第17話:古代の封印はキャッシュレスで
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁッ! これ、我が迷宮の最奥に眠る究極の宝箱です! だからどうか、その神話級の竹の棒(孫の手)をしまってください……!」
バスローブ姿で頭にタオルを巻いた不死の王は、みかん箱を被った俺とちくわのプレッシャーに完全に屈し、玉座の裏から仰々しい宝箱を引っ張り出してきた。
「これは『奈落の聖櫃』。開けるためには、千の魔力鍵を解き、さらには不死鳥の血を鍵穴に注ぐという血の儀式が必要でして……我ら魔王軍でさえ、未だに中身を取り出せておらぬ代物で――」
いかにもなファンタジーの呪われた宝箱だ。
漆黒の箱には禍々しい赤い魔法陣が幾重にも刻まれ、触れるだけで呪われそうなオーラを放っている。
『異世界転生・召喚板』
219 名前:名無しの転生者
お、ドロップアイテムのお時間だ!
220 名前:名無しの転生者
血の儀式とかめんどくせえwww
221 名前:名無しの転生者
宝箱開けるのもイッチの安価で決めるぞ!
【安価】呪われた宝箱の開け方 >>225
222 名前:名無しの転生者
ちくわに噛み砕かせる
223 名前:名無しの転生者
孫の手でこじ開ける
224 名前:名無しの転生者
「開けゴマ」と唱えながら物理で殴る
225 名前:名無しの転生者
制服のポケットからSu◯ca(交通系ICカード)を取り出し、宝箱の魔法陣に叩きつけながら「ピピッ! ペイペ◯で!」とキャッシュレス決済して開ける
「古代の封印を電子マネーで解決しようとするなァァァッ!!」
しかし、無情にもスキルの強制力は発動する。
俺はみかん箱の隙間からゴソゴソと制服のズボンのポケットを探り、前世(日本)で使っていた緑色のペンギンが描かれた交通系ICカードを取り出した。
「な、なんですかその薄っぺらい板は……? まさか、それが鍵だとでも!?」
リッチ・キングが怯えたように後ずさる。
俺は真顔で宝箱に歩み寄り、禍々しい赤い魔法陣の中心に向かって、そのICカードを力強くタッチした。
「ピピッ!! ペ◯ペイでッ!!」
ピコォォォォォォンッ!!!!
脳内に響くスキル確定音。
その瞬間、呪われた血の魔法陣が突如として「緑色の液晶パネル」のような光を放ち、ダンジョンの最下層に、電子決済特有のあの軽快なサウンドが鳴り響いた。
『ペ◯ペイ♪』
ガチャンッ!
千の魔力鍵が音を立てて砕け散り、重厚な宝箱の蓋が、まるで自動ドアのようにスーッと滑らかに開いた。
しかも、ソシャゲの最高レアリティ排出時のように、箱の中から七色の虹色の光が噴き出している。
226 名前:名無しの転生者
電子決済wwwww
227 名前:名無しの転生者
虹色キタコレ! UR確定演出!!
228 名前:名無しの転生者
異世界のセキュリティ、ガバガバで大草原
「バ、バカな……!? 古竜の血を要求する神話時代の絶対封印が、謎の板切れと『ペイペイ』という謎の呪文で解除されただとぉ!?」
リッチ・キングが頭を抱えて絶叫する中、アリアが例のごとく両手を組んで感極まった。
「ああ……! 『スイカ』……すなわち、豊穣と生命を象徴する果実の魔力符! そして『ペイ・ペイ』……己の魔力を代価として等価交換する、古代の錬金術の極致! 盟主様は、血生臭い儀式を、極めて平和的かつ迅速な『魔力決済』で代行してしまわれたのですね!!」
「うん、もうなんでもいいや。で、中身はなんだ?」
俺が虹色の光に包まれた箱の中を覗き込むと、そこに入っていたのは――
木製のやぐらに、ふかふかの掛け布団。そして中央には赤い電源ランプが灯るヒーター。
まごうことなき、日本の冬の風物詩『コタツ』だった。
しかも、みかん付きである。
「……えっ、コタツ?」
俺がポカンとしていると、鑑定スキルを持ったアリアが驚愕の声を上げた。
「め、盟主様! これは『怠惰の魔座』! 一度入れば、いかなる英雄や魔王であろうと闘争心を根こそぎ奪われ、二度と立ち上がることができなくなるという、神話級の呪いの魔道具です!!」
「いや、ただのコタツの魔力じゃねーか」
『異世界転生・召喚板』
229 名前:名無しの転生者
コタツ(神話級の呪い)
230 名前:名無しの転生者
間違ってないwww 人類をダメにする兵器www
231 名前:名無しの転生者
せっかくだからボスも一緒に入ろうぜ
かくして。
ダンジョン攻略を終えた俺たちは、そのままラスボスの部屋のど真ん中に伝説のコタツを広げた。
「ふおおおおお……! なんだこれは……骨の髄まで温まる……もう、世界征服とかどうでもよくなってきましたぞ……」
バスローブ姿のリッチ・キングが、コタツで丸くなりながら幸せそうにみかんを剥いている。
「盟主様……私、もうこの魔座から出られそうにありません……」
アリアも完全にコタツの魔力に屈し、とろけた顔で寝転がっている。
古竜のちくわも、鼻面を突っ込んだだけでは我慢できず、その巨大な体を無理やりコタツの中にねじ込もうとした。
すると、ポンッ! という軽快な音と共に、コタツの魔力によって、ちくわの巨体が本物のチワワサイズ(体長30センチ)へと強制的に圧縮されてしまったのだ。
「キュゥゥン……♡」
すっかり手のひらサイズになったちくわは、コタツの端っこで丸くなり「スピースピー」と幸せそうな寝息を立て始めた。
右手には孫の手、胴体にはみかん箱を被り、魔王軍幹部とエルフと共にコタツを囲む男。
俺の異世界無双は、もはや冒険でもなんでもなく、ただのシュールなギャグ空間の拡張作業へと成り果てていた。




