表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生  作者: 逢月 裕
3/8

3

朝起きると、ナナコは朝食を用意していた。

今日は珍しくパンを焼いていた。


「おはよう。」

「おはよ。」


短い挨拶の後、タクトがやってきて席に座る。

ヒロエはタクトを見やる。

変わらない。それでいて何かが違うような。

ナナコがバターをぬったパンを、タクトに渡す。

なんでもない日常。

ヒロエは黙って朝食に手をつける。

そう、“なんでもない日常”。

日差しは普段どおり3人を包み、朝の雰囲気がそこここにある。



「今日、おばあちゃんの家に行ってくるから。」

学校へ向かいながら、ナナコは言った。

「そっか。泊まってくるの?」

「うん。明日休みだしね。」

そういったナナコの顔を、ヒロエは見れなかった。

いつの間にか伸びた髪の毛が、ナナコの顔を隠していた。

ヒロエはなんとなく、ナナコが最近髪を短くしたことがないな、と思った。

昔は―それはとても昔のことで、まだこの町ですら草原だった時代は―短い髪が太陽の光にちらちらと当たって、ナナコの笑顔によく似合っていた。


「わかった。気をつけて。」

「・・・うん。」


校舎に消えていく姿を目で追いながら、ヒロエは空を見上げた。

どんよりとした梅雨ならではの空。

帰ったらタクトと話をしなければならないかもしれない。

ヒロエは教室へと向かった。

だが、タクトはその日も戻らなかった。



曇天の空。

ヒロエはユウマと屋上で寝そべっていた。

3限目のチャイムが鳴る。

太陽が雲に隠れて、目には程よく明るい。


「一緒に生きてるってどういう感じ?」

ユウマが言った。

「なにが?」

風が二人の間を掠める。

「幼なじみ。」

タクトとナナコの顔が、空に浮かぶ。

「・・・うまく説明できないけど、暖かい感じ。」

ユウマが黙っているので、ヒロエは続けた。

「そこに常に誰かがいて、自分を知っている。どんなに離れていてもいつも同じ場所にいる。いままでも、これからも。それが・・・暖かい」

日差しのような、暖かさ。

「イヤになることないの?」

「どうして?俺は2人のことが好きだよ。失いたくない大切なものを、どうしてイヤになることがあるんだ。」

「俺には姉と弟がいるけど、浩衛たちのような関係じゃない。生まれたときから一緒で、血もつながってる。でも、俺にはその存在が苦痛でしかないんだ。時には足かせのように感じる。いなくなってしまえばいいのにとも思うよ。俺は一緒に生きるなんて、できない。」

「でもいつしか悠馬にも一緒に生きていく人ができるだろう?」

「さあな。」

ユウマは自嘲気味に笑った。

「俺たちは、そういう関係とは少し違うんだ。俺たちをつないでいるのは血じゃない。“チカラ”なんだ。」

「チカラ?」

「俺たちには“チカラ”があるんだよ。それは持っていても日々の上で何ももたらさない。成績が上がるわけでもない。金持ちになれるわけでもない。願えば、欲しいものがなんでも手に入るわけでもない。そう、人が生まれながらにしてもっている遺伝子と同じぐらい、なんてこともないごく単純でありふれたものなんだ。だから、一緒に生きていくうえで、実際それは俺たちに必要はない。でも、“チカラ”があるから、俺たちは一緒にいられるんだ。」

「ふうん・・・じゃぁ“チカラ”がなくなってしまったら?」

ヒロエは言葉に詰まった。

「考えたくもないね。」



彼らは―ヒロエとタクトとナナコは―長い長い年月をともに過ごしてきた。


それは地球と月と太陽のような太古の時間から。


引力のような“チカラ”によって決して離れることもなく。


それはお互いにごく自然なもので。


呼吸をするための酸素のようで。


白い雲と青い空のようで。


とても自然で美しい“チカラ”。



ヒロエはそうやって、長い長い過去を今まで生き、この先にある長い長い未来もまたともに歩むということを、疑いもしていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ