第2話『誰も知らない亜衣の悩み①』 - Nobody Knows the Trouble Ai've Seen
※当作品は発行元である株式会社ポニーキャニオン(ぽにきゃんBOOKS)に許諾のもと、掲載を行っております。
「…で、つまりどういうことだったんだ?」
ヒロインハウスに戻った私たち。まさか、こんなおかしな子が新しい同居人とは、ちょっと予想外だったわ。
「あの、私はその…事件に巻き込まれることが多くて…。それで、いつも怖い目に遭うんだけど、あんな風に周りの人が助けてくれることがよくあるんだ…」
「へぇ~。ところで、あの助けてくれたおじさんとかって知り合いなの?」
「ううん、知らない人」
「そ、そうか…なんていうか、すごい星のもとに生まれてるな…」
「にわかには信じられないわね…」
リンの話を聞くかぎり、どうやらいままでの100件以上の事件を解決っていうのも、なんだかんだでああいう感じで解決したものらしかった。解決したっていうか、ただ巻き込まれたっていうか。
「わ、私、その…ホントは悪い人捕まえたことないんだけど…警察呼ばなきゃって思って…それで呼んだらね、私じゃないって言ってるんだけど、いつも『手続きがややこしいから君の手柄ってことにするよ』って…」
…そしてそれが100件超、もうこれは、一つの能力と言ってもいいんじゃないかしら。
「なんていうか、新しいタイプのヒロインだな!」
ええ!?そんな一言で片付けるの!?
「ず、ずるくないかな…?」
「ずるくないずるくない!悔しかったら真似してみろって話だよ!それは間違いなくリンの才能っていうか運っていうか、なんかそういうのだ!胸を張っていいと思うぞ!」
「う、うん。えへへ、なんかちょっと安心したかも…」
…なんてわけのわからないヒロインなのかしら。ベアクローはまさかの無駄装備!?
…でも、まぁ、悠美の言うことも一理あるわね。それに、悪い子じゃないのは確かだし、この先ちょっとなんとなく不安は色々かなりものすごくあるけど、とりあえず一緒に生活してみればわりとなんとかなる気もしなくはないわね。
*~*~*~*~*~*~*
「お夕飯出来たよ~♪」
大きめの共有キッチンから、肉じゃがの香ばしい匂い漂ってくる。料理が得意らしいリンは、すすんでみんなの夕飯を作っていた。
「おーっ!すごい、超おいしそうだなぁ!」
しゃべると同時に食べ始める悠美。
「ダメですわ悠美ちゃん、ちゃんとみんなが揃ってから食べなきゃ」
「ん、ああごめんごめん。ハルカも食べる?」
「あんた話聞いてないでしょ」
「あはは♪いまお皿出すね~♪」
4人で囲む食卓。いつもは私かハルカさんが夕飯を作ってたけど(もちろん悠美は絶対作らない)、リンは料理が大好きらしいので、リンを歓迎する日ではあるけど率先してみんなの夕飯を作ってくれている。
「リンちゃん、今日はお手柄だったみたいですわね」
「え、えっと…ははは…」
この人はハルカさん。ハルカさんはこのヒロインハウスの大家さんで、ヒロイン学園【アカデミー】の現役2年生でもある、つまり私達の先輩にあたる人。ハルカさんのお父さんは大手不動産会社『ヒーローズマンション』の社長さんで、ハルカさんはその社長令嬢でもある。かなり厳しい家だったらしくて、ハルカさんからは滲み出る生粋の気品オーラは本物中の本物。ゆるふわロングの似合うおしとやかな大人の女性の見本みたいな人で、私も憧れてたり。
「リンは超凄いんだぞハルカ!リンがいたらもう大体の事件は解決しそうな気がするよ!」
モゴモゴ食べながら喋る悠美。
「たしかに、ある意味では最強のヒロインかもしれないわね」
「まぁ!そうでしたの。すごいですわね、リンちゃん♪」
「え、エヘヘ…」
ハルカさんに褒められて、よくわかってない感じで照れるリン。
「…そういえば、ハルカさんは一緒にヒーロー活動しないんですか?」
「私はE級ヒロインですし、きっとみんなの邪魔になるから…。それに、私のギフトはあまり戦闘向きじゃないんですの」
「リン、ハルカのギフト能力は『子守唄【ララバイ】』ってやつなんだ。歌で眠らせる能力ね。だけど、E級の力じゃ相手を若干眠くさせるってくらいだからなぁ。ぶっちゃけ微妙なんだ」
「そういうことなの、ごめんなさい」
「い、いえ。素敵なギフト能力ですね。私もそういうのがよかったなぁ」
「確かに、人畜無害なイノセントベアのリンちゃんにベアクローは無用の長物だよな」
「あ、でも、ベアクローって便利なんだよ♪」
「便利?」
「うん!錆びたりしないし切れ味もいいから、お料理にぴったりなんだ♪」
「な…なるほど…?」
たしかに、さっき台所で作業してるリンを見てみたら、ニンジンやジャガイモを手際よくベアクローで切ってたっけ。花の形にニンジンを切ったり、器用だなぁと思って見てた。まぁ、戦闘系能力の中でかなり強力な部類のベアクロー的には、まさか自分がこんなことに使われるとは夢にも思っていなかっただろうけど(でも、肉じゃがはすごくおいしい)。
「リンちゃんはとっても優しい子ですのね♪」
おっとりした笑顔で、微笑ましくリンと話すハルカさん。なんていうか、この二人が並ぶと平和過ぎて眩しい。
「そういえば、今日の悠美ちゃん凄かったねぇ~!車を空中でバーンって止めたやつ!かっこよかったなぁ~!」
「ああ、あたしはとにかく超スゴいからな!」
「そういえば、悠美ちゃんのギフトってなんていうやつなの?」
「あたしの能力か?あたしの能力は凄いぞ!」
「…そうね、リン、そこのフライパンで思いっきり悠美の顔をひっぱたいてみて」
「えええ!?」
「おう!ドンとこい!」
「ええ~…やりたくないなぁ…」
「ほら、早く」
「う、うん…」
リンは、ひよこを触るような優しさで悠美の顔にフライパンの底をペチンと触れさせた。
「そうじゃないわリン、かして。こうよ」
バカァアアアアアアアン!
私の全力で振りきったフライパンは、悠美の顔を直撃すると同時に取っ手のところからグニャリと曲がった。しかし悠美の顔には傷どころか、当たった痕跡が何もない。
「どうだ、凄いだろ!」
「ど、どうなってるの…?」
「『無敵星の加護【ダメージキャンセル】』。悠美のギフト能力の一つよ」
「え?能力って一つじゃないの?」
「ああ。あたしは、全部で何個だっけ?5個くらいのギフトを持ってるマルチギフトなんだ」
「マルチギフト!?そんな人いるの!?」
取っ手の曲がったフライパンを素手で曲げて元に戻す悠美。これもマルチギフトの一つ。
「マルチギフトの名前は『選ばれし原初の英雄【オリジン・オブ・ザ・ヒーローズ】』。うちは家系が家系だからね」
そう、悠美は、かつて1938年にこの世に誕生し、そして伝説となった原初のヒーローの末裔。そのヒーローは空を飛び、怪力を持ち、壁を透視し、銃弾をはじく鋼の体を持っていた。悠美の先代っていうかお父さんにあたるヒーロー、スーパーダイナミックエクセレントスパークリングストロングマン(以下、スーパーダイナミックマン)もかなりの強さだったけど、それに加えて悠美には国語辞典を30分で全部暗記する超記憶能力や、1日やればピアノをプロ級に弾きこなせるようになる学習能力もあったりする。もうハッキリ言って存在自体が反則みたいな、そういう無敵のヒロインが悠美。でも、問題なのはその中身っていうか、人格っていうか。
最強過ぎて何をやってもすぐ出来てしまう悠美は、とにかくもうずっとダラダラしていた。口癖は『なんかおもしろいことない?』で、なにか初めてもすぐマスターしちゃってすぐ飽きる。テスト勉強なんかも、テスト開始5分前に全部覚えて全教科満点を取る感じ。やれば出来る、しかもすぐ出来てしまうという才能が生んでしまった超ぐーたら残念ダメヒロイン、それが悠美だった。
「ところでリン、あなたって、進路はどっち側なのかしら」
「え?進路?どっち側?」
「ヒーロー向きじゃないなら、アイドルヒーローとかか?」
「ええええ!?無理無理!無理だよ~!かわいくないし!歌もヘタクソだし…」
「そうか?結構いけると思うんだけどな。最近結構流行ってるじゃん、アイドルヒーローとかアイドルヒロイン」
「私はあの手の人達はなんとなく好きになれないのよね。せっかくギフトがあるんだから、人のために使えばいいのに」
「まぁ、それは別にいいんじゃない?アイドルだってみんなのために頑張ってるんだと思うよ」
「それに、アイドルヒーローが流行るのは世の中が平和だって証拠でもありますわね」
「でもまぁ、運動神経的にリンじゃ無理そうね。アイドルもかなりキツい仕事みたいだし」
「うん。私は、あの、まだハッキリ決めてるわけじゃないんだけど、お料理の先生とかになれたらいいなぁって思ってるんだ」
少し恥ずかしそうに、にっこりと笑って言うリン。その進路は、ビックリするくらいヒーローと関係がなかった。
*~*~*~*~*~*~*
食事を終えた私たちは、それぞれの部屋に戻ったり、リビングでくつろいだり。私とリンは洗いものをしながら、ちょっと雑談をしてみたり。
「ベアクローで料理って、便利そうね」
「うん、ベアクローって、全然刃がいたまないんだよ♪一本だけ出してくだものナイフとかにも出来るし、大根とかは3本爪でトントン切ったらすぐ終わっちゃうんだ♪」
「そういうギフトの使い方は、そういえばやったことなかったわ」
「亜衣ちゃんのギフトって、目からビームが出るやつだよね?」
「ええ。そういえば昼間に見せたわね」
「メガネつけたままでも平気なの?」
「このメガネは特注品だから、溶けないし、威力を増幅させたり狙いを正確にしたり出来るの」
「へぇ~!そんなことも出来るんだねぇ~」
「……私のギフトも、なにか面白い使い方って出来るかしら」
ギフトといえばヒーロー活動に使うもの、っていう感覚でずっといたから、リンのこの柔軟な感覚は私にはちょっと新鮮だった。ものを破壊する以外に、私のギフトにも使い道ってあったりするのかしら。
「お料理はいっぱい火を使うから、すごく良いと思うよ!炙り焼きとか、バーナーの代わりに使えたりするんじゃないかな?」
あら、ちょっとおもしろそうね。
「やってみようかしら…」
「あ、じゃあいまからホットケーキ作るね!ビームで焦げ目をつけて絵を描いたりとか、可愛いよね♪」
え、いきなりハードル高いわね。私、絵心には全然自信ないんだけど…。というか、超熱視線【ヒートアイ】で絵を描くっていうこと自体初めてのことだわ…。
そして、デザートにホットケーキを焼き始めるリン。アイスクリームものせるみたい。
すごいわね、この子がきたことでうちの台所事情には革命が起こりそうだわ。
ホットケーキ特有の香ばしい香りがキッチンに広がる。
「でーきた♪亜衣ちゃん!じゃあ試しに、ハート形の焦げ目つけてみて♪」
「よ、よーし…やってみるわ」
普通の人の目と少し違う、スナイパースコープの照準のような模様が入った私の瞳が、ジンジンと熱を帯びる。調整が難しいわね…大体100℃くらいかしら?
「よし、いくわよ」
私は、机の上に置いた丸いホットケーキめがけて、超熱視線【ヒートアイ】を放つ!
ズバァアアアアアアアアアアアアアン!
私の目から放たれた{3000℃の超高熱線↑強調点}は、周りにちょっとした蜃気楼を作るくらいの強烈なレーザービームとなり、ホットケーキを蒸発させ、キッチンの壁をきれいさっぱり吹き飛ばした。
パラパラと天井からチリが落ち、外がバッチリ見える。地上5階から見るバスターポリスの夜景は、ちょっとキレイだった。
「あ…え…えっと……」
「………し、しし、失敗しちゃったね! …び、びっくり!」
「…う、うん……」
リンと私は、なんとなく呆然としながら顔を見合わせていた。
「何の音ですの!?」
「あ、ハルカさん、あのね…」
「これは…!二人とも大丈夫!?一体なにがあったんですの…!?」
「その…亜衣ちゃんと一緒にホットケーキ作ってたんですけど、失敗してこうなりました…」
「ええ!?ホットケーキ作っててなんでこうなるの!?」
「あの、私がやりました。ごめんなさい…」
「…あら、今回は悠美ちゃんじゃなくて亜衣ちゃん?珍しいですわね、亜衣ちゃんがギフトでものを壊すなんて」
「…あの…ご…ごめんなさいハルカさん…」
「そう…。うん、大丈夫!気にしないで。きっとわざとじゃないんでしょうし」
「えっと…はい…ちゃんと直しますので…」
「それにしても凄いですわね…」
思わず見上げてしまう大きな穴を見て、改めてハルカさんが呟いた。
「すいません…」
*~*~*~*~*~*~*
私は、壊した壁の修繕のため、近所のホームセンターまで材料を買いに行った。
「…夜なのに付き合ってもらってごめんね悠美」
「今度パフェ奢って♪」
「はいはい、好きなの頼んで」
壁一面に大穴を開けたので、かなり大きな板がないと修繕出来ない。でも、この街ではこういうことはわりと頻繁にあるから、ホームセンターではそれ用の大きいコンクリート板とかを普通に売ってたりする。厚さ30cm、3m四方のもので重さは約1tくらい。私の力じゃ動かすことも出来ないので、今日は悠美にお願いして運んでもらっていた。
「しかしすごいな亜衣、私もよく家壊すけど、こんな大きいコンクリート板が要るような穴は滅多に開けないぞ」
「…そうよね」
「ちなみに、なにをしてたらあんな穴あいたんだ?ゴキブリ退治?」
「いや、そうじゃなくて、その…ホットケーキの表面に、ちょっと焦げ目をつけようと…その……はぁ……」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、ギフトでの失敗って、最近はあんまりなかったから、ちょっと色々考えちゃって…」
――私のギフトが発現したのは、小学校5年の時だった。
ほとんどの場合、ギフトの発現は第二次性徴の頃に起こるもので、私の時もそう。初めて目からビームが出た時のことはよく覚えてる。オモチャ屋さんで、どうしても欲しかったネコバニアファミリーの人形をずっと見てた私は、そのパッケージのプラスチックが溶けて穴が開いていくのを見た。不思議だな~と思ってたら、それは、まだその時はそれほど火力のなかった、私の目から出たビームによるものだった。
それを見たお母さんは大きな声を出して驚いてたけど、まぁ無理もないわよね。急に自分の子供が目からビームを出してたら、そりゃ普通はパニックになる。そのあとすぐに病院に連れて行かれて、診断の結果、私はA級素質のD級ギフト能力者だということがわかった(ちなみに、そのときの人形はいまでも私の部屋に飾ってある。パッケージを溶かしたから買い取らなきゃいけなかったっていうのもあるけど、お母さんが記念に買ってくれたらしい)。
それから私は、学校でちょっとした有名人になった。ギフトが発現した人はみんな一度は体験することではあるけど、特にビーム系ってみんなに人気のキャッチーな能力だし、私もちょっと得意になってギフトを使うようになっていた。ただ、私の能力って基本的に破壊光線だから、実際のところは使いどころってあんまりないのよね。
それでもたまに、別に意味もなく空き缶を狙ってビームを披露するっていうシーンもあった。友達が私を人に紹介する時は大体そうだったかな。あとは、男の子と遊んでる時に木を撃ってカブトムシを落としたりとか、川の中に撃って水しぶきが上がるのを見てハシャいだりとか。そうやって遊んでたのが小学生の時期。
わりと熱心にギフトを鍛えていた私は、中二になる頃にはC級ギフト、薄い金属を曲げるくらいの高熱レーザービーム『超熱視線【ヒートアイ】』を撃てるようになっていた。…瞳にスナイパースコープみたいな照準模様が浮かんできたのも、たしかそのくらいの時期だっけ。
その頃くらいからみんなの様子っていうか、態度がちょっと変わった。
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熊瀬川リン:三森すずこ
生田目亜依:内田真礼
超野悠美:諏訪彩花
剛力ハルカ:早見沙織
和迩黒子:竹達彩奈