第19話:駄女神降臨!〜世界の創造主すら堕落させる神話級コタツの引力〜
奈落の迷宮、最下層。
かつての絶望の空間は今や、みかんの皮の甘酸っぱい匂いと、平和な寝息に包まれていた。
「鈴木殿、この『コタツ』という魔道具は底が知れぬな。足元が温かいだけで、過去数百年の魔界統治の苦労が全てどうでもよくなってくるぞ……」
「だろ? 魔娘さんも無理しすぎなんだよ。ほら、お茶入ったぞ」
「おお、かたじけない! ズズッ……ふぅぅ……生き返る……」
みかん箱を被った俺の隣で、湯飲みを両手で包み込みながらほっこりしている魔娘。
向かいでは不死の王がテレビのチャンネル権を争うように(テレビはないが)ゴロゴロしており、アリアとちくわ(古竜)は完全に熟睡している。
世界を滅ぼすはずの絶対悪の陣営と、それに対抗する勇者の追放された同級生が、一つのコタツで平和にお茶をすする。
完全に世界のバグである。
その時だった。
『パァァァァァァァァァァッ……!!!』
突如として、奈落の間の天井が神聖なる黄金の光に包まれた。
光は一直線に降り注ぎ、その中から、純白のドレスに身を包み、背中に六枚の光の翼を生やした絶世の美女が舞い降りてきた。
「な、なんだ!?」
魔娘がお茶を吹き出す。
「――見過ごせませんよ!!」
美女は空中に浮かんだまま、俺たちを見下ろして激怒の声を上げた。
「私はこの世界を管理する女神、エルミナ! 魔王の娘の波動が消えたから何事かと思って天上から様子を見に来てみれば……あなたたち、そこで何をしているんですか!!」
「えっ、何って……コタツでみかん食べてるけど」
「それがおかしいと言っているんです!!」
女神エルミナは顔を真っ赤にして叫んだ。
「鈴木一太! あなたは『無能』として追放されたただのモブ転生者のはず! それなのになぜ、神話級の古竜を手懐け、魔王軍幹部を風呂上がりにし、あろうことか魔王の娘まで骨抜きにしているんですか! これじゃあ、私が召喚した勇者の出番が一生来ないじゃないですか!!」
「いやリッチが風呂上がりだったのは俺も知らねぇよ! たまたま突っ込んだタイミングが悪かっただけだろ!」
『異世界転生・召喚板』
244 名前:名無しの転生者
おっ、管理者の女神降臨キタコレ!
245 名前:名無しの転生者
ポンコツ女神の匂いがプンプンするぜぇwww
246 名前:名無しの転生者
風呂上がりの件までイッチのせいにされてて草
247 名前:名無しの転生者
よしイッチ、クレーム対応の時間だ!運営を黙らせろ!
【安価】キレる女神への見事な対応 >>255
「やめろお前ら! 相手は世界の創造主だぞ! 消される! ガチで消されるから!!」
248 名前:名無しの転生者
土下座してアカウントBANを許してもらう
249 名前:名無しの転生者
孫の手で神罰を下す
(中略)
254 名前:名無しの転生者
「仕様です」と言い張る
255 名前:名無しの転生者
コタツの布団をパサッとめくり、隣のスペースをポンポンと叩きながら、超絶イケメンボイスで「外は冷えるだろ? ほら、ここ空いてるぜ。一緒に温まろうや」と口説く
「だからなんで俺を勘違いホストみたいなキャラにしたがるんだよォォォォッ!!」
しかし、スキルの絶対法則は神すらも凌駕する。
俺の体は自動的に動き、コタツの布団を優雅にパサッとめくった。
そして、みかん箱(絶対防御)の隙間から、星が瞬くような熱い視線を女神へと向けた。
「な、なんですか……? そんな四角い箱を被って、私を挑発する気――」
「外は、冷えるだろ?」
俺の口から、低く甘い、プロのイケメン声優のような美声が響き渡った。
「――っ!?」
「ほら、ここ空いてるぜ、エルミナ。世界管理の仕事なんて忘れて……一緒に温まろうや」
ピコォォォォォォンッ!!!!
スキル確定音が、ダンジョンのみならず天界にまで鳴り響いた瞬間。
俺の放った『コタツへの誘い(イケメンボイス)』が、世界を統べる女神の【神聖なる使命感】を、現代日本の【年末年始の寝正月モード】へと強制的に概念改竄した。
「わ、私を誑かす気ですか……! 神である私が、そのような怠惰な四角い魔道具に……温かそうな魔道具に……みかんの乗った……あの、その……」
女神の背中の光の翼が、みるみるうちにパタパタと縮んでいく。
彼女は空からふらふらと降り立つと、まるで吸い寄せられるように、俺が空けたコタツのスペースにするりと滑り込んだ。
「ああっ……! な、なんですかこの極上の温もりは……! 足先から天界の冷え性が治っていく……! もう、勇者とか魔王とかどうでもいいですぅ……」
女神エルミナはコタツの魔力に完全敗北し、とろけた顔でみかんに手を伸ばした。
256 名前:名無しの転生者
女神陥落wwwwwww
257 名前:名無しの転生者
ちょろすぎだろwwww
258 名前:名無しの転生者
世界終了のお知らせ(全員コタツで寝正月)
その様子を見て目を覚ましたアリアが、またしても天啓を受けたような顔で震え出した。
「おおお……! なんという奇跡! 神の怒りを、己の『隣』という絶対領域に招き入れることで愛へと変換し、世界の管理者すらも陥落させてしまわれるとは! 盟主様はついに、天地創造の理すらもその箱(みかん箱)の中に収めてしまわれたのですね!!」
「ちげーよ! ただのコタツの引力だよ!!」
「鈴木殿、この女神、我の分のみかんまで食いおったぞ!」
「あっ、魔王の娘のくせにケチなこと言わないでください! 私は運営なんですからね!」
みかん箱(不審者)、エルフ(狂信者)、巨大チワワ(古竜)、魔娘(過労)、不死の王(風呂上がり)、そして女神。
「5ch」というネット民の悪意と集合知がもたらした俺の異世界サバイバルは、ついに世界の主要キャラクターを全て「コタツ」の中に幽閉するという、ある意味で究極の世界平和(完全なる停滞)を達成してしまったのだった。




