め、愛らしい瞳を潤ませながら、そっと俺の目を見つめてきた。

 俺は彼女に永遠の愛を誓い、その細い指に指輪をはめる。

 彼女もまた俺に永遠の愛を誓い、指輪をはめてくれた。

 互いの熱い視線を絡ませながら、俺は彼女の頬に手を添え、彼女は静かに目を閉じた。

 さあ、誓いのキスを…


 …。

 夢を見た。

 妹と結婚する夢だ。

 俺の瞳にはウエディングドレスを着た可憐な少女が映っていた。

 キスまであと少しというところで目が覚めた。

 今は自分の部屋の天井が目に映っている。


「はあ~。いいところだったのにな~」


 残念感丸出しで呟きながら、ベッドから降りた。

 高校三年生になって、休みの日は家で勉強することが多くなった。大学受験が控えているからだ。去年まで務めていた生徒会長の座を2年生に譲り、学校行事に煩わされることもなくなった。だが、妹と一緒に過ごす時間が減り、俺は今、妹欠乏症に陥っている。

 妹は休みの日になると大抵外出してしまう。俺は受験が終わるまでは勉強漬けだ。夢では全然足りない。現実で生身に触れて癒されたい。

 だからこの前、結婚を前提にした交際を妹に申し込んだ。そして断られた。妹と両親はドン引きしていた。俺は真剣なのに。


 着替えて自分の部屋を出ると、ちょうど向かいの部屋から妹が出てくるところだった。今日も朝から出掛けるらしく、彼女にとてもよく似合う可愛らしいワンピースを着て、肩からポーチを提げていた。

 俺の体に見惚れているのか、ほうっと小さくため息をつきながらうっとりとした表情をしている。艶めかしくてまずいことになりそうだ。


 おはようと声をかけられ、俺は「朝からついてる」と思いながら、妹を抱きしめ頬にキスをした。すると、妹は体を捩り、俺の腕から離れていった。離れ際に可愛らしい上目遣いで俺を睨むように見つめてきた時は、思わず夢の続きを実行しそうになったが、俺は耐えた。


 ああ、もっと妹を堪能したいのに。


 今日もえつこちゃんと出かけるのかと思ったら、あのクソ世界出身のガンダルという男と、二人で出かけると言い出した。

 なんであんな野郎と!?

 コスプレというイベントに行くらしく、頬を緩ませ可愛く微笑んでいた。俺は無性に腹が立った。気付いたら、「俺も行く」と口走っていた。勉強のことはどうでもいい。妹が俺以外の男と二人きりで出かけることが許せなかったのだ。

 更に聞くと、奴の車で行くと言うではないか。妹は警戒心のけの字も持っていないようだ。妹の指に自分の指を絡ませる俺が言うのもなんだが、危険すぎる!

 なので、俺も便乗することにした。


 妹はなぜか俺の上半身を気にしているようだが、俺は妹が無防備過ぎることのほうが心配だ。


 階段を降りきった時、それは突然やってきた。なんか以前にもこんな現象あったよな…と思って隣を見ると、妹が震えていた。手をぎゅっと強く握って安心させてやると、少し落ち着いたようだ。

 顔の前の煙が晴れて前方に目を凝らすと、良く知った光景が目に飛び込んできた。

 チッ。忌々しい。


 俺は妹を抱き寄せ警戒した。



◇◇◇◇◇◇


 ガンダル・モイスト 28歳

 元バブロス国宰相で、現在は日本のベンチャー企業社長 

 ヲタク仲間からは腹黒ドSと呼ばれている。


 今日はガールフレンドのマコトと一緒に、県外で行われるコスプレ大会に行く予定だ。

 マコトは、私がバブロス国の宰相をしている頃に知り合った異世界人だった。今は私がマコトの世界に来て、日本という国で暮らしている。

 前職では上司に恵まれなかったが、今は自分が組織のトップにいる。運命とは不思議なものだ。


 昨日はマコトとその親友エツコの三人で買い物に出かけた。その際、マコトに服をプレゼントした。男が女に服を送る理由は、次元を超えても全世界共通だった。当のマコトは気付いてないようだが、エツコは気付いていた。

 帰り際、にっこり笑ってマコトに必ず明日着てくるよう念押しすると、彼女はこくこくと頷いてくれた。私の後ろにいたエツコが小声で「さすがガンダル様。いい具合にどす黒いですね」と囁いた。


 俺はマコトが好きだ。

 包み隠さず、もう一度言う。

 マコトを愛している!

 

 最初は好感の持てるただの少女だったのが、こちらの世界で一緒に過ごすうちに、すごく愛おしい女性へと変わっていった。彼女は私のことを「とても趣味の合う友達」くらいにしか思っていないかもしれない。なので、今日は彼女に生涯の伴侶となってもらえるよう、ハッキリ申し込むつもりだ。その後は二人で甘い夜を…


 そんな妄想が暴走しかけた頃、車は彼女の家の前に到着した。

約束の時間の5分前だ。なにげなく彼女の家の窓を眺めていた時、それは起きた。自分はそれをよく知っている。かつて自分がバブロスの宰相をしていた頃におこなった、召喚儀式と同じ次元の歪みだ。

 まさか!

 急いで車から飛び出し、玄関の前まで駆けていき、扉を強く叩いた。

 マコト!!


 携帯している探知機で家の中を探るが反応は無かった。

 この世界からマコトの気配が消えたのがわかった。



◇◇◇◇◇◇


 なんかざわざわする。


 そう思って辺りを見渡す。もくもくした煙は消え去り、視界は良好だ。

 目の前には筋肉が引き締まった美しい腹筋、少し上には素敵な胸板、更に上には美しい兄の顔があった。とりあえず、すりすり。

 左を向くと、重厚な造りの大きな両開きの扉が見える。

 右を向くと、映画でよく見るお城の王の謁見の間のような…って、見知らぬどころかよく見知った室内の風景が広がってた!


「なにこのデジャブ!」


 すると、どこからか私の名前を呼ぶ声がした。


「マコト!」

「アリシア!?」


 バブロス国の王女、アリシアが居た。

 ああ!なんて可愛いお姫様なんだろう!


「マコト!」

「リカルド!?」


 バブロス国の騎士団長、リカルドが居た。

 わあ!なんて凛々しいんだろう!


「マコト!」

「セバスチャン!?」


 バブロス国の王女専属執事、セバスチャンが居た。

 もう!色気ダダ漏れだよ!


「マコト!」

「…??」


 バブロス国の名前をど忘れした王様も居た。

 あ、なんかしょげてる。


 懐かしい面々を見て笑顔を浮かべる私の隣で、兄がコホンと咳払いした。その瞬間、いつかのブリザード発動。

 どうして!?兄の胸をぺちぺち叩きながら静止を求める。


「お兄ちゃん止めて!なんで?どうしてなの!?」

「いや…なんとなく?」


 ノリでやったよ、この人!

「なんとなく」でブリザード発動しちゃう人だった!


 私が泣きそうにしているのを見て、ようやく止めてくれた。周りを見ると、室内にいた人全員が床にうずくまっていた。慌てて兄の腕から飛び出し、アリシアの元へ駆けて寄った。


「アリシア、大丈夫!?」

「はい…、だ、だいじょうぶ…です」


 ガタガタ震えるアリシアを抱きしめ、体を摩って温めてあげた。顔にほんのり赤みが差してきたのを見て安堵する。彼女はほうっとため息をついて、私の胸に顔を埋めてきた。

 くっ!たまらん!姫様可愛すぎる!!

 私は悶々としながら、いつまでも彼女の体を摩り続けたのだった。



◇◇◇◇◇◇


 バブロス国第一王女 アリシア・ニア・バブロス 17歳。

 可愛いものが大好きな、金髪縦ロールのお姫様。


 異世界から勇者を召喚する儀式を行ってから、もう1年が経ちました。

 こちらに召喚されてからすぐ、やんごとない事情であちらの世界へ戻ってしまわれたけれど、わたくしは一度も彼女のことを忘れたことはありません。

 彼女の名はマコト。


 艶のある黒髪に、くりくりとした愛らしい瞳。誰もが、女神か!と思うような美しい少女です。召喚された時の衝撃は凄まじいものでした。わたくしも、女神様が降臨されたのかと思いましたもの。

 びしょ濡れ真っ裸でしたけど。


 その後、彼女のお兄様でいらっしゃるカナメ様も召喚されたのですが、それはもう、さすがマコトのお兄様という感じの見目麗しいお方で。

 やはり、びしょ濡れ真っ裸でしたけど。


 わたくし、殿方の鍛え抜かれた肉体美をあんな間近で見たのは初めてでございます。しかも、あのような猛々しいもの…ゲフンゲフン。

 あら、いやですわ、わたくしとしたことが。うふふふふ。


 マコト達が元の世界へ戻った後しばらくして、ガンダルが宰相の地位を返上し、その足で彼女のいる世界へと旅立っていきました。

 わたくしも、王女という身分で無ければ、彼のようにこの世界を飛び出していたでしょう。残念ながら、わたくしは王の娘。しかも既に嫁ぐことが決まった身。


 せめてもう一度だけ、マコトに会いたい。


 日に日にその思いは強くなっていきました。

 どうしても諦められず、ある日わたくしは国王に、「わたくしの結婚式にマコトを招待したい」と申し出ました。すると王は、快く許可してくださいました。

 まさか本当に願いが叶うとは!


 そうして本日召喚の儀式を行い、再びマコトを呼び出すことに成功したのでございます!もやもやとした煙が晴れて姿を現したマコトは…上半身裸のカナメ様に抱かれておりました!

 室内にいた誰もが「まずい!お楽しみのところを邪魔してしまったのでは!?」と思ったに違いありません。

 案の定、空気を読まないわたくし達に激怒したのか、カナメ様が能力を発動してしまいました。しかし、吹雪はすぐに収まりました。しかも…

 氷りつくような攻撃を受けて床に蹲っていたわたくしを、マコトが介抱してくださったのです!彼女に体を摩られながら彼女の胸に顔を埋め…わたくしは昇天寸前でした!!


 そんな優しいマコトからは、とても良い匂いがしておりました。あとでこの匂いの成分を教えて頂こうと思います。


 それにしても。

 今度召喚する際は、先方へ事前にご連絡差し上げてからのほうが、宜しいのかもしれませんわね。



◇◇◇◇◇◇


 バブロス国王騎士 団長 リカルド・ハウゼン 23歳。

 凛々しいお顔の好青年。


 1年前、私はある一人の少女へ求婚を申し込んだ。

 彼女の名はマコト。

 彼女の兄の鬼のように鉄壁なガードにより、返事を聞く前に元居た世界へと戻って行ってしまった。もう会うことは叶わないと思いつつも、彼女への思いと面影を心に刻み、毎日を過ごしてきた。この1年、何度か縁談の話が持ち込まれたが、それも頑なに断っていた。

 彼女以外の女性と結婚するくらいなら、一生独身でいるほうがマシだ。


 1年経ったある日のこと。

 王女様が結婚式にマコトを招待するという噂を耳にした。王女様専属執事のセバスチャンに確かめたところ、本当の話らしい。しかも既に儀式の日程が決まっているという。

 心が高鳴った。最愛の少女がまたこの世界にやってくる!


 詳しい召喚日程を聞き出し、彼女の滞在期間中はすべて休暇が取れるように調整した。今度こそ、返事を聞かせてもらうまでは帰さない。


 召喚日当日。

 王の謁見の間には、いつもの面々が揃っていた。今回は特別にセバスチャンも居る。儀式が始まり、光と煙の見慣れた光景が室内に広がった。煙が徐々に消え去り、現れた人物を見て私は…愕然とした。

 マコトが、上半身裸のカナメ殿と抱き合っているではないか。しかも、なんか以前見た時より深くなっていないか?俺の気のせいか!?


 いやいや、二人は実の兄妹だという。

 うん。ないない。

 …。

 あってたまるか!!


 ようやく我に返った。

 毎回登場シーンに衝撃を受けるのは何故なのだろう。


 王女が彼女の名を呼ぶと、答えた。

 私も彼女の名を呼んだ。答えてくれた!

 セバスチャンも同様に。

 最後に王が名を呼ぶと、彼女は口を開けたまま固まった。王の名は忘れたらしい。


 再会に感動していると、カナメ殿がいきなり魔力を発動させた。室内はあっという間に猛吹雪になり、皆、床に蹲っている。一体、カナメ殿の何に障ったのだろうか。全くわからない。次第に吹雪は収まり、マコトが王女の元へ駆けていくのが見えた。どうやら血行を良くするため、体をマッサージしているようだ。王女の顔に生気が戻り、ホッと息をつく。私も自分の体を温めようと体を摩る。

 ふと王女の後ろを見ると、王が床に倒れていた。

 しまった!!


 この部屋には王を気遣うものが一人もいなかったのである。



◇◇◇◇◇◇


 バブロス国 第一王女専属執事 セバスチャン・ディモール 19歳

 色気ダダ漏れのイケメン。BL疑惑あり。


 前回召喚の儀を行ったときは身分のせいで、その瞬間に立ち会うことは出来ませんでした。

 今回は王女様がお取計らい下さったおかげで、私も立ち会うことが許されました。

 マコト様が召喚された際の出で立ちが衝撃的だったということですが、その時の様子は箝口令が敷かれているため、誰にも確認することはできません。しかし、今回は自分の目で確かめることが出来ます。どんなお姿で現れるのでしょう。とても楽しみです。

 あれから1年が経ちましたが、マコト様は私を覚えてくれているでしょうか。それだけが気がかりです。


 いよいよ儀式が始まりました。床に描かれた魔法陣から眩い白い光が放たれ、もくもくとした煙が立ち込めます。しばらくすると光は薄まり、煙も消えていきました。そこに人影が!


 ある意味衝撃的でした。

 半裸のカナメ様がマコト様を抱きすくめていたのです。確かお二人は実の兄妹のはず…。マコト様がカナメ様の胸に頬ずりをしているのを見た瞬間、私の中にある何か得体のしれない感情が蠢くのを感じました。


 あれを手に入れたい。

 自分の家の地下にある檻の中へ閉じ込めたい。

 鎖で繋ぎとめておきたい。


 そんな考えが頭に浮かび、私は自分が恐ろしくなりました。でもそれと同時に、そんなことを考え、想像しただけで恍惚とする自分もいるのです。

 私はよくない病にでもかかっているのでしょうか。


 茫然としていると、いつの間にか室内が猛吹雪になっており、とても立っていられなくなったので床に伏せました。すると、隣に立っていた厳つい顔の巨体の某大臣が、私に覆いかぶさりました。

 どうやら、頼りなく思われたようで、彼は私を守ってくれているようでした。私は感動し、少し潤んでしまった目を彼に向け、この吹雪では聞こえないであろう「有難うございます」という言葉を口を使って表し、微笑みました。

 彼の瞳は、この吹雪だというのに爛々と輝いていました。とても勇気のあるお方のようです。


 吹雪が収まり、私はアリシア様を探しました。立っていたであろう場所へ駆けつけると、すでにマコト様が王女様を介抱しているところでした。

 なんとお優しい方なのでしょう。

 介抱されているアリシア様は、なぜかマコト様の胸に顔を埋めて興奮しているご様子。そっとしておいたほうがよろしいですね。


 私は温かいお飲み物でも用意して、お嬢様方をお部屋でお待ちしていようと思います。



◇◇◇◇◇◇


 異世界にあるバブロス国へ、兄と共に二度目の召喚を果たしてから、今日で2日目。

 

 しかも、召喚された理由が「アリシアの結婚式に参加してほしい」だったなんて。嬉しいような迷惑なような、ちょっと複雑な気分だった。

 その結婚式は明後日だ。お城の中は忙しそうにバタバタしている。アリシアとゆっくりお話しできるのはお茶の時間や夕食の時間、就寝前だったりするので、それ以外は王都を散策することにした。もちろん、兄は始終一緒だ。

 以前、魔術師や冒険者が多く住んでいると聞いたことがあったので、「ギルド」というものが見てみたく、リカルドにお願いしてみた。


 そんなわけで、今日は王都で一番大きな「冒険者ギルド」へやって来たのである。


「うわ~!これがギルドか~」

「はい。王都で一番大きく、信用のあるギルドです。」


 しばらく休暇を取っているらしいリカルドは、いつもの騎士の制服ではなく、とても清潔感のあるシャツとパンツとジャケットという、好青年らしい恰好をしていた。

 なんとなく、いいとこのお坊ちゃん、という気がする。


 私と手を繋いでいる兄が何かに気付き、珍しそうに眺めながらリカルドに聞いた。


「あれは?」

「掲示板ですね。あそこの受付で受理されたものを、こうして依頼内容や報奨金額を紙に書いて張り出したり、仲間を集ったり。いろんな事を掲示しています」


 言われた方を見ると、確かに、大小様々な紙が壁一面に張り付けられていた。


「ほえ~。あ?字が読める!?」

「本当だ…」


 私と兄は顔を見合わせ驚いた。


 こちらの世界の文字が読めるとは。魔法も使えるし、やっぱり異世界人はチートになるのか。そう思いながら掲示板を見ていると、後ろからものすごい威圧感を感じた。恐る恐る振り向いてみると、高貴なオーラが滲み出た金髪碧眼の美丈夫が私を見下ろしていた。しかも、セバスチャンを上回るほどの色気を醸し出している。


 漏れてるどころか、全開放出だった!


「…」

「…」


 私と彼は、見つめあったまま無言であった。

 彼の喉がゴクリと鳴ったのが聞こえた。


「真琴?」


 右隣に立っていた兄が私の異変に気づいたらしく、手をぐいぐいと引っ張った。


「あ…うん。何でもない」


 私は兄の顔を見て微笑んだ。


 その途端、背後でぶわりと威圧が増した。動悸が激しくなり、足が震える。

 なんだこれ?すごく怖い!

 私は兄の手をぎゅっと握りしめ、恐怖に耐えた。

 その時、


「ゼル様!」


 左隣に立っていたリカルドが、誰かの名前を叫んだ。見ると、驚いた顔をしながら私の後ろを凝視していた。どうやら私の後ろに佇む御仁は、リカルドの知り合いのようだ。


「リカルドか。久しぶりだな」

「はい、ありがとうございます。ゼル様はいつお戻りに?」

「先ほど、な」

「そうでございましたか。アリシア様もさぞお喜びになられることでしょう」

「そうか」

「はい。結婚式にはゼル様もご出席されるということで、首を長くしてご帰還をお待ちしておりましたので」

「では、あとで驚かしてやるか」


 なんかこの話ぶりから想像するに、この御仁はとても偉い人なのでは!?

 ど、どうしよう!なんか緊張してきた!

 私はそっとリカルドの顔を見た。リカルドは私に気付き、御仁を紹介した。


「マコト、カナメ殿。こちらはアリシア様の兄上で皇太子のゼル様です」

「ゼル様。こちらは異世界から来たマコトと、兄のカナメ殿です」


 皇太子きたこれ!

 威圧感ハンパないこの人、リアル王子様だった!


「は、はじめまして。マコトです」

「カナメです」


 私達はお辞儀した。それはそれは、王様に接する時より丁寧に対応したのである。

 この人は大物だ。現王をはるかに凌ぐ、偉大な王になるのだろう。本能でそう確信した。


「マコト、か」

「は、はひ!?」


 ぎゃっ!声裏返っちゃった!

 恥ずかしい…


「俺のものになれ」

「はい?」


 今なんて言った、この人。


「正室にしてやる。俺の傍に居れば、退屈しないぞ」


 正室って…妻か?妻にしようとしているのか!?


「あいにく、マコトは既に俺のものです」


 おいこら兄、何言った!?


「私もマコトに求婚しております」


 リカルド~!


「悪いが諦めろ。こいつは俺がもらう」


 ゼル様…。


 どうしてこうなった。

 三つ巴の中、私は体を小さくしながら「家に帰りたい!」と切に願うのであった。



◇◇◇◇◇◇


 バブロス国皇太子 ゼル・オ・バブロス 20歳。


 妹のアリシアが結婚することになった。

 明後日催される結婚式に出席すため、隣国ゴアへ留学していた俺はバブロス国へ帰還した。その足で、久しぶりの王都を楽しむ。

 10代の頃はよく城を抜け出し、王都一番の冒険者ギルドへ身分を偽って出入りしたものだ。掲示板に張り出された依頼を見ながら、いろんなことを学んだ気がする。冒険者になりたいと夢見たこともあった。だが、俺は皇太子。いずれは父の跡を継ぎ、この国を統べる王となる。だが、今はまだ…


 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか冒険者ギルドに辿り着いていた。思わず苦笑する。

 懐かしい匂いと雰囲気に浸りながら、ふと掲示板の方へ目を向けると、この世界では珍しい黒髪を持つ人間が2人も佇んでいた。

 ここからでは後姿しか見えないが、お互いの手を繋ぎあう姿はとても微笑ましく、仲の良い兄妹のように見えた。

 もう少し近くで見てみようと思い、俺はそっと、二人の後ろに忍び寄った。


 小さな体に艶々とした黒髪。話し声が聞こえるが、なんとも心地の良い声音だ。顔が見てみたくなり、「振り向け」と強く念じながら少女を威圧してみる。すると、少女の体がビクリと震え、静かにこちらを振り向いた。この世の者とは思えないほどの美少女だった。


 欲しい。


 ただ、そう思った。

 彼女は目を見開き、艶のある愛らしい瞳で俺を凝視している。俺も彼女を凝視した。

 お互い無言だった。今この場所には、二人しか存在していないかのような錯覚に陥るほど、他の音は聞こえてこなかった。聞こえるのは、彼女の小さな息遣いと俺の喉が鳴った音。


 右側に佇む男に声をかけられ、我に返った彼女がその男へ微笑むのが見えた。俺は嫉妬して更に彼女を威圧した。足が小刻みに震えているようだが、関係ない。


 俺を意識しろ。


 そう念じていると、左隣りにいる男に名前を呼ばれた。騎士団長のリカルドだった。どうやらこの黒髪二人は、彼の連れだったようだ。二人は異世界人の兄妹だという。

 マコト、か。その名前を味わうように口の中で何度も呟く。そして…


 俺のものになれ。


 彼女を口説いていた。


 悪いがカナメとリカルドには諦めてもらう。マコトは俺のものになるのだから。



◇◇◇◇◇◇


 本日晴天。絶好の結婚式日和となりました!


 二日前にギルドでリアル王子様と衝撃的な出会いを果たし、その場にいた三人の男から熱烈な求愛をされまくり、私のHPは0になりました。その後なぜかセバスチャンまで名乗りを上げて。

 もう、事あるごとに言い寄られ、付け回され続け、死ぬほど疲れました。そんな、死んだ魚の目のようになった私を、可愛い可愛いアリシアが癒してくださった。もうマジ天使!

 そんなこんなで、あっという間にアリシアの結婚式当日。


 綺麗なウェディングドレスを身に着け佇むアリシアの姿は、とても「清く美しく気高い王女様」で、感動して思わず泣いてしまいました。お相手の方は公爵様だそうで、とても穏やかで優しい感じの青年です。絶対二人には幸せになってほしい!

 そう思いながら、自分と手を繋いでいる隣の男を見る。驚いた。意外にも瞳を潤ませているではないか。私はなんだか面映ゆくなりながらも、声をかける。


「いい結婚式だったね」

「そうだな」

「いつか私も愛する人と結婚式を挙げるんだろうね」

「…」

「そしたら、ちゃんと祝福してくれる?」

「…」

「ね、聞いてる?」


 潤んだ瞳で無言で新郎新婦を見つめていた兄は、ゆっくりと私の方へ向き直り、空いた片方の手をそっと私の頬にあてて、覗き込むように目を見つめてきた。


「あたりまえだろ」

「お兄ちゃん!」


 ついにシスコン卒業か!?


 私は嬉しくて兄に抱き着いた。兄は優しく私の頭を撫でてから、くいっと顎を持ち上げこう言った。


「真琴は俺と結婚するんだから。祝福するにきまってるだろ」


 留年だった!


 ああ。うん。そうきたか~。

 兄のキスを頬に受けながら、私はいろいろ諦めたのだった。



◇◇◇◇◇◇


 アリシアの結婚式の後、すぐ元の世界に戻って来た。


 あっちの世界の一日は、こちらの世界で30分も経たないくらい。今回は4日間向こうにいたけど、帰ってみれば、まだ2時間くらいしか経っていなかった。

 忘れていたガンダルさんへ電話すると、安心したような優しい声で、お帰りと言ってくれた。今回の召喚についていろいろ聞かれた。


 アリシアの結婚式。

 兄、リカルド、ゼルの三つ巴戦。


 話を聞いていたガンダルさんが、突然「今、君の家の前にいる」と言った。私は急いで玄関へ駆けて行き、ドアを開けた。

 そこには、真っ赤なバラの花束を抱えたガンダルさんが立っていた。


「え?何?どうしたの、ガンダルさん!?」

「マコト。私と結婚してください」


 え?えええええぇぇ!?


「本当は今日、夕食の時に言うつもりだったのですが、悠長に構えている場合ではないと判断しまして」

「け、け、結婚って!」

「愛しています、マコト」


 なんで異世界人はみんな、こんなに熱烈なの!?

 しかも結婚願望が強いし!


「おい、ガンダル。よく聞け!」

「お兄ちゃん!」

「真琴を本当に愛しているのは俺だけだ!真琴は俺と結婚する!」


 あ~。うん。居たね。

 異世界人じゃなくても居たよ、熱烈な人。

 結婚願望強いし。


 兄よ、留年なんかしてないで、とっととシスコン卒業してくれ!


 私の受難はまだまだ続くのでした。



END




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