第15話:最強の防具は『みかん箱』
鮮魚市場(と化したギルド)で手に入れた金貨500枚が詰まった重い皮袋を片手に、俺たちは街で一番と噂のドワーフの武具屋『鉄鎚亭』の暖簾をくぐった。
「いらっしゃ……チッ、なんだ、ヒョロガキとエルフ、それにデカいチワワ(※古竜)の組み合わせか」
カウンターの奥から顔を出したのは、見事な赤髭を蓄えた筋骨隆々のドワーフの親父だった。
彼は俺の貧相な体格と、腰に差した『竹の棒(神話級の孫の手)』を見るなり、あからさまに鼻で笑った。
「冷やかしなら帰んな! ウチは本物の戦士にしか武具を売らねえ主義なんだよ!」
いかにも「頑固な凄腕鍛冶師」というテンプレ通りの反応だ。
俺は無言でカウンターに金貨の入った袋をドンッと置いた。チャリン、と黄金の重い音が響く。
「……ッ!? こ、こりゃあ……!」
「金ならある。俺に合う『最高の防具』を出してくれ」
ドワーフの親父は目の色を変え、慌てて店の奥の厳重な金庫から、布に包まれたひとつの鎧を取り出してきた。
「へ、へへっ、旦那! これぞワシの最高傑作、『オリハルコンのフルプレート』だ! どんな魔法も弾き、ドラゴンのブレスすら耐える伝説の逸品……これを着れば、旦那も無敵の騎士になれるぜ!」
おおっ、めちゃくちゃカッコいい!
白銀に輝く重厚な鎧。これぞ男のロマン、ファンタジーの醍醐味である。
俺が目を輝かせてオリハルコンの鎧に手を伸ばそうとした、その時だった。
『異世界転生・召喚板』
194 名前:名無しの転生者
お、ドワーフの武器屋イベントキタコレ!
195 名前:名無しの転生者
オリハルコンとかテンプレすぎて草
196 名前:名無しの転生者
イッチがまともな装備を着れると思うなよ?
【安価】イッチの最強の防具 >>200
197 名前:名無しの転生者
女子用のビキニアーマー
198 名前:名無しの転生者
防御力を完全に捨てて全裸になり、首に派手な柄のネクタイだけを締めて「これが真のクールビズだ」と爽やかに決める
199 名前:名無しの転生者
スク水
200 名前:名無しの転生者
オリハルコンの鎧を鼻で笑い、店の隅のゴミ捨て場にあった『みかんの段ボール箱』をすっぽり被って、「これが難攻不落の機動要塞、ミカン・バコだ」とドヤ顔で言い放つ
「なんでだよォォォォォォ!! 普通にカッコいい鎧着させてくれよォォォ!」
心の底からの叫びは、無情なるスキルの強制力によってかき消される。
俺はオリハルコンの鎧からスッと手を離すと、「フン」と鼻で笑って背を向けた。
「だ、旦那? どうしたんで……」
俺は店の隅に積まれていたゴミの山から、なぜか異世界に存在する『みかん(産地直送)』と書かれたボロボロの段ボール箱を拾い上げた。
そして、その箱の底をぶち抜き、頭と腕を通す穴を開けると、自分の上半身にすっぽりと被った。
「な、何をしてるんだアンタは……!?」
唖然とするドワーフの親父に対し、俺は段ボール箱の隙間から鋭い視線を送り、低く響く声でドヤ顔を決めた。
「オリハルコンだと? 笑わせるな。……これが、難攻不落の機動要塞『ミカン・バコ』だ」
ピコォォォォォォンッ!!!!
スキル確定音と共に、俺が被ったただのみかん箱が、一瞬だけ鈍いチタンのような輝きを放った。
「ふ、ふざけるなァァァッ! ワシの最高傑作をコケにして、そんな紙切れの箱を……! なら、その箱ごとワシのハンマーで叩き潰してやる!」
ブチギレたドワーフの親父が、鍛冶用の巨大なミスリルハンマーを振り上げ、俺の段ボール箱(胴体)めがけてフルスイングで叩きつけてきた。
「危ない、盟主様ッ!」とアリアが叫ぶ。
しかし、俺は微動だにしない(安価のせいで動けない)。
ガゴォォォォォォォォンッ!!!!
すさまじい金属音が店内に響き渡った。
しかし、吹き飛んだのは俺ではなく――ドワーフの親父の持っていた『ミスリルハンマー』の方だった。
ハンマーのヘッド部分は無惨に粉砕され、俺の被っている『みかん箱』には、傷はおろか、凹みひとつ付いていない。
「なっ……ば、馬鹿な!? ミスリルのハンマーが粉々に……! この箱、打撃エネルギーを完全に吸収(無効化)しやがったのか!?」
201 名前:名無しの転生者
みかん箱(絶対防御)wwwwww
202 名前:名無しの転生者
オリハルコン超えてて大草原
203 名前:名無しの転生者
某潜入アクションゲームの最強装備かな?
ドワーフの親父が腰を抜かしてへたり込む中、アリアがいつものように両手を組んで感涙にむせび始めた。
「ああ……『ミカン』……すなわち『未完』! 決して完成されることのない、無限の拡張性と可能性を秘めた宇宙の真理! そして『バコ』……箱という完璧なる六面体の幾何学装甲! 盟主様は、この世界のあらゆる物理法則を、その紙の装甲一枚で超越してしまわれたのですね!!」
「うん、もうマジでそれでいいよ……」
「た、完敗だ……。ワシのオリハルコンなんかより、その『ミカン・バコ』の方が遥かに恐ろしい伝説の防具だ……! 旦那、アンタこそが真の戦士だ!!」
ドワーフの親父までが、段ボール箱を被った俺に向かって土下座を始めた。
かくして俺の装備は、
右手:神話級の孫の手
胴体:みかん箱
ペット:ちくわ(古竜)
という、完全に正気を疑う不審者スタイルへと進化を遂げたのだった。
街を歩くたびに子供に指を指されるのは、言うまでもない。




