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スーパーヒロイン学園  作者: 仰木日向
スーパーヒロイン学園
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第2話『誰も知らない亜衣の悩み②』 - Nobody Knows the Trouble Ai've Seen

※当作品は発行元である株式会社ポニーキャニオン(ぽにきゃんBOOKS)に許諾のもと、掲載を行っております。

具体的には、みんなが私の目を見なくなった。別に私のことが嫌いとか、いじめてるとか、そういうのじゃないのは伝わってきたんだけど、みんな、普通に楽しく話してる時も、無意識か意識的にか、私の目を見ようとしない。周りで私のビームを見てきた友達は、それがどれくらい危ないものかを知っている。だからみんな、私とは目を合わせないようにした。それが、ちょっと寂しかったなぁ。

 

 一番ショックだったのは、その時に初恋した男の子がいて、その子のことを見てたらうっかりその子の制服を焦がしちゃったこと。みんなに注目されて、あと、私がその子のことずっと見てる=好きだってのもバレたし、なんかもう恥ずかしくて死にたくなったのをよく覚えてる。それでまぁやっぱり、その初恋も別に発展することなく終わっちゃったんだけど。


 その時に言われて一番キツかったのは、その男の子から言われた『ごめんだけど、あんまり見ないでくれ』だった。もちろん、他意はないってわかるけど、やっぱり辛かったな。でも、仕方ないわよね。目からビームが出る女の子にずっと見られてるなんて、ずっとスナイパーに命を狙われてるようなもんだもの。


「…悠美は、ギフトが原因で困ったことってある?」


 ホームセンターで買ったコンクリート板(重さ1t)を指の上にのせて回したり、ポーンと投げたりしながら車道と歩道の間の出っ張りの上を歩いてる悠美は、少し考えてから答えた。


「んー、ない」


 …まぁ、悠美ならそう言うと思ったけど。


「でも、あたしには、それが『困ったこと』なんだよな」

「え?」


 どういう意味かしら。


「…たとえばさ、テレビゲームってあるじゃん。この場合RPGがわかりやすいかな。ああいうゲームをプレイする時に、もし最初からレベル100で、持ってる武器とかも最強だったら、どうだと思う?」


 どうって…。


「それは、えっと…楽勝…? …あ、でも、ただ話を読んで進めるだけになるだろうし、ずっとやってたらすぐ飽きるかもしれないわね」

「そう、そのとおりなんだ」


 …………?


「生まれつき最強なんて、超おもしろくないよ。自慢じゃないけどあたし、努力っぽいことってやったことないんだ。一応、苦手かもしれないと思ったことをやってみたこともあるんだけど、出来ちゃうんだよ。なにをやってもそうで、だからもう毎日毎日、超退屈でさ、なんかもうどうでもいいやって感じ」


 ………なるほど、そういうことね。


「せっかくすごい能力なのに、難しいものね」

「比較するから凄いような気がするだけだよ。あたし、自分のことを凄いと思ったことなんて一度もないんだ。自分の苦手だったことを出来るようになった人の方が、ずっとすごいし尊敬するよ」


 悠美は笑いながら話してるけど、それってたぶん、人にはわからない孤独があるんじゃないかしら。やっぱり、悠美は悠美で、私は私でそれぞれ、ギフトが原因の悩みがある。でも、それと付き合っていくのもギフトを持って生まれた人の運命なのかもしれないわね。


「ところで、なんでそんなこと聞いたんだ?」

「え?」

「亜衣もなんか、ギフトのことで悩んでるのか?」

「ええ。えっと、ううん、別に、私のは大したことじゃないから」


 さっき、みんなが私の目を見てくれないって言ったけど、ひとつだけ例外がある。それは悠美。悠美は、私の目を見て、もうしつこいくらい顔を覗き込んで話してくれる。それは、悠美が無敵星の加護【ダメージキャンセル】のギフトを持ってるからっていうのもあると思うけど、たとえばもしそのギフトがなかったとして、きっと悠美は同じように私と接してくれたんじゃないかと思う。だから、高校生になって、ヒロインハウスで悠美と一緒に過ごすようになってからは、私はこのことでそれほど思い悩むことはなくなっていた。

 実は、ちょっと感謝してるのよ。本人には絶対言わないけど。



*~*~*~*~*~*~*


 ヒロインハウスに戻った私たちは、買ってきたコンクリート板を使って修繕にいそしんだ。…っていっても、これも悠美が手伝ってくれたからあっというまだったんだけどね。


「さすが、なにをやっても完璧って言うだけはあるわね…」


 悠美の手伝ってくれた壁修理は、ほとんど元取りどころか、むしろちょっとかっこよくなったくらいだった。


「ヒロインハウスの修繕はもうこれで何十回目かわからないからな、あたしに任せりゃざっとこんなもんだよ!」


 それは、褒めていいことなのかしら…?


「まぁ!素敵ね♪もう壁を直してくれたんですの?ありがとう亜衣ちゃん、悠美ちゃん」

「おうハルカ、今回の壁は亜衣が奮発して買った分厚いコンクリート板だからな、あたしが本気を出さないかぎりぶっ壊れることはないと思うよ!」

「うふふ、じゃあ本気は出さないでね♪」


 やんわりと注意をうながすハルカさん。


「…でも、壁のないキッチンも開放的で素敵でしたわね。今度壊れた時は、オープンテラスに改装しようかしら♪」

「あ、それ超いいな!じゃあ今度はそうしよう!」

「いや、壊れるの前提で考えるのやめてよ…」


 一応、結構頑張って修繕したんだし…。


「あら、それもそうですわね、ふふ♪」


 このおおらかな大家さんだから、悠美みたいな子でも大丈夫なんだろうな。普通、こんな壊し方したらすぐ追い出されそうなものだけど。


「なんていうか、いつもホントにすいません…」


 

 ―――夜。

 私は、ちょっと一人で考えてる。


 悠美は、無敵の星があるから私の超熱視線でダメージを受けることはない。だからこそ、私も悠美も、お互いに気兼ねなく顔を見て話せる。けど、リンやハルカさんは私のことをどう思ってるんだろう。もしかしたら、無理して私と目を合わせてるんじゃないかしら。つい、悠美と話す感覚でみんなと話してたけど、これじゃダメだわ。二人に恐怖を与えながら生活することになる前に、私がちゃんと気をつけなきゃ…。


*~*~*~*~*~*~*


 翌朝、日曜日。

 今日は、バスターポリスに慣れていないリンを連れて街を案内する日だった。公認ヒロインじゃないと任務携帯【ミッションベル】は貰えないし、私たちの見回りする範囲はあくまでカレッジタウン周辺くらいだけど、カレッジタウンで行動するにしても地理を把握しておかないとやりにくい。私とリンは、特に人通りの多い場所を順番に歩いて、その場所と雰囲気を覚えることにした。


《渇いた体を強くする。アクアマグナムのスポーツドリンクは、これだ。エナジーレジェンド ~最高のパフォーマンスを飲み干せ~ 提供・バスタードリンク》


 街角の大型ビジョンに映ってるのは、人気ヒーローの出演しているコマーシャル。結構都会にあるヒロインハウスは、歩いて数分でそれなりに栄えた場所に出ることが出来る。


「ブロードウェイ通りってすぐ近くなんだね~!おしゃれなお店とかレストランいっぱい!ねっ!亜衣ちゃん!」


 楽しそうに喋りかけるリン。ついうっかりリンの顔を見そうになってしまいつつ、私は別の方を見て答える。


「そうね、ここは歴史も深いけど新しいものも最先端で取り入れるから、常に人通りも文化も動いてるのよね。裏路地に入ったら、昔っぽい面影を感じる渋い建物が多かったりもするわ」


 バスターポリスの街並は、都市開発の際に景観を守ることに配慮していたおかげで、結構古めかしい建物なんかも残ってたりする。ヒロインハウスに備え付けられてる大通り側に面した屋外階段なんかもその一つで、古いミュージカル映画なんかで見るようなクラシカルな雰囲気を感じさせる。まぁ、5階建ての建物なのにエレベーターもないなんて正直不便だけど、このあたりに住む人はその不便さも含めて楽しんでるみたい。


「そうだ、スーパーマーケットの場所いっぱい覚えなきゃ♪」

「リンは料理が好きなのよね。一番近いのはさっき通り過ぎたスーパーライフで、もう少し歩いたら大型量販店のメガセイブがあったりするわ」

「圧力鍋とかも売ってるかな?」

「ええ、わからないけど、大きいお店だし多分売ってるんじゃない?」


 話しかけられるたび、リンがすごいこっちを見てるのがわかる。


「…郵便局と銀行はいまのストリートの先ね」

「あ、クレープ屋さん!ねぇねぇ、クレープ食べようよ!」

「え?ええ、そうね」


 …………。

 クレープを食べながらベンチに座る私とリン。

 ちなみに、今日悠美はどこかに出かけてる。あれでも実はA級ヒロインでヒーローライセンスも持ってる悠美は、数人しかいないバスターポリス政府公認の十代ヒーローチーム『バスターティーンズ』の一人だったりする。普段はだらしない悠美だけど、これについてはどうやら結構真面目にやってるみたい。まぁ、他のヒーローやヒロインに迷惑かけながらやってそうな気もするけど。


「…ね、ねぇ…亜衣ちゃん、怒ってる…?」


 え?


「怒ってないわよ?なんで?」


 そう言いながら、リンの顔を見そうになるのを私はこらえた。

 ああ、これね!


「…だって…亜衣ちゃんずっとつまんなそうだし、私の方見てくれないし…昨日のこと怒ってるのかなって…」


「怒ってない怒ってない!それに、昨日のことは全部間違いなく私のせいじゃない。ちょっとね、これにはわけがあって…えーっと、どう言えばいいのかしら…」


 そうよね、こんな回りくどいやり方じゃなくて、やっぱりもう本人に直接そう伝えた方がわかりやすいわよね。自然にそういう感じに出来たらと思ったけど、そうもいかないのね。


「…そうね、ちゃんと話した方がいいわね」

「ど、どうしたの亜衣ちゃん…?」


 ベンチに並ぶ私とリン。私は地面に目をやり、リンの顔は見ないまま話を続ける。


「リン、私のギフトみて、どう思った?」

「え?亜衣ちゃんのギフト?」

「うん。目から出る超高熱のレーザービーム」

「すごいよね!かっこいいと思う!」


 ……。


「…私ね、ずっと前のことだけど『こっち見ないでくれ』って言われたことがあるの」

「ええ!?そんなのひどいよ!」

「ううん、ひどくない。ひどくないのよ。だって、それは当然のことだから」


 そう、あれは仕方ないことなんだから。


「それって、亜衣ちゃんの目は危ないから…っていうこと?」

「そうね、そういうことよ」

「…………」

「でも亜衣ちゃん、人を狙ったこととかないんでしょ?だったらそんなのあんまりだよ!」

「そうかもね。でも、やっぱり銃口を向けられるのは誰だって恐いわ」

「だからって、そんなの亜衣ちゃんが可哀想だよ!なんにも悪いことしてないのに!」

「…何にも悪いことしてない、っていうわけじゃないわ。本人がどんなつもりでも、人に恐怖を与える存在は、やっぱりそれだけで悪いんだと思う」

「…そんなの…」


 息を吸い込んで、出来るだけ明るく振る舞って、私は言う。


「…だから、これからはリンも私とは目を合わせないでね。私も気をつけるから」

「………」


 リンの視線を感じる。

 目を合わせないでって言ってるじゃない。

 やめなさいよ。


「…ねぇ、話聞いてた?」

「うん。でも、それじゃ亜衣ちゃん、寂しくない?」


 なによ…。


「別に、平気よ。いつものことだし」

「………ホントに?」


 なんなのよ。やめてよ。


「…………」


 寂しいかどうかなんて、そんなにまっすぐに聞かないでよ。

 寂しいに決まってるじゃない。

 バカ。


「…だってそんなの変だよ。亜衣ちゃんのせいじゃないのに」 

「………うるさいわね…!誰のせいとか、そういうこと言ってるんじゃないわ!」


 ズバン!


「わぁ!?」


 …私は、なんの前触れもなく目の前に転がっていた空き缶を超熱視線【ヒートアイ】で撃ち抜いた。 そして乱暴にリンの両肩を掴み、正面に向かい合って、しっかりと目を見つめながら、もう一度言う。


「リン、私のギフトみて、どう思う?」


 私は鋭い目つきで、いま弾を放ったばかりの、まだ熱のある"銃口"をリンに向けた。

 驚きながらリンは、そんな私の瞳を見つめ返す。

 私の言っていることがどういう意味か、これでわかったでしょ。


 …リンは、ただ黙って見つめ返していた。

 10秒か、20秒か、もっと長かったかもしれない。

 リンの瞳には、いささかの拒絶もなかった。


 ―――耐えられなくなったのは私の方だった。私は、リンの肩を掴んだまま、頭を垂れて呟く。


「…………やめてよ…」


 じゃあ私は、どうすればいいのよ…。


 「亜衣ちゃん、まつ毛ながいね!いいなぁ」

「…え?」


 リンの口から出た言葉は、突拍子もない一言だった。


「…何言ってんのよ。まじめに答えなさいよ」

「え、えっと…ギフトのこと? …亜衣ちゃんのギフト、やっぱりちっとも恐くないよ」

「…そんなわけないでしょ」

「だって、亜衣ちゃんがそんなことするはずないし…」

「………」

「だから、別に今まで通りでいいんじゃないかな…?」


 当然のように私を信じきっているリンを見ていると、私が何に悩んでいたのかが、少しわからなくなった。

 けど、私が欲しかったのは、この言葉だったのかもしれない。単純だけど普通言えないその言葉を、私は、誰かに言って欲しかったんだと思う。


「……ひどいことしてごめん……。ありがとう……」


 私は、あやうく泣いてしまいそうな顔を誤摩化しながら、リンの目を見て、そう言った。



*~*~*~*~*~*~*


「リン!ちょっと来て!」


 家に帰ってから私は、パンを大量に買ってきて、そして、そのパンの表面に文字を焼き込む練習を一日中した。昨日は失敗したけど、集中すればちゃんと出来る!慎重にコントロールして、一番良く出来た食パンの白い生地には、私の描いたあんまり上手くないネコの絵が描いてあった。


「うわぁすごい!やったね亜衣ちゃん!」

「もっと練習すれば焦げの濃さも変えられるかもしれないわ」

「うん!すっごく可愛いね!このカエルさん!」


 …ネコなんだけどね!


「うん!ありがとうリン!」

「ねぇねぇ、クマさん描いて!クマさん!」

「あ、そうね、クマね…やってみるわ!」


 食パンをお皿にのせて、距離は2mくらい離れて。近づき過ぎると線が太くなっちゃうのよね。よし、温度はこれくらいかしら。クマね。クマってどんな感じだったかしら。でも、これは失敗出来ないわね。クマって結構色濃いわよね?ってことはちょっと強めの方がいいかしら。よ、よし!


「よし、いくわよ」


 私は、机の上に置いた四角い食パンめがけて、ヒートアイを放つ!


 ズバァアアアアアアアアアアアアアン!


 あれ!?


 私の目から放たれた{3000℃の超高熱線↑強調点}は、周りにちょっとした蜃気楼を作るくらいの強烈なレーザービームとなり、食パンを蒸発させ、直したばっかりのキッチンの壁を再びきれいさっぱり吹き飛ばした。


 パラパラと天井からチリが落ち、外がバッチリ見える。地上5階から見るバスターポリスの夜景は、今夜もキレイだった。


「あ…え…えっと……」


 リンと私は、呆然としながら顔を見合わせていた。


「…えーっと、リン、つかぬことを聞くけど、私のギフトを見て、どう思った?」


「え、えっと、い、いいんじゃないかな…!?」


TO BE CONTINUED!!


当作品は毎日朝7時更新です!

全国書店にて第1巻好評発売中!

また、スペシャルボイスドラマもニコニコ動画にて無料公開中です!

http://ch.nicovideo.jp/superheroineacademy

熊瀬川リン:三森すずこ

生田目亜依:内田真礼

超野悠美:諏訪彩花

剛力ハルカ:早見沙織

和迩黒子:竹達彩奈

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