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赤い双剣  作者: Nazzon
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第一話:世界最高決戦

 「パンパカパーン!」

 音楽が高らかに鳴り響き、観衆のざわめきが会場を埋め尽くしている。ここは、メッシルム王国最大のスタジアム、「メッシルム・スタジアム」である。観客席はゆうに5万席あるにもかかわらず、そのすべてを観衆が埋め尽くしており、立ち見している人も大勢いる。

 メッシルム王国はここ、ネイロム星最大の国であり、この星で最大のイベント―「世界最高決戦」の会場にもなっている。

 この大会は世界各国から選び抜かれた戦士達が参加しており、世界でもっとも注目度の高いイベントとなっている。そして、地球とは異なり、素手で戦う者は稀で、ほとんどが剣術や魔法など、多彩な技を用いて戦っている。

 そして、ルールはいたってシンプル。下の三つしかない。

その一:死亡するかギブアップするかで試合終了となり、相手の勝ちとなる。

その二:対戦は必ず1対1で行う。

その三:観客に危害を加えてはならない。

もちろん、ルール違反者は即失格となる。

 この大会で優勝すれば、国民的英雄として称えられ、兵役や納税の社会的義務の免除はもちろん、一流の生活をただで満喫することが可能。

 しかし、負けると死ぬか、運よく生き残っても深手を負うことは避けられない。

 そう、この大会は競技者の人生を掛けたものなのだ。


 

 練習用の人形にざっくりと切りつけ、それを蹴り飛ばす。人形は吹っ飛び、向かいの壁に激突した。

 彼女は肩で息をしながら二本の剣を鞘に収めた。百体目。

 彼女の名はネンシー。この大会を五連覇している、無敵のチャンピォンだ。この星でも地球と同じく男性の方が女性より運動能力に恵まれている訳だが、ネンシーはほとんどの男に力で勝っている。彼女が得意とする剣の前に生き残る者はいない。

 今回もそのはずだ。

 突然、スタッフが部屋に入ってきた。

 「ネンシー様、試合でございます。」

 彼女はほくそ笑んだ。私の時間だ。

 「分かった。すぐに向かう。」

 

 「さあ、やって参りました!我らが無敵の女王、ネンシーです!!」

 観衆からの轟くような歓声とともにネンシーは入場した。相手は男。身長はゆうに2メートルを越えており、逞しい両腕には一つずつ斧が握られていた。

 それに比べてネンシーは165センチしかなく、一見か細そうな両腕には剣握られている。この勝負は一見相手の男に分があると見られた。

 しかし今回は別だった。

 試合開始の合図とともに彼女は前に飛び出した。男は斧を振り回し、切りつけようとした。しかし彼女は両方の剣でその攻撃を受け流し、突然しゃがみこんだ。

 相手があっけにとられる一瞬の隙を彼女は見逃さなかった。彼女は飛び上がると一回転して男の後ろに着地してその後頭部にすかさず一方の剣を埋め、一方の剣で相手の肺に穴を開けた。

 あまりに一瞬の出来事だった。観客席を一瞬静寂が包み込んだ。

 ネンシーは構わず死体を後にした。観客がやっと呪縛から解き放たれ歓声を上げたころには、ネンシーは控え室への垂れ幕をくぐり抜けていた。

 

 控え室に戻ると、そこには彼女の助手のハレーが立っていた。ハレーは彼女の師匠であり、年を取り剣を振るえなくなっても彼女を支え続けた人だ。彼には人の才能や能力を見抜く力があり、彼女の対戦相手を見てはアドバイスを与えていた。彼自身もかつてこの「世界最高決戦」を連覇していたスーパースターであり、この大会を知り尽くしていた。ネンシーも彼を完全に信頼していたので、彼を見るなり嬉しそうに微笑んだ。

 「見てくれた?」

 「鮮やかじゃった。さすがわしの弟子じゃ。」ハレーも微笑み返した。

 「食事でもどう?」ちょうど昼時であったし、今日の試合もこれで終わりだ。

 「よかろう。」


 二人は一つのレストランに入った。席につくなり、ウエイターが来た。

 「何になさいましょうか?」

 「私はステーキ二枚にサラダ三皿、そして・・・」

 彼女の注文は一分間にも及んだ。

 「・・・以上ですか?」ウエイターは膨大な注文に戸惑いながら聞いた。

 「ええ、そうよ。」ネンシーは澄ました顔でそう答えた。

 ウエイターは戸惑いながらハレーを見た。

 「わしは、」彼は笑いをこらえながら言った。「コーヒーを一杯頼む。」

 「かしこまりました。」ウエイターは足早に去っていった。

 「相変わらずの大食家じゃな。」彼は笑いながら言った。「財布が空にならんよう気をつけなければならないな。」

 「私が払うわ。」ネンシーも笑っていた。「あなたの分もね。」

 「わしも若いころはそうじゃった。」彼は遠くを見るような目つきで言った。「本当に財布が空になって店を追い出されたこともあった。」

 ネンシーはそれを聞いて笑った。

 しかし、ハレーの表情が突然険しくなった。ネンシーも笑顔を引っ込めた。

 「大事な話がある。」ハレーは低い声で言った。「大会のことについてじゃ。」

 彼はネンシーをしっかりと見据え、こう言った。

 「強敵が現れた。」彼は一息置き、言葉を続けた。「カルメンを知ってるじゃろう。」

 ネンシーはうなずいた。カルメンは彼女がこの大会に参加しだす前まではこの大会を連覇していたスターであった。しかしネンシーが初めて参加した大会の直前に謎の死を遂げた。カルメンは元々謎多き男であり、大会のときも時には剣術、時には魔術、一度は全身武装した男を素手で倒したこともあり、そのオールマイティーな戦いぶりは見るものを魅了した。彼は試合の時に仮面をつけることでも有名であり、彼の顔を実際に見た者も少なく葬式だって顔を仮面で隠しながら行われた位だ。

 ネンシーも幼いころ彼の試合を見てあこがれたものだった。

 「あいつにせがれがいることも知っているじゃろう。」ハレーは続けた。

 「ええ。」ネンシーは唾を飲んだ。

 「ミルキスという名じゃ。」彼の次の言葉はネンシーにも予測がついた。

 「やつが大会に参加している。」彼は言葉を終えた。

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