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一話目『ただの■人の話。』


 空には夜の帳が下りて、満点の星が輝いている。毎日見ているものだが、飽きが来ない素晴らしい夜空だ。

 そんな空の下で、私は二人の友達と焚き火を囲んでいた。

 焚き火から、パチパチと爆ぜる音がする。

 それはとても穏やかで、柔らかく温かな音だったから、私は目を細めて笑った。


「幸せそうな面してんな、ユウリ」


 声を掛けられ、焚き火に向けていた顔を上げる。ユウリは私の名前だ。ありがちで覚えやすい名前だと自負している。平平凡凡、特出している所など何一つない私にはぴったりの名前だ。


 そんな私を呼んだのは、何年か前に知り合ったドゥンケルハイト君だ。

 私とは違い、名前が長い上に呼び辛いので、ドン君と呼んでいる。呼ぶ度に、「なんか間抜けな響きだよな……」とちょっと遠い目をされてしまうが、そんな事はない。大物の風格を持つ彼には似合ってると思う。


 しかしドン君は何度見てもハンサムだなぁ。

 艶艶の黒い長髪が似合う男は、滅多に居るもんじゃない。白い肌も病的に見えず、ただ似合うなぁと云う感想しかわかないし。肌白いから軟弱な印象を持たれそうなんだけど、彼は身長は高くて意外とガッシリしてるんだよな。ずるい。パーフェクトハンサムじゃないか。

 まぁその、頭から生えた山羊のような大きな角と、ほぼ黒で統一された服と真っ黒なロングマントは如何なものかと毎回思う。もろ悪役な格好はどうなのよ。もっと明るい服の色着なさいよ。

 そんな人を威圧する服装でもカッコいいから美形はズルいね。


「……俺の顔に何かついてる?」

「いやぁ、いつ見てもハンサムだなぁって」

「おだてんなよ、うぜぇな」


 そう云って、ドン君はつんとそっぽを向く。

 しかし私にはわかってる。

 その赤くなった頬は、焚き火に照らされたからではなく、血行がよくなったからだと云う事がな。

 彼は意外と照れ屋なのだった。


 私がうふふと照れ屋さんを眺めていると、逆隣りの右から溜め息が聞こえた。

 釣られるように視線を移す。


「ドンさんは男らしくて羨ましいです」


 もう一人の友人、リヒト君が肩を落としてしょんぼり気味に云った。


「まぁ、お前さんよりはな」


 リヒト君の言葉に、ドン君は苦笑い。


 リヒト君もこの前知り合った友達なのだが、十五歳と云う若さで旅をしているのだそうな。大変な使命を帯びた旅なもので、苦労が絶えないらしい。


 そんなリヒト君は、黒髪を短めに整えている少年だ。ドン君と違い、肌は健康的に焼けていて、それだけ聞くとやんちゃ少年のように思える。

 しかし顔の造形が中性的な美少年なのだ。下手をすると、男装していても女の子に見えかねない。

 今だって、使い込まれた大剣を背負って、所々傷付いた金属製のハーフメイルを着込んでいるのだけれど、シュンとした表情のせいで男の子だと断言出来ない状態になってる。


 頑張れリヒト君。

 ドン君への道は遠いな。


「てかお前、痩せたんじゃね?」

「え、わかります?」

「あ、本当だ。ちょっと手首細くない、これ?」


 力なく垂れていたリヒト君の手を取ると、この前会った時にはぴったりだったブレスレットが、少し大きく見えるのだ。

 慌てるほどの痩せ方ではないが、育ち盛りの男の子がこれは宜しくないだろう。


「なんか悩みでもあんのか?」

「えぇ、まぁ……」


 指先も冷えてるような気がしてさすってみる。すぐに温かくなったのでほっとして手を放すと、「あ」と小さく声があがった。

 うん? どうかした?


「あ、いえ。……あったかかったので、つい」

「寒いなら焚き火に当てろ」

「もう、わかってますよ」


 何故かプンと怒りながら、リヒト君は焚き火に手をかざす。

 いやいやそれよりも。


「悩みって、どうしたの」

「おう、そうだった。お前さんが悩むってなぁ、いつのも事だがよ。痩せるほどってのはちょいと棄ておけねぇな」

「はぁ、えぇとですね、お恥ずかしいのですが……」


 若干途惑いつつも、リヒト君は話し始めた。実は誰かに云いたくて堪らなかったんだろう。


「僕のパーティメンバーって、守護騎士のアウグストさんと魔法剣士のカタリーナさん、それと賢者のシャルロッテさんなんですが」

「豪華メンバーだよねぇ」

「賢者が居るってだけでやだね、俺は」

「はは……。あの、それでですね、どうも……」


 リヒト君は口をもにゅもにゅさせていたが、ドン君から「はよ云え」と云われ、溜め息混じりに続きを喋りだした。


「最近、カタリーナさんとシャルロッテさんの仲が、宜しくないんです……」

「女の喧嘩かよ。面倒だな」

「理由は分かってるの?」

「…………アウグストさんの取り合い、です」


 思わず、私とドン君は同時に「あぁー……」と間の抜けた声を上げてしまった。

 わっかりやすーい。


「俺が云うのもなんだが、あの野郎、面も中身もハンサムだよな」

「そうなんです。しかも職業上、防御力の低めなお二人を庇う事が多くって……」

「フラグたちまくりだぁ」

「僕の事すら庇ってくれるんです。とんだ紳士ですよ」

「前衛が前衛庇うってどうなんだよソレ……」

「それだけ大事に思われてるんでしょ? いい事だよ」

「アウグストさんは、まぁ、いいです。彼は生真面目で一生懸命なだけですし、堅物ですから女心なんて理解出来ないでしょうし。理解しろなんて云ったらイジメの域です」

「酷い云いようだ」

「女性陣の事だって、正直あまり悪く云いたくないんですよ。同い年で同じ魔術系統の職ですから、対抗意識は元からあったでしょうし。て云うかありましたし。でもそれが上手く作用していた部分だってありましたから、一概に否定はしませんよ? でも男取り合って連携に支障が出るのはちょっと……」

「あちゃー」「あちゃー」


 リヒト君の話によると。

 基本の連携は、リヒト君が前衛に立って敵を屠り、守護騎士アウグストさんが後衛を守りつつリヒト君の援護、魔法剣士カタリーナさんは遊撃(敵の特性によって、物理と魔法を使い分ける)、賢者シャルロッテさんが後衛にて全体の動きを見て回復を優先しつつ、支援と攻撃も行う司令塔、と。

 他にもいくつか連携はあるが、雑魚敵の時にはほぼこの連携を採用してるそうな。私とドン君も無難でスマートな連携だと頷く。


 しかしこの所、カタリーナさんとシャルロッテさんがお互いの足を引っ張り合う行動ばかり取るそうな。

 例えば、カタリーナさんは必要もないのに前衛に出てわざを怪我をしたり、それでわざわざアウグストさんに庇って貰ったり。シャルロッテさんはカタリーナさんの回復を怠ったり、アウグストさんばかり支援して全体の動きを見なかったり……と。

 他にも色々あるし、戦闘以外の事まで全部云うとキリがないとリヒト君談。


 何と云うか、これは酷い。


「お前、よく無事だな……」

「パーティの中で、僕も一応回復役になれるくらいには回復魔法、使えますから……」

「リーダーの扱いがぞんざいだよね。これは酷い」


 二回目は口に出してしまった。いやだって、酷いってこれ。

 つまりリヒト君も回復放置されて、自力でなんとか命繋いでる状態って事でしょ?

 そのうち洒落にならない事態になるんじゃ……。


「おい、今からでも遅くねぇって。俺のところ来いよ」

「それは難しいです。あと、本気じゃないですよね?」


 リヒト君の返事にドン君はペロっと舌を出した。

 お茶目演出か。イラッと来ないのが凄いな。


「しゃーねぇな……。そんなつまらん事態で、お前さんを死なせちゃ寝覚めが悪ぃ。三日以内に行くから、それまでは持たせろよ?」

「出来れば明日くらいに……」

「ちょいと難しいわ。こっちにも事情がある」

「ですね。すみません、我が侭云って。お願いします」

「おう、任せろ。あぁ、こっちも手加減すっけど、怪しまれない程度に警戒しとけよ」

「了解です。本当に助かります」

「まぁ、これで目ぇ醒めないんなら、諦めて切り棄てろ。構うだけ無駄だ」

「それが出来れば苦労ないですよ……」


 はあああ……と深い溜め息をついて、リヒト君は膝を抱えてしまった。

 リーダー……と云うか、立場的には中間管理職になるのかな? 国と仲間に挟まれて、彼も大変だなぁ。


 うん、全員、国でかなりの地位を持つ人達から推薦されて、彼のパーティーに入ったのだ。

 勿論、彼のパーティーなのだからリヒト君の意思が最も尊重されるべきだし、そう思ってる人も居るだろうけど――現実は厳しいため、それは立て前になってしまったんだろうなぁ。

 その三人を権力者に推された時点で、リヒト君に「いや、この人はちょっと……」などと断ることは出来なかったに違いない。断れない推薦って残酷ぅ。


「て云うか、アウグストさんはどうなの、その現状に対して」

「だよな。いくら堅物典型的鈍感騎士野郎だって、ギスギス感くらいはわかってんだろ?」

「ドンさん酷い云いようです……。……えぇまぁ、彼だって鈍感ですがアホじゃないですから。居心地の悪さは感じてますよ?」

「お前も大概なんだが……」

「二人を諌めたりしないの?」

「真正面から「何かありましたか?」って聞いて、「いいえ何も」って云い返されて終了です」

「うわぁ」「うわぁ」

「でも居心地は悪いわけですから……。最近はお二人から逃げるような感じで、僕にべったり」

「さ、さらなる修羅場しか予感出来ない展開に!」

「リヒト君、魔物より仲間に気を付けた方がいいよ、それ」

「厭過ぎますぅ……!」


 ついにはひーんと泣き出してしまった。

 良識ある大人として、「そんな事くらいで泣いてちゃだめだ」と諌めるべきかも知れないが、あまりにも可哀想なので背中をぽんぽんと宥めるために叩く。

 ドン君も立ち上がり、リヒト君の頭を撫でてあげていた。


 て云うかドン君。焚き火挟んで目の前に居るリヒト君撫でるのに、立ち上がるだけって横着しすぎじゃ……。焚き火熱くないのかな……。腕がもろに炙られてる位置だけど……。

 って、あ、そう云えば属性防御が半端無く高いんだっけ。そりゃ焚き火の炎なんて、へっちゃらかぁ。


「まぁ、なるべく急いでやっから、な? でもマジで、それでどうにもならなかったら、国王に直訴しろよ? お前より自分の欲望優先させる女なんざ、世界の為になりゃしねぇ」

「……ドンさんに云われるの、不思議な気がしますけど、正論ですね。そうします」

「あー、そうしろそうしろ」


 そう云ってドン君は、さらに強くわしゃわしゃとリヒト君の頭を撫でた。

 なんか兄弟みたいだなぁ、と私は笑う。髪の色も目の色も一緒だから、尚更だ。二人とも美形だし、知らない人が見たら本当に兄弟だと思うかも知れない。


「……何笑ってんだ、ユウリ?」

「ん? んー、ふふふ、そうだねぇ」


 私がくふくふと笑うと、二人は訝しげな顔になる。あぁ表情もそっくり。

 でも兄弟みたいだね、なんて云ったら、二人とも拗ねちゃうんだろうなぁ。仲良いよね、なんて云っても意地張って、良くないから! と云い張る二人だ。

 だからまぁ、別の事を云ってみる。


「いやぁ、ただ」


 目を細めて、私は二人を見つめた。



「――勇者と魔王って大変そうだなぁと思っただけだよ」



 二人が厭そうに顔を歪めた。

 それについ、私はまた笑ってしまう。


「完全に他人ごとみたいに云いやがって……」

「ユウリさん、意地悪です……」


 ごめんねと謝ると、二人は別にいいよと笑ってくれた。

 きらきら光る、金色の瞳を細めて。



プロローグだけじゃ意味わからんか……と急ぎ一話目をアップしました。

自分で云うのもなんですが、変な話……。

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