【第8話_送るよ】
手を繋いだまま少し歩いたあと、雨の表情を見て透が言う。
「今日はもう無理でしょ。家まで送る」
「い、いいって…!大丈夫だから…!」
「さっきフラついたくせに?」
透は軽く眉を上げて、逃がさないように手を少し強く握る。
雨は言い返せないまま、結局透に連れられて家までたどり着く。
玄関前。
夕暮れの色が消えて、周りは静かで、手を離すのが急に惜しくなる距離。
「着いたね」
「……ありがと」
雨が鍵を開けようとした瞬間。
カチン、と小さく鳴った音と同時に、雨の指がまた震える。
透がそれに気づいて、後ろからそっと手を添えた。
「ほら。貸して」
背中越しの距離が近すぎて、雨は息を止めてしまう。
鍵を差し込みながら、透が小さくつぶやいた。
「……ねぇ、雨ってさ」
「な、なに…」
「俺のこと、ちゃんと見てよ」
ドキッ。
鍵が開いた音と同時に、透の指先が雨の手の上に滑る。
「体調悪いのに、がんばって隠すの…俺の前じゃやめて」
雨の心臓はさっきまでとは比べものにならないくらい早い。
それを誤魔化すように雨が言う。
「……透に、そんなこと言われたら……余計無理……」
透がくすっと笑う。
「じゃあさ、中で休んだら?」
「へっ!?入って…!?い、いや、その…部屋散らかってるし…!」
「気にしないよ。心配だから」
本気の顔。
逃げられない。
そして――雨はついに観念して、小さくうなずいてしまう。
透の表情が、わずかにほころぶ。
「じゃあ、おじゃまします」
雨の家のドアが静かに閉まる音。
二人きり。
静かな部屋。
近い距離。
透の視線。
ここから、さらに何かが始まりそうな気配がしたのは、気のせいだろうか。




