14、「そして、異変は集結する」
side Kirisame Marisa
──竹林(屋敷内)
「あら、騒がしく、珍しいお客様なこと」
奥に見えた女性がゆっくりと、こちらを振り返った。
その女性は、綺麗な黒いストレートの髪を持ち、整った容姿を持っていた。
一言で表すのなら、美しい。まるで、その言葉を具現化したかのような姿だ。
「貴女が親玉ね。あれは本物の月で間違いないわよね?」
「そう、地上から見た本物の満月よ。
それにしても、人間と妖怪......。今日は珍しい客が来ているわね」
「......魔理沙、あの満月は危ないわ」
敵が霊夢に向かって話している最中、アリスが横に来てそう囁いた。
満月が危ない? 一体どういうことだ?
確かに、妖怪は満月の日に強くなるとか言うが......そういうことじゃないよな。
全く以て意味が分からないぜ。
「その顔を見る限り、信じてないのね」
「いや、信じてないっていうか、訳が分からない状態だぜ」
「確かに人間である魔理沙と霊夢は見ない方がいいですわ。
まぁ、ここに居るだけでも危険なのは変わりありませんけど」
いつから聞いていたのか、紫が横から入ってそう言った。
「えぇ、紫の言う通り。普通の人間なら五分ともたないわ。
魔理沙。貴女には見えないかもしれないけど......。
今、大量に満月光線が降り注いでいるわ」
「変な名前をつけないの! 今は、月本来の力が甦っているの。
穢れのない月は、穢れのない地上を妖しく照らす。この光は貴き月の民ですら忘れた太古の記憶なのよ」
「そんなことはどうでもいいけど。で、あんた誰?」
「......私は輝夜。貴女が先に名乗ってないのに、質問してきた事には怒らない」
ん......なんかデジャヴだな。
まぁ、私は名乗らないで倒すのが当たり前だから、本当に気のせいだとは思うが。
「その程度でこの巫女に恩を着せようなんてのは甘いわよ?」
「まぁ、霊夢だしな。十に対して一を返す奴だぜ? こいつは」
「味方だというのに失礼な奴らね」
「誰もそんなこと言ってないから安心して。最近、永琳が屋敷の外に出させてくれないのよ。
だから、たまのお客様は大切に扱うわ」
たまのお客様? どういう意味だ?
......あ、弾幕の弾か。納得納得。
「弾のお客様?」
霊夢も同じように疑問に思っていたのか、ボソッと口に出していた。
「弾幕馬鹿みたいな言い方しないの」
「......魔理沙。貴女も同じこと考えていたでしょ?」
「なっ!? か、考えてないぜっ!」
「ふーん、顔が真っ赤になってるわよ」
「こ、これは! そ、その......」
「はぁ......本当に騒がしいお客様だこと」
会話の内容に呆れたのか、輝夜は軽くため息を付いてそう言った。
「いい? 人間に宿るは儚い霊。その人間が住むのは大きな球。
そして、貴き民が住むのは......後ろに見える狂おしい珠」
「あぁ、なるほどな。だったら私達が避けるのは──」
「──美しい弾、ね」
「人の台詞を取らないの。こっちの方は怒るわよ。それと、結局は弾幕馬鹿じゃない」
「......まぁ、弾幕馬鹿だし?」
なんだか恥ずかしくなってきたぜ......。
ま、まぁ、さっきよりかはマシだが......。
「それに、先が読める台詞は言わなくても伝わるからいいの。
なんせ、私達は弾のお客様だもんねぇ」
「あら、開き直ったわね」
「......みたいですね」
「せっかちねぇ。で、巫女に魔法使いに魔女に妖怪。
私は四人を相手にすればいいのかしら?」
輝夜は私達、一人一人の顔を見て、そう言った。
そう言えば、どうするんだ?
まぁ、四人でもいいが、流石に卑怯だよな......。
「え? そうだけど?」
「って、忘れてたぜ。こいつが卑怯ってことを」
「あら、失礼ね。異変は早く終わらした方がいいでしょう?」
「まぁ、お前の言うことにも一律あるが......」
「せめて二人、かしら? 霊夢。魔理沙と組んであの暇を持て余してそうなお姫様を倒しなさい」
......ん? 私が霊夢と組んで、だと?
まぁ、私は別にいいんだけど......霊夢と組むのって、『春が来ない異変』以来だな。
あの時の味方だった奴も、敵だった奴も、今は味方として協力してくれてるんだよな。
......これも霊夢の人望、ってやつか? それとも......。
「はぁ? どうして私なのよ? あんたでいいじゃない」
「異変を解決するのは人間の役目、でしょ?」
「こういう時だけ都合の良いことを言って......」
「決まったみたいね。それじゃ、見せてあげるわ。
本当の月が持つ毒気を! それと、私からの美しき──」
「あ、ちょっと待って」
「って、折角決まりそうな所で水をさす〜」
輝夜の台詞を遮るように霊夢がそう言った。
──まぁ、空気を読まないのはいつものことなんだが。
「別に、私はもう戦う理由が無いのよ? ほら、もう満月は元に戻ったみたいだし」
「あいにく、本物の満月はここでしか見えないよ」
「だってさ、霊夢。どうするの?」
「なんだってー!
って、言うほどでもないわね。面倒事が増えたけど。さっ、魔理沙。少しの間、手伝いなさい」
「......ん、あぁ、分かったぜ」
ゆっくりと、私と霊夢は輝夜へと近付いていく。
逆に、アリスと紫は離れていく。
これで、ようやく長い長い夜は終わる。
そう思うと、体が緊張と興奮で震えてきた。
「あら、魔理沙? 震えてるわよ。怖いの?」
「ふっ、武者震いだぜ!」
「さぁ、そろそろ心の準備はできたかしら?」
「できてない」
「もちろんできた、って霊夢!?」
「今まで、何人もの人間が敗れ去っていった五つの難題。
貴方達には幾つ解けるかしら?」
「あ、始めるんだな」
輝夜のその言葉を合図に、私達と輝夜は互いに距離を取った──
── 一ヶ月後 博麗神社
「ふぁ〜......」
「今日も暇なのか?」
博麗神社へ飛んでいくと、神社には縁側に横になった霊夢がいた。
「暇じゃないわよ。境内の掃除があるし」
異変が終わってから一ヶ月もの月日が経った。
輝夜に勝った後、満月も元に戻り、みんな無事に帰れてハッピーエンドに終わった。
まぁ、もう一人の敵を相手にしていた吸血鬼と幽霊組は大変だったみたいだが。
「掃除なら私が終わらせといたわよ」
「あら、ありがとう」
「ん、咲夜? どうしてここに居るんだ?」
「魔理沙? 貴女も来ていたのね」
「あ、魔理沙も来たの? 後一人分作らないとダメなのかぁ......」
「......今日は宴会か何かか?」
私が見ていた神社の中から、咲夜と妖夢がひょこっと顔を出していた。
珍しいことに、従者らしくエプロン姿だった。
──まぁ、咲夜はいつもメイド姿だからか、珍しい気がしないが。
「いえ、休みを貰ったので暇つぶしに」
「咲夜と同じく」
「ついでに夕食を作ってもらってるの。魔理沙も食べる?」
「お前が作ってるわけじゃないのに簡単に言うな......。
まぁ、お願いするが」
この四人が集まると、一ヶ月前の異変を思い出すな。
あの時は妖怪連中も一緒に居たが。
「あ、五人目のを追加よろしくねー」
「はいはい。......って、輝夜さん!?」
「えっ!? あ、貴女、一体いつから中に......」
神社の奥の方から出てきたのは、先の異変を起こした一人である、輝夜だった。
中から出てきたはずなのに、誰も知らない様子......あの吸血鬼の転移魔法のようなものでも使ったのか?
「つい先程から」
「......要件は何?」
「あら、話が早いわね。肝試し、やってみない?」
肝試し? それ、私達がやるようなことじゃないと思うんだが......。
妖怪退治を専門にしている霊夢と私に、妖怪や亡霊に仕えている咲夜と妖夢だぞ?
この中の誰が怖が──
「き、肝試し!? わ、私怖いのダメなんだけど......」
「......あぁ、居たわ。お前、半人半霊じゃないのかよ......」
「それに、幽々子に仕えているし、他の亡霊の管理もしてるでしょ?」
「お、驚かされるのはダメなのよ......」
まさか、妖夢にこんな弱点があるとは......。
宴会の時に使えそうだな。覚えておくか。
「まぁ、一人で行かす訳じゃないから安心なさい。
異変の時に来た二人、もしくは三人で来なさい。場所は時間になったら教えるわ」
「え? 要するに、四組で行くの? それなら安心──」
「あ、一組ずつよ。後の組はここで待つ、ってことで」
「......い、嫌な予感しかしない。主に幽々子様のせいで......」
あぁ、確かに幽々子は人を驚かすのが好きだもんな。
宴会ではいつもレナを驚かせて、レミリアに注意されてる気がするし。
「だ、誰か変わってくれない?」
「あ、メンバーの変更は禁止ね。面白そうだから」
「えぇ!?」
「色々と災難だな、妖夢は」
「で、いつなの? 日によっては、私は参加できないわよ?」
いや、咲夜がそう言ってもレミリアは、面白そうだから、って言ってやると思うけどな。
私の方は......まぁ、アリスなら説得すれば一緒に行ってくれるよな。
あいつ、なんだかんだ言って最終的に協力してくれるし。
「今日の夜中、丑三つ時。もう七時間も無いかしら?」
「なら、大丈夫そうね。問題はレナ様が怖がって来ない可能性も......」
「あいつは姉が行くとなれば、絶対に来るでしょ。
問題は紫よ。あいつ、何処に居るか分からないから」
「確かにそうだな。......夕食を食べ終わったら、各自、相方を探しに行くとするか」
「えぇ、そうしましょうか」
そう言って、霊夢は再び縁側で横になり、咲夜と妖夢は食事の支度を再開した。
「さて、どんな料理が出てくるのかしら。楽しみねー」
「あぁ、本当にここで食べるんだな」
「家で食べるのも飽きてきたから」
たわいもない会話をしながら、私達は夕食が出るのを待った────




