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黄金の魂  作者: 向井司
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幽霊屋敷 7



 廊下へと出て、なお奥へと進むとそこは厨房であった。奥には、地下室へと続く階段が見える。

 ロスはその階段を指さしながら、真剣な瞳でヴァルを見上げた。


「あそこ、か?」


 こくりとロスが頷く。

 ヴァルはロスの頭に手を伸ばし、そのままぐいと自分の陰へと下がらせる。そして、背に負う長剣の柄に手を延ばし位置を確かめると、しっかりとした足取りで階段を下り始めた。

 地下室と言えど天井も意外と高く、上部には窓がいくつかあり、多少の光りは注ぎ込んでいる。

 ヴァルは注意深く歩を進め、それらの光ですらほとんど届かない、地下室の奥までたどり着いた。


「ここか……」


 地下室の隅にうずくまる人間らしきものに目を止め、ヴァルはつぶやく。

 それは、夜目のきくヴァルにはまるでミイラのように映った。

 背後で外套にしがみつくロスに手に力が入る。


「ロス。奴だな?」


 振り返らずとも、肯定の気配を感じ取り、ヴァルは形の良い唇をぺろりと嘗めた。

 呪術士は、生きているとは到底思えない風貌であったが、怨念に近い気配は地下室の中に厭と言うほど溢れ返っているいることからして、充分に注意すべき存在であることが推測される。


「とっとと、叩っ切ってやろーか……」


 ヴァルはすらりと長剣を、背に負う鞘から抜き放った。

 一般のものより明らかに身丈の長い幅広の刃は、薄暗い地下室の中でも冷ややかでぞっとするような光を一瞬放つ。

 《飛鷹剣》と言うのが、この剣の呼び名である。飛ぶ鷹さえ叩き落とすほどに身丈が長いので、そう呼ばれているのだ。勿論、それは誇張された言い方で、実際にこの剣で鷹を叩き落とした者などいはしない。


「さて……」


 飛鷹剣を構えたまま、ヴァルは身じろぎすらせぬ呪術士へと一歩踏み出した。

 その背後で、突然気が揺れる。


「なっ?」


 予測しないことにヴァルが振り返ると、気絶をさせたはずのフィカスが、がっちりと背後よりロスを抱え上げていた。


「フィカス!」


 冷ややかな瞳をヴァルへと向けるフィカスは、やはり正気とは言いがたい。

 ヴァルはロスを捕らえたフィカスを、忌ま忌ましげに睨みつけた。

 そんな鋭い視線を真っ向から平然と受け止め、フィカスは口を開く。


『剣を捨てろ。さもなくば、この子供の命はないぞ』


 けれど、フィカスの口より紡ぎ出されたその声は、到底フィカスのものとは思えぬ、しわがれた声であった。


「貴様、魔術士だな?」

『そうだ。わしの邪魔をする傭兵よ。あの男にいくら積まれた? いくら積まれたとて、わしには関係ないが、わしの邪魔をすることだけは、許せぬな』

「へえ。許せねーってんなら、どうするつもりだ?」

『決まっている。貴様を殺す』


 きっぱりと言い切るフィカスいや魔術士を、ヴァルは斜に構えて冷ややかに見やった。


「できんのか? 人に、しかもフィカスにしかとっ憑くしかできないお前に……オレを殺すなんてことが……」

『……仕方があるまい。貴様の魂は黄金だ。しかも純粋な……わしは、純粋な黄金には触れられぬ……』


 忌ま忌ましげにそう言った魔術士の言葉に、ヴァルは突然高らかに笑った。


「オレの魂が、黄金だって? こりゃ、いーや。紛いもんと、言われるよりは、随分とマシな話だぜ」


 げらげらと高らかに笑うヴァルを、魔術士は射殺さんばかりに睨みつけている。


『笑うのもそこまでだな。この子供の命が、貴様は惜しくはないのか?』


 魔術士の脅迫に、ヴァルはようよう笑いを押さえる。

 しかし、黒曜石の瞳はあくまで冷ややかであった。

 感情が見事に喪失、いや隠されてしまった白皙の面から、ヴァルの考えが想像できず、魔術士は内心で舌打ちをする。

 魔術士には、ヴァルの取るであろう次の行動が読めないのだ。全くと言って、良いほどに。

 そしてヴァルは、フィカスの腕の中で捕らわれているロスに視線を移し、ぶっきらぼうに口を開いた。


「……ロス。これくらいのことも、自分でどーにかできねぇような奴。オレはいらねーぜ?」


 その瞬間、緑の瞳が見開かれ、ロスは息を大きく吸い込み、フィカスの腕に勢いよく食いついた。


『ぐっ!』


 思いもよらぬロスの反撃に、魔術士は一瞬ひるむ。

 腕には、血がにじまんばかりの歯型がくっきりとついている。

 ロスはその瞬間、ふと緩んだフィカスの腕からすらりと抜けて、半歩ばかり先の床へと頭を抱えるようにしてうずくまった。

 それまでのロスの行動を、しかしヴァルは見ていない。黒曜石の瞳はただフィカスのみに注がれていたのだ。

 気配のみで、ロスの行動を察したヴァルは、フィカス目がけて勢いよく己の手にする剣を振り下ろした。ロスが、己の邪魔をするような行動などしないことを、ヴァルは知っていたし、信じてもいた。


『貴様。仲間を殺すのかっ!』


 魔術士が驚愕に満ちた声で叫ぶ。

 ヴァルの言動は魔術士にはまったく予測できないものであった。



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