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転生  作者: 逢月 裕
4/8

4

「多久兎、いる?」


特進の生徒がヒロエを振り返った。

それは単に好奇心の目というよりも、疑心や、羨望、枯渇した何かを訴えるような目で。

ヒロエはしばらくそんな目を知らない。

特進のクラスは、緊迫した雰囲気だった。

それが自分のせいなのか、もともとのせいなのか、ヒロエは考え、そしてすぐにやめた。

「いないけど。」と、ドアのそばにいた男子生徒が答えた。


「今日は、学校に来てないよ。」

いつかタクトの教室に来た特進の生徒が、近づいてきた。

見つめた目の奥に、青白い光を見た。

ヒロエはそれが何かを知っていた。

それを奪い去るには、ヒロエは自分の“チカラ”を持ってすれば簡単だとわかっていた。

それは時折、罠のように感じる、“合図”

黙って、ヒロエは教室を見渡す。


「アイツは、来ないよ。」

男子生徒は、薄笑いを浮かべてそういった。

「多久兎はどこ?」

「さぁ、今頃、天国かも。」


今度の”合図”は、明確だった。

男子生徒の眼の奥にある光が、ゆがんだのがわかる。


タクトが静かなる月ならば。

ヒロエが燃え盛る太陽だった。



ダンッ!



騒がしくなる教室。


誰かが、倒れた“彼”のそばに駆け寄る。


名前を呼ぶ。


それを、ヒロエはまるで無声映画のように見ていた。

そして人ごみの隙間から、―それは後ろから2番目、窓から2番目の―タクトの席を見た。

ぽっかりと何かが抜け落ちたような空気のようだった。

ヒロエは席に近づく。

席に触れると、鉄の冷たい感触が手のひらの感覚に移り、そしてすぐに自分の体温も飲み込んでいった。

椅子は軽く轢くと音が鳴った。

乾いたおとが。

ヒロエはなんだが奇妙な予感がした。

それは、不確か過ぎてヒロエにはつかめない。

そしてタクトを想う。

この場所で、彼はどう過ごしていたんだろう?



家に帰っても、タクトもナナコもいなかった。

静まり返った薄暗い部屋は、ヒロエを奇妙な感覚へと押し込んだ。

それはまるで、暗闇が後ろから覆いかぶさってくるような興奮や、

大波が前方から自分を飲み込む恐怖や、

握り締めたナイフを自分の左胸に突き刺す不安のような。



(そういえば)



ヒロエは思った。




(この“生きてきた”中で―)3人の教室が別れたのは初めてだった。




それは、何億年もかけて作り上げた氷河が、崩れ落ちる音を聞いたような感覚が。




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