第16話:異世界ダンジョンRTA
右手には竹の棒(神話級の孫の手)。
胴体には「みかん(産地直送)」と書かれた段ボール箱(絶対防御装甲)。
そして背後には体長20メートルのチワワ(という概念に改竄された古竜ちくわ)。
街行く人々の二度見とドン引きの視線を一身に浴びながら、俺たちは冒険者ギルドで依頼されたSランククエストの目的地、『奈落の迷宮』の入り口へとやってきた。
「盟主様、ここが『奈落の迷宮』です……! 全100階層からなる凶悪な地下ダンジョンで、無数の致死トラップと迷路が冒険者を阻みます。最深部に到達するには、熟練のパーティでも数年はかかると言われており――」
アリアがご丁寧にダンジョンのヤバさを解説してくれる。
いかにもなファンタジーのダンジョンだ。巨大な石扉の奥には、どこまでも続く暗い階段と、不気味な松明の灯りが揺らめいている。
数年がかりのダンジョン攻略。普通なら胸が躍る大冒険の始まりだが、俺には嫌な予感しかしなかった。
『異世界転生・召喚板』
204 名前:名無しの転生者
お、ダンジョン配信キタコレ!
205 名前:名無しの転生者
みかん箱装備した変質者がダンジョン挑む図、シュールすぎて草
206 名前:名無しの転生者
100階層とか普通に攻略してたら何日もかかるぞ
207 名前:名無しの転生者
よしイッチ、ここはサクッと終わらせようぜ!
【安価】最速のダンジョン攻略法 >>215
208 名前:名無しの転生者
ちくわのブレスでダンジョンごと消し飛ばす
209 名前:名無しの転生者
スコップで一直線に穴を掘る
(中略)
214 名前:名無しの転生者
罠を全部顔面で受け止めながら進む
215 名前:名無しの転生者
RTA名物『壁抜けバグ』。入り口の角に向かって後ろ向きにジャンプしながら臀部を激しくぶつけ続け(ケツワープ)、物理演算をバグらせて最深部のボス部屋に直行する
「いやお前ら、ここ現実世界(異世界)だからな!? ゲームのバグ技なんか通用するわけねぇだろ!!」
俺の魂からのツッコミも虚しく、スキルの強制力は発動した。
俺はアリアを小脇に抱え(お馴染みの米俵スタイル)、入り口の壁の「角」に向かって背中を向けた。
「め、盟主様? 入り口はあちらですが……」
戸惑うアリアを無視し、俺はみかん箱を被ったまま、壁の角に向かって後ろ向きにジャンプし、己の臀部を激しく打ち付け始めた。
「ヤッ! ヤヤヤヤヤヤヤッ!!!」
ダダダダダダダダッ!!!!!
ピコォォォォォォンッ!!!!
確定音が鳴り響く。
ただの奇行でしかなかった「壁へのケツぶつけ」が、スキルの補正によって『異世界の物理演算の限界を突破する行為』へと書き換えられた。
その瞬間、俺とアリア、そして後ろについてきていたちくわの視界が、ぐにゃりと歪んだ。
石造りのダンジョンのテクスチャが剥がれ落ち、灰色の裏世界が広がる。
「キャアアアアアアアッ!? め、盟主様、世界が崩壊して……っ!?」
「ごめん! 俺もこれどうなってるか分かんない!!」
俺たちは壁をすり抜け、通常のマップ構造を完全に無視して、灰色の亜空間を猛スピードで落下していった。
階層を示す文字が、視界の端でありえない速度で切り替わっていく。
『1階層』『15階層』『50階層』『99階層』――。
そして数秒後。
ズドォォォォォォォォンッ!!!!!
俺たちは天井を突き破り、全100階層の最深部、ラスボスが待ち受ける『奈落の間』へと直接落下した。
もうもうと舞い上がる土煙。
そこには、このダンジョンの主であり、魔王軍の幹部でもある恐るべき不死の王がいた。
「フハハハ! 我は死と絶望を統べる――って、え?」
玉座に座り、恐ろしげな口上を述べようとしていたリッチ・キング。
だが、彼は今、最高級のシルクのバスローブを羽織り、頭にタオルを巻き、片手にはホットミルクの入ったマグカップを持っていた。
完全にお風呂上がりのリラックスタイムである。
「あ、どうも」
みかん箱を被った俺は、孫の手を持ちながら気まずそうに挨拶した。
216 名前:名無しの転生者
ケツワープ成功してて大草
217 名前:名無しの転生者
RTA世界記録更新おめでとう!!
218 名前:名無しの転生者
魔王軍幹部、完全にお風呂上がりで草生い茂るwwww
「き、貴様ら……一体どこから現れた!? この奈落の間に至るには、無数の罠と死闘を数年がかりで越えねばならぬはず……!」
バスローブ姿のリッチ・キングが、カタカタと骨を震わせて狼狽する。
すると、俺の脇に抱えられていたアリアが、興奮した様子で目を輝かせた。
「ああ……なんという神業! 空間の『角』に己の肉体を幾度も叩きつけることで、この世界の次元の境界を破壊し、事象の地平を突き抜けるとは……! これこそが、時空魔術の最高峰『ケツ・ワープ』!! 盟主様の前では、100階層の迷宮など、ただの紙切れも同然なのですね!!」
「ちげーよ! ただのゲームの不具合の悪用だよ!」
「ケツ・ワープだと……!? そ、そのような恐るべき次元魔法の使い手がいるとは……!」
アリアのガバガバな解説を真に受けたリッチ・キングは、持っていたホットミルクを落として絶望の声を上げた。
「ギュオォォォォン(※ちくわの威嚇)」
さらに、背後に控える古竜のちくわが睨みを利かせると、リッチ・キングは悲鳴を上げてその場に土下座した。
「も、申し訳ありませぬぅぅぅ! お風呂上がりで戦う準備もできておりません! 宝は全て差し上げますので、どうか命だけは……!」
開始わずか1分。
異世界最恐のダンジョンは、みかん箱を被った男の「ケツワープ」によって、文字通りのRTAで陥落したのだった。




