第3話『超人ハルカ②』 - The Incredible Halka
※当作品は発行元である株式会社ポニーキャニオン(ぽにきゃんBOOKS)に許諾のもと、掲載を行っております。
「…ひどい目に遭いましたわ……」
近くのブティックに入った私。さっきギフトを局所的に解放したことで、お洋服の腕の部分がビリビリに破れてしまった。ということで、いま代わりの服を買いにきている。
「…はぁ……一点もののお気に入りでしたのに…」
でも、男の子が無事でよかった。そう思えば、あの服だって無駄に破れたわけじゃないわよね。でも、悠美ちゃんにはちょっと注意してあげなきゃ。危うく二次被害がでるところでしたわ。
ブティックで新しいお洋服を買った私は、それはそれで機嫌をなおしてちょっとウキウキしながらまた街を歩く。ブロードウェイ通りはオシャレなお店が軒を連ねてるから、歩いてるだけでも景色が楽しい。と、思ってたら…。
「うわ~ん泥棒~!ポーチ返して~!」
…………この声は…。
走って逃げるひったくり犯。それをものすごく遅い足で追いかけてるのは…。
「クマさんのポーチ返して~!うわ~ん」
やっぱりリンちゃんですわね!でも、ひったくり被害に遭うヒロインは初めて見ましたわ!
…とりあえずどうしようかしら。
というか、おかしいですわね、リンちゃんはたしかすごく強いヒロインだって聞いてたのだけれど…? とりあえず、いま犯人は裏路地に入ったから、私がこっち側から入ればちょうど対面する形になりますわね。
…私は、犯人が私の潜む裏路地の影を通り過ぎるのを待つ。10秒くらい待つと、予想通り犯人は私の隠れている細い路地を通り過ぎようとした!
「えい!」
バッコーン!
バットをスイングするような形で、足下にあったデッキブラシで犯人の胴を思い切り打つ。すると犯人は、いま走ってきた路地の方に数メートル飛んで、その場に倒れて気絶したようだった。
「…ふぅ」
とりあえず、これでいいかしら。
「あ!犯人さん!ポーチ返して!…あれ…?気絶してる!?具合悪いの…?」
「………」
「あ、あの、大丈夫ですか?救急車呼ばなくちゃ…!携帯は…あ、そうだ、ポーチの中!」
オロオロしてるリンちゃん。
でも、こういう場合は警察を呼ぶだけでいいんですのよ!
……なんだか、今日は行く先々で何かに巻き込まれますわね…。もう家に帰って静かにしていましょ…。
そしてヒロインハウスに戻る道中。気を取り直して好きな歌の鼻歌を歌いながら、ゆっくり歩いて帰る。
そうですわよね、こういう日だってたまにはあるものですわ。
「ねぇ、あれなにかしら」
「さぁ?でも物騒ね…警察に連絡した方がいいかしら?」
…?
買い物帰りの奥さん達が、立ち話をしながらカレッジタウンの方を見ている。その視線の先にあるのは…。
空を貫くレーザービームの一閃。
それが、何秒かに一度、強烈な高出力で放たれている。
「あの、すいません、あれ別に事件性はないものですので、警察には連絡しないでもらえますか…?」
「え?そうなの?でもビックリするから、知り合いならちゃんと言っといてね」
「はい、すいません…」
…私は、熱線が飛んでる建物まで走った。そして、その先にあったのは…。
「やっぱり、うちですわよね…」
亜衣ちゃんが一生懸命、ギフトでパンに絵を描く練習をしている。先日の2回目のキッチンの壁崩壊の後、うちのキッチンはオープンテラスのような屋外キッチンに改装されている。そこで練習を繰り返す亜衣ちゃん。まだ完全に制御できるわけではないらしい超熱視線【ヒートアイ】は、たまに失敗して火力の強いレーザービームを空に走らせていた。
「あ、おかえりなさいハルカさん。…あれ?どうしたんですか?疲れてるようですけど」
「ううん、なんでもありませんわ。ちょっと色々あって…」
「ビックリするくらいゲッソリしてますよ…?」
「うん、大丈夫だから、ちょっとお部屋で休んでますわね」
私は、とりあえず自分の部屋に入る。
「…そうだ、亜衣ちゃん、あのね、キッチンテラスでギフトを使う時は、出来るだけ外に撃たないように気をつけてね」
「あ、はい。大丈夫です!」
「…………うん、お願いね」
*~*~*~*~*~*~*
夕飯時、リンちゃんのオムライスを食べながら話すみんな。
「そうだリン、今日はひったくり捕まえたんだって?超すごいなぁ!」
「えっと、そうじゃなくて、泥棒さんにあったんだけど、私は泥棒されただけで、えっと…」
「大丈夫だ、説明しなくてもわかってるぞ!」
「う、うん!そういうことなんだ。えへへ…」
「そういえば私も今日は大活躍したんだ!火事で燃えてるホテルを消火したんだよ!」
「へぇ、悠美にしてはまともな活動じゃない」
「すごいね~悠美ちゃん!」
「みんな超喜んでたよ!いやぁいいことしたなぁ~」
いや、みんなあのあと大変だったんだから!
という言葉をなんとかして飲み込んで、何事もなかった顔をする私。
「あれ?ハルカ、その服新しいやつだね。可愛いな!」
「あら、どうもありがとう♪」
「でもあたしは、今朝ハルカが着てたやつの方が好きだな、あれの方が似合ってるよ!」
「まぁ、悠美ちゃんったら」
……誰のせいで台無しになったと思ってるんですの!?
という言葉をなんとかして飲み込んで、何事もなかった顔をする私。
「亜衣ちゃん、デザートにまたホットケーキ焼くから、今日もやってみようよ♪」
「ええ、もうバッチリよ。ほとんど百発百中でコントロールできるようになったわ」
……バッチリ!?百発百中!?
…………という言葉をなんとかして飲み込んで、何事もなかった顔をする私。
さすがに、最後の方はちょっと笑顔がひきつってたかもしれませんわね…。
はぁ……。ギフト能力者と一緒に暮らすって、思ってたよりずっと大変なんですのね。みんな凄くいい子だし、ホントにその部分については何の文句もないんだけれど、ちょっと体がもつか心配になってきましたわ…。
*~*~*~*~*~*~*
「どう?似合う?」
「似合うけどムカつくわね」
「え~!サングラスかけたら大体みんなこういう感じじゃん!」
ゴールデンウィーク最終日。
私たちは、ブロードウェイ通りでショッピングを楽しんでいる。
「お昼どうする?」
「あそこは?ピザタートル」
「あーいいね。でもこの時間たぶん結構並ぶっぽいなぁ」
「私はなんでもいいよぉ~♪」
「私も、みんなが食べたいものでいいですわ」
「じゃあとりあえず行ってみようか」
「あ、ごめんみんな、私そこの銀行でお金ちょっとおろしてくるね!」
「私も、そういえば下ろしておかないと」
近くの銀行のATMでお金を下ろす私とリンちゃん。
「……あれ?どうしたのかしら、遅いですわね。なにをやっているのかしら」
5分経っても、リンちゃんは銀行からなかなか出てこない。するとそのとき、銀行の中から一発の銃声が聞こえた…!
「うわ~ん助けて~!」
ええ!?まさか、また!?
昨日といい今日といい、リンちゃんって犯罪に遭いやすい体質なんですの!?
銀行の中を除いてみると、目出し帽をかぶったいかにもな強盗に捕まっているリンちゃん。
た、大変だわ…みんなに知らせなきゃ…!
私は、ピザ屋さんへ向かおうとしてる二人のもとに駆けていった。
「大変…!みんな、リンちゃんが…」
「ん?どうしたハルカ。…え?リンが強盗の人質?ハッハッハ!じゃあ大丈夫だよ」
え?
「そうね、リンが人質ならもう事件は解決したようなものだわ」
え?ちょ…ちょっと…?
「いや、そうじゃなくて、二人は知らないかもしれないけどあの子、実は全然強くなくて、昨日も…」
「うん、だから大丈夫だって」
いや、大丈夫じゃないですわ!
「そうだ、人の目がそっちに集中してるうちにピザ屋並んでおこうか」
「いいアイデアね、リンに場所伝えるのどうする?」
まずいですわ。どうやら二人とも、本当はリンちゃんが強くないってことを知らないみたい。
「じゃあハルカ、先に並んでるからあとでリンと一緒にピザ屋きてね」
「ちょ…ちょっと…!」
ああ!どう説明すればいいんですの!
「…いっちゃいましたわ…」
どうしましょう、放っておくわけにもいきませんわよね。
…………仕方ありませんわ。
私は、近場で一番人通りの少ない非常階段を探して、その踊り場で準備をする。
「…またあの姿になるんですのね…」
とはいえ、考えている場合ではありませんわね。相手が銀行強盗となると、きっと鉄砲を持っている。っていうことは、完全なマイティマッスルにならなきゃ銃弾を防げない。
怪力系最強のギフト『男前十万馬力【マッスルベルト】』。これを発揮する前に私は、とりあえず服を脱いで近くの人目につかないところに隠す。いざという時に備えて常に下に着てるインナーは、伸縮性の高い特殊なスーパースーツ。このスーツを着ていないと、あの姿になった時に服が破れて色々あれなことになってしまうので、私はいつもこれを下着として着用している。スポーツブラとスパッツみたいなデザインだけど、男前十万馬力【マッスルベルト】を発揮するとこのスーツが体に合わせて伸縮して、パツパツのウエットスーツみたいになる。
スーパースーツだけの、スポーツジムで運動してる人みたいな姿になった私は、マイティマッスルと呼ばれているそのマスクをかぶる。
「準備完了ですわ」
一見、凄い不審者っぽい私。でもこれでOK。
そして私は大きく息を吸い込んで、ギフト『男前十万馬力【マッスルベルト】』を発揮する…!
*~*~*~*~*~*~*
「うわああん恐いよぉ~!」
「おい、そのガキ黙らせろ!」
「全員動くんじゃねぇぞ。そこの銀行員、金庫の金をこの袋に詰めろ。早くしろ!」
「通報しようなんて思うんじゃねぇぞ。怪しい動きをしたやつはその場で撃つからな」
緊迫感の漂う事件現場。犯人は複数人いるみたいですわね。全部で4人かしら。
銀行員の人たちはみんな壁際に立たされて、両手を首の後ろにまわしてる。銀行の外からじゃ全部は見えないけど、一触即発の危険なムードが伝わってくる。
犯人に冷静な判断をさせちゃダメですわね。やるなら一気にいって一瞬で片を付けなきゃ。
「へへ、よぉしみんな聞き分けがいいじゃねぇか。どんどん詰めろ」
「"あ"あ"あ"あ"あ"んこわいよぉ~~~!」
「おい、うるせぇぞ!」
「…っ……グス……」
リンちゃん、かわいそうに…あんなに泣いて。大丈夫、いま助けにいきますわ…!
「よし、袋をこっちによこせ。いいぞ、みんな動くなよ」
機を見計らって私は、物々しい雰囲気を見守る他のお客さんの群れの真ん中を歩く。
ざわっ!
「おい、あれ…!」
「まさか!あの緑色の雄々しき肉体美は…」
「謎の覆面ヒーロー、マイティマッスル!」
「マイティマッスルだ!」
「頼んだぞマイティマッスル!」
…さぁ、いきますわよ!
*~*~*~*~*~*~*
「…おい、なんか外が騒がしくねぇか?」
「気のせいじゃねぇか?外にはなにもいねぇぞ?」
犯人達は、ガラス窓から外の様子を見る。でも、そっちじゃありませんわ。
ミシミシ…
「ん?なんだこの音?」
バカァアアアアアアアアアアン!
「うわぁなんだ!?」
「壁を突き破って!?ええ!?」
「うわあああでけぇ!なんだお前!」
…この姿になると少し天井が低い。
私は、壁を破壊しながらぬぅっと入り込む形で犯人達のいる銀行内部に姿を現した。
思惑通り、予想外の登場の仕方に、犯人達はみんなパニックになっている。
「ひぃいいいい!なんだこいつは!?」
銀行員さんは全員無事ですわね、リンちゃんも無事みたい。よしっ!
「わぁ~!マイティマッスルだ!助けてマイティマッスル!」
「お、おい!てめぇ何モンだ!近寄ったら人質を撃つぞ!」
グニャアアア!
「へ?」
強靭な脚力を使い一瞬で距離をつめた私は、まるで粘土を曲げるかのようにリンちゃんに向けられてる銃口を犯人の方に曲げ、そしてもう一度犯人の方を見た。
「うわぁああああ!」
パパパパパパ!
強盗の仲間が私の背中を撃ってくる。痛いですわね!もう!
マッスルベルトによって守られた私の鋼鉄の背筋は、その弾をすべてはじき返していた。
でもやっぱり地味に痛いですわ!
リンちゃんを捕まえていた犯人をむんずと掴み上げ、仲間達の方に投げる!
「うおわぁああああ!」
「なんだよこいつバケモンじゃねぇか!」
…バケモノって言わないで!知ってますけど!
私は、あとずさりする犯人達の足を捕まえ、片手に二本ずつ、両手で合計4本の犯人の足を掴み、4人を全力でジャイアントスイングした!
「でたぁあ!マイティジャイアントスイングだぁ!」
「ぎゃあああああああああああああああ!」
いつのまにか大歓声に包まれている事件現場。そしてクライマックス!どう考えても抵抗できないくらい犯人を回した後、少し手加減をしつつ放り投げる!壁に激突して完全にのびきった銀行強盗は、まとめてその場でしっかり縄でしばって取り押さえられた!
「ワァアアアアアアアア!」
「すげぇ!さすがマイティマッスルだ!」
「キャーーーーーーーマイティマッスルー!」
「おい、写真とれ写真!」
あ、写真はちょっとやめて!
「うわぁー!ありがとうマイティマッスル!マイティマッスルだ!うわぁ~!」
リンちゃんがピョンピョンとびながらハシャいでいる。よかった、無事に済んで。
私は、大きな手でリンちゃんの頭をガサガサと撫でると、一目散にその場を後にした。
*~*~*~*~*~*~*
「お、きたきた、ちょうど次があたしたちの順番だよ~」
本当にピザ屋さんの前で順番待ちをしていた悠美ちゃんと亜衣ちゃん。
私はあのあとすぐ元の姿に戻って、リンちゃんと合流してここに来た。
「お疲れリン。今回はどんな感じだったの?」
テーブル席に座った私たちは、さっきの話をする。
「うん!すごいんだよ!今日はね、マイティマッスルが助けてくれたんだぁ!」
「マイティマッスルが!?すごいじゃない、今日はツイてるわねリン♪」
「うん!ラッキーだねぇ♪頭撫でてくれたんだ!壁をバーンって突き破って入ってきたの!」
いや、リンちゃん、強盗の人質にとられてラッキーってことはないんじゃないかしら?
「もう、みんな、そんなのんきなこと言ってていいんですの?もうちょっとで危ないところだったんだから」
私は、わかりやすく少し怒った声色でみんなに注意を促す。
「そうか、ハルカはリンの能力っていうか、性質のことあんま知らないんだっけ。リンは、何があっても絶対周りに助けられる未知の力を持ってるんだ」
「え?」
なにそれ、どういうことですの?
「リンはこの能力(?)で、100件以上の事件を解決してるんですよ」
ええええ!?
「そ、そうなの、す、すごいですわね…」
…たしかに、こんなに頼りないはずのリンちゃんなのに、活動歴だけでいったらなぜか活躍はいっぱいしてたみたいなのよね。…でも、まさかそんなでたらめな話だったなんて…。
「でも悠美、今回の場合マイティマッスルがこなかったらどうなってのかしらね」
「あれだろ、たぶん銀行員の誰かが勇気を振り絞ってなんとかしてたんじゃないか?」
「ああ、間違いないわね。それだわ」
私、無駄変身!?
「マイティマッスル、すっごい大きかったよ~♪」
……なんだか、頭が痛くなってきましたわ…。
「また会えないかなぁ~。どうやったら会えるのかなぁ?」
「そうだな、じゃあいまからもう一回銀行強盗に襲われてみるってのはどうだ?」
「あ、そうだね!悠美ちゃん名案だね~♪」
…もう勘弁して!
という言葉を飲み込んで、私はニコニコとみんなを見守りながら紅茶を飲んだ。
TO BE CONTINUED!!
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