第20話:【悲報】イキり勇者、死闘の末にダンジョン最深部へ到達するもパシリにされる
「鈴木殿、チャンネル変えてもよいか?」
「魔娘さん、ここテレビないから。みかんの皮アートでも作ってて」
「女神様、私の足踏まないでくださいよぅ……」
「うるさいですね不死の王。神の御足に触れられることを光栄に思いなさい」
奈落の迷宮、最下層。
世界を滅ぼす魔王の娘、それを討つべき女神、魔王軍幹部、エルフ、巨大古竜、そしてみかん箱を被った俺(鈴木一太)。
本来なら血で血を洗う最終決戦が繰り広げられるはずの空間は、神話級魔道具『コタツ』の圧倒的な包容力により、完全に「正月三が日の実家」と化していた。
その時だった。
『ドゴォォォォォォォンッ!!!』
奈落の間の重厚な石扉が、凄まじい爆発と共に吹き飛ばされた。
「ゼェ……ハァ……ッ! ついに、ついに辿り着いたぞ……!」
もうもうと舞い上がる土煙の中から現れたのは、ボロボロの鎧を纏い、満身創痍で肩で息をする一人の剣士。
かつて王城で俺の『小学生のバリア』に敗北し、心を折られたはずの勇者、佐藤だった。
「見ているか鈴木……! 俺はあの日から血を吐くような特訓を重ね、この地獄のダンジョン100階層を、仲間の犠牲を乗り越えて踏破した! 今の俺の『真・聖剣術』ならば、魔王であろうと貴様であろうと――って、え?」
佐藤はボロボロの聖剣を構えたまま、完全にフリーズした。
無理もない。彼が命がけで辿り着いたラスボス部屋のど真ん中では、魔王と女神がコタツでみかんの薄皮を綺麗に剥く競争をしていたのだから。
「……えっ? ちょっと待って、佐藤。俺たちここに来てからまだ数時間しか経ってないぞ? いくらなんでも早くね?」
佐藤の言葉に、俺がみかん箱の隙間から素のツッコミを入れると、女神エルミナがみかんを頬張りながらドヤ顔で解説を始めた。
「ふふん、鈴木さん。実はこの神話級魔道具『コタツ』、内部は『ダラダラする正月休みの時間』が無限に引き延ばされるため、外界とは時間の進み方が絶望的にズレる仕様なのですぅ。私たちが体感で数時間ゴロゴロしている間に、外界では勇者が地獄のダンジョンを踏破するだけの過酷な時間がきっちり経過していたというわけです!」
「マジかよ……相対性理論もびっくりだな」
女神が解説してる間に佐藤の意識が正気に戻った。
「あ、佐藤。お疲れ」
俺はみかん箱の隙間から、片手を上げて適当に挨拶した。
「な、なんだこのふざけた空間はァァァッ!? 魔王の娘! なぜお前がそこにいる!? ていうかエルミナ様!? 俺に『世界を救え』と神託を下した女神様ですよね!?」
「ああっ、ちょっと勇者! 大声出さないでください! みかんの薄皮が破けたじゃないですか!」
「そうだぞ人間。それに扉を開けっぱなしにするな。冷たい隙間風が入ってくるだろうが」
女神と魔娘がコタツから顔だけを出して、理不尽なクレームを入れる。
◆ ◆ ◆
『異世界転生・召喚板』
259 名前:名無しの転生者
勇者くんキタコレwww
260 名前:名無しの転生者
100階層を真面目に攻略してきた男の末路
261 名前:名無しの転生者
温度差で風邪ひきそうwww
262 名前:名無しの転生者
イッチ、せっかく来てくれた元同級生に何か声かけてやれよ。
【安価】命がけで辿り着いた勇者への労いの言葉 >>270
「おっ、今回は珍しく労いの言葉! たまにはまともな……」
263 名前:名無しの転生者
土下座して迎え入れる
264 名前:名無しの転生者
「おせーよ」とマジレス
(中略)
269 名前:名無しの転生者
一緒にみかん食うか?と誘う
270 名前:名無しの転生者
金貨を1枚ピンッと弾いて渡し、「お疲れ。ちょうどコタツで体が火照ってたんだわ。悪いけど地上のコンビニ(王都)で『スーパーカップの超バニラ』買ってきて。お釣りはあげるから」と完全にパシリ扱いする
◆ ◆ ◆
「だからなんで死闘を乗り越えた勇者をただのパシリにするんだよォォォォ!! てか、異世界にコンビニなんてねぇだろ!」
心の中で盛大にツッコミを入れたが、スキルの強制力は絶対だ。
安価で「地上のコンビニ」と指定された以上、物理法則をねじ曲げてでも、今頃王都のど真ん中に24時間営業の『コンビニエンスストア』という概念が強制的に建築えているはずである。
俺はコタツから右腕(孫の手を持っている方ではない腕)だけをヌッと出し、空間収納から取り出した金貨を1枚、ピンッと指で弾いた。
チャリンッ。
金貨は美しい放物線を描き、呆然としている佐藤の足元に転がった。
「お疲れ、佐藤」
俺は最高に気怠げな、休日の父親のようなトーンで言い放った。
「ちょうどコタツで体が火照っててさ。アイス食いたいんだわ。悪いけど、地上(王都)まで戻って『スーパーカップの超バニラ』買ってきてくんない? お釣りはとっておいていいから」
ピコォォォォォォンッ!!!!
確定音が鳴り響いた瞬間。
俺の放った『パシリの命令』が、世界の法則を書き換え、勇者のステータス画面に【絶対強制クエスト:アイスのお使い(難易度:神話級)】を刻み込んだ。
「は……? こ、この俺が、地獄の100階層を越えてきた勇者の俺が……お前のアイスを買いに、また地上まで戻るだと……!?」
佐藤がワナワナと震え、怒りで顔を真っ赤にする。
「おい勇者」
不意に、コタツの中からドス黒い殺気が放たれた。魔娘だ。
「鈴木殿が『アイスが食べたい』と仰っているのだ。つべこべ言わずに走らんか。……それとも、我直々に貴様を氷結魔法にしてやろうか?」
「そ、そうです勇者! ついでに私の分の『雪見だいふく』も忘れないでくださいね! 溶けたら神罰を下しますよ!」
女神エルミナまでがコタツから威圧感を放つ。
世界最強の二大巨頭からの理不尽なガン飛ばし。
佐藤の心の中で、何かが完全にポキリと折れる音がした。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁんッ!! 異世界なんて、異世界なんて大っ嫌いだぁぁぁッ!!」
佐藤は金貨を拾い上げ、ボロボロと涙をこぼしながら、来た道を猛ダッシュで逆走していった(あと100階層登らなければならない)。
◆ ◆ ◆
271 名前:名無しの転生者
勇者wwwwww
272 名前:名無しの転生者
神話級のお使いクエストで大草原
273 名前:名無しの転生者
冬のコタツで食うアイスは最高だからな。仕方ないな。
◆ ◆ ◆
その光景を見ていたアリアが、いつものように両手を胸の前で組み、うっとりとした表情を浮かべた。
「ああ……なんという慈悲深き試練!死線を越え、増長していた愚かな勇者に対し、あえて『氷菓の調達』という屈辱的な任務を与えることで、己の小ささを自覚させる……! これぞ、絶対強者のみに許された精神破壊! 盟主様は、戦わずして勇者を完全に屈服させてしまわれたのですね!!」
「ちげーよ! ネット民がどうしても冬にアイス食いたいって言うからだよ!」
「鈴木殿、雪見だいふくとはどのような食べ物なのだ? 我も食べてみたいぞ!」
「キュン!(ちくわも食べる!)」
かつてない理不尽で勇者をパシリに追いやった俺たちは、みかんを補充しながら、冷たいアイスが届くのをコタツの中で気長に待つのであった。




