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小説としてタブーかと思いますが、会話と説明文の名前表記が異なります(カナ・漢字両方使用)。ただ、これはどうしても作者の思うところがある部分なので、ご了承ください。
“僕らはいつでも一緒だった。
生れ落ちた場所も
育った時間も
そして輪廻の行く先も
僕らはいつまでも一緒だった。”
明けきらない朝。
ヒロエはその時間が好きだった。
目覚まし時計をかけているわけではないのに、決まってヒロエは目を覚ました。
まだ闇の残る部屋がぼんやりと輪郭を持ち、朝日が徐々に差し込んでいくさまをじっと見るのが好きだった。
明けきった後は惰眠をむさぼる。
他の二人はまだ寝ているからだ。
やっとコトコトと部屋の外で人の動く気配を感じて、ヒロエはやっとベットを降りる。
「おはよ。浩衛。多久兎。」
台所に立つナナコが朝日を背に、ヒロエとタクトに声をかけた。
丁度、向かいの部屋から出てきたタクトは、不機嫌そうに一瞥をするだけでそのまま洗面所へと向かってしまった。
相変わらずのことなので、ナナコもヒロエもあえて何も言わない。
「おはよう。七胡。」
「今日の朝の目覚めはいかが?」
「うん。なかなかよかったよ。今日は寒くなりそうだね。」
ナナコは朝食の準備を続ける。最近は和食好きということもあって、朝食はいつも立派だ。
ご飯、お味噌汁、卵焼き、焼き魚。
昨日の残りのきんぴらも添えて、テーブルセットが完了したときには不思議とタクトも席についている。
幾分、すっきりとした顔立ちだ。
3人で囲む朝の食事。
ずっと続いている、ヒロエたちの習慣だった。
食事中はしゃべることはほぼない。
カーテンのないすりガラスから差し込む朝日を3人で浴びて、暖かなご飯をゆっくりと食べる。
それが1日の中で一番確かなことで、一番充実した瞬間だった。
「今日から、私たち高校に行くんだよね。」
ナナコがいう。
「うん、そうだよ。」
ヒロエは答える。
「もう高校生なんだね。私たち。」
「うん、そうだね。」
「時は早いね。」
「うん。あ、多久兎。」
「・・・なに?」
ゆっくりとタクトは顔を上げる。
「口に、ご飯ついてる。」
ヒロエの視線の先を狙って、タクトは右端の口元を手で触る。
わずかにずれている。
タクトはあとわずかなところでそれに気がつかない。
ヒロエが手を伸ばし、それをとってやった。
きめ細かな肌と人よりも高い体温が、ヒロエの指先にわずかにふれた。
タクトはヒロエの指先につままれたご飯粒をみても、結局また何もいわず味噌汁をすすった。
ヒロエも何もいわない。
つかんだご飯を自分の口に持っていき、食べてお茶をすすった。
すする音が、朝日の中に浮かぶリビングに響く。一番確かなことで、一番充実した瞬間。
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