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赤い双剣  作者: Nazzon
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第十一話:あの世からの来訪者

 前回おかしな終わり方をしてしまい、心からお詫び申し上げる。しかしながら、あの「穴穴穴…」と言う穴だらけの文章は事実を表しており、これから起こる事を忠実に表現している訳なので、悪しからず。

 

 ネンシーはおもいきって指先で穴を触れると、すぐに異変に気付いた。つまようじの先で開けたような大きさからいきなり指一本分入るまでに大きくなったし、何よりも、部屋のあちこちで気味悪い音を立てながら同じ大きさの穴が開き始めたのである。四方八方の壁の上が穴で埋め尽くされると、穴はその増殖を止めた。しかし、良かったことに、一連の出来事にミルキスは完全に気付くことも無かったし、穴が開いたのは壁の上だけ――つまり、天井と床を除く部分――だった。ネンシーはミルキスが相変わらず寝ている――気絶している――のを確認して、ひとまず安心した。しかし、その穴の正体が分からない以上、完全に安心する事は無かった。

 その時、ハレーが戻ってきた。彼は壁に空いたおびただしい数の穴に少々たじろいだが、次の瞬間、何故かネンシーに向かって微笑んだ。彼は水の入った桶やなにやらを床に置くと、壁の方に近づいた。

「これは何なの?」ネンシーは慌てて訊いた。「私はつい…」

 しかし、ハレーは手を挙げ身振りでネンシーを遮った。

「でも…」

「いいんじゃ」ハレーは穴から視線を外さず答えた。「たいした事ではない」

「でも、これは何なの?」

「これはな、」ハレーはようやく視線を穴だらけの壁から外した。「これはな、魔法の杖を保管するための穴じゃ」

 ネンシーはきょとんとした。

「びっくりするのも無理は無い」ハレーはネンシーの気持ちを察した。「普段目にしないものじゃからな」

「でも、何でこんな所に…」

「泥棒とか、やんちゃな子供から守るためじゃ」ハレーは言った。「普通の人間には気付かれない様に魔法がかかっとるんじゃ」

「でも私は気付いたわ」ネンシーは言った。「その椅子に座ってて見えたもの」

「"普通の人間"と言ったじゃろう」ハレーは微笑んだ。「お前は普通じゃないのかもしれない――もちろん、良い意味でじゃ」

「普通じゃない…」ネンシーは確かに自分には剣術の才能があると知っていたし、それは紛れも無く事実であった。しかし、その他にも何か才能があるかと言うと、確証が持てなかったのだ。

「まあ、良いじゃろう」ハレーは視線を壁に戻した。「元に戻そう」

「どうやって?」ネンシーは訊いた。「どうやって戻すの?」

「簡単じゃ。お前が最初に押した穴をもう一回押せばいいんじゃ」ハレーは自信満々に言った。しかし、ネンシーはそれに違和感を覚えたものの、気にしないことにした。実際、どうやって戻すか考える際に「最初の穴を押す」と言うアイデアが出てくるのが普通だし、ネンシーだってそうしただろう。しかし、ネンシーが違和感を覚えたのはそれではなく、そのハレーの「自信満々」な態度に対してである。この部屋にミルキスを運んでくる際もそうだったが、やたらとこの場所に詳しいのだって、ネンシーにとって不思議でならなかった。

 ネンシーは最初に押したボタンに指を触れた。すると、その穴はたちまち元の小ささに戻り、他の穴は消えてなくなった。まるで何事も起きなかったかのように。

 そして、二人はミルキスの方を見た。相変わらず、であった。

 

 彼らはタオルを水に浸け、絞るとそのままミルキスの頭にのせた。そして、ミルキスの上に布団を被せた。

「そう言えば、今は何時なの?」ネンシーは気になった。「地下だから、外が見えないわ」

「時計も無い」ハレーは困ったように言った。「どうやって時間を知るのじゃろう」

「感覚だ」突然声がした。二人はどこから声が来たか分からず、辺りを見回した。

「今は夜中を少し過ぎたくらいだ」また声がした。そこでようやく二人はそれがミルキスの声であると気が付いた。ミルキスは相変わらず目をつぶっていたが、青ざめていたのが直っており、さらに呼吸も普通になっていた。

「大丈夫?」ネンシーは心配して訊いた。

「全く問題は無い」ミルキスは呟いた。

「そう…良かったわ」ネンシーも呟いた。

 しかしハレーはずっと黙っていた。ネンシーはハレーをちらっと見た。

「ミルキス」ハレーはようやく喋りだした。「あれはわしではないのじゃ。分かってくれ」

「分かっている」ミルキスは目をつぶったままだった。「さっきは済まなかった」

「何の話?」ネンシーは二人が突然訳の分からないことを話し出したのにびっくりした。

「君にも言うべきだな」ミルキスは目を開けた。「良いだろう?ハレー」

「いいとも」ハレーはうなずいた。「良いじゃろう」

 

「かつて、」ミルキスは起き上がり、おもむろに話し出した。「"剣と魔術の闘争"という名の戦争があったんだ――五年間続いたんだが――多くの犠牲者が出たんだ」

「でも、私は何も知らないわ」ネンシーは不思議そうに訊いた。「そんなに重大なことなのに」

「そこじゃ」ハレーはミルキスの代わりに答えた。「そこが、重要な秘密なのじゃ」

「重要な秘密…?」

「そう」ミルキスが言った。「とっても重要なんだ。あの戦争はあまりにも悲惨だったんだ。だから、そういう嫌な記憶を封印することにしたんだ」

「封印?」そういう魔法用語に詳しくないネンシーは訊きかえした。

「"魔法の力で何かを押さえつける"という意味じゃ」ハレーが言った。

「しかし、あまりに多くの人々が戦争のことを知ってしまっていたんだ」ミルキスが後を継いだ。「君の言うとおり、重大なことだからな。だから、非常に大きな魔力が必要だったんだ」

 ネンシーはミルキスの話に聞き入っていた。

「そこで、王が決断を下したんだ」ミルキスは言った。「異界の魔物を召喚する決断をね」

「異界の魔物…?」ネンシーはぎくりとした。同じことをミルキスに言われたことがある…

「"奴"じゃ」ハレーはぼそっと言った。「"奴"をこの世に連れて来るように魔術師達に命令したんじゃ」

「親父のカルメンもその魔術師の一員だったのさ」ミルキスは言った。「そして、綿密に計画が立てられたんだ…何度も計画を練っては少しでも問題があったら最初からやり直したらしい」

「"奴"は強力な存在じゃからな」ハレーは解説した。「少しの間違いが命取りになるんじゃ」

「そして」ミルキスは言った。「作戦が決行されたんだ。巨大な魔方陣が描かれ、8つの方角に最高の魔術師が配置された――親父は東の方角に居たらしいが」ミルキスは思い出すように言った。「他の人は絶対に近寄れないように厳重な警備がされていたんだ。そして、真夜中に、月が空のてっぺんに現れたとき、魔術師達はいっせいに呪文を唱えだした。すると…」ミルキスはネンシーを見据えた。「真ん中から黒い物体が出現した。皆は毛むくじゃらで、やたらとのっぽな怪物を想像していたんだ。いや、実際、今まで召喚してきた魔物は皆そうだった」

「どういう奴だったの?」ネンシーは好奇心から訊いた。

「普通の人間大だった」ミルキスは真剣な表情で答えた。「しかも、毛むくじゃらじゃなかった。ただの真っ黒な影みたいなものだったんだ」

「影…?」

「そうさ、影だ」ミルキスは微笑した。「影が立体的になっただけだ。実に予想外だった。しかし、魔術師は気を緩めず、呪縛の呪文を唱え続けた。そして魔術師のリーダーが精神力で語りかけたんだ――しかし、"奴"はリーダーが送った精神力を簡単にはじき返した。そして、逆にリーダーに精神力で語りかけたんだ」ミルキスはハレーをちらっと見た。

「なんて語りかけたの?」ネンシーは訊いた。

「"神を信じるか?"」ミルキスは言った。「そしてリーダーは答えたんだ。"もちろん信じる"とな。すると影は高笑いしてこう言ったんだ――神は居るかもしれないし、居ないかも知れぬ。信じても良いし、信じなくても良いんだ!だがな――」

 ネンシーはぎくりとした。ハレーに言われたのと同じことだ。

「だがな――悪魔は確実に居るのだ!そこら辺の暗がりに、お前らの背後に、そして――」

 


ネンシー:今回も微妙な終わり方だったわね…


ハレー:それもそうじゃ。でも"奴"の来歴が分かっても、結局今"奴"がどこにいるのか分からんのじゃ!


ミルキス:そう言えば、"奴"は随分と顔を出していないな。でも次話ではもしかしたら…?

 あと、手紙を書いてくれた現さん、塚原宏樹さんには感謝するよ。他の皆も…


ネンシー:私にも!読ませて…って痛い!ハレー!何するのよ!


ハレー:お前にはまだ早い!!

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