【第7話_夕暮れ】
保健室を出た雨は、まだ熱の残る身体を引きずりながら歩きだす。
夕方の空は少しオレンジで、校舎の影が細長く伸びてる。
「…ちゃんと歩ける?」
横に立つ透は、表情はいつも通りのクールだけど、歩幅を合わせてくれてるのがわかる。
雨はむきになって、
「歩けるし………大丈夫だし」
と前を向いたまま強がる。
でも、階段を降りるときふらっと体が揺れる。
すかさず透の手が、ためらいもなく腕をつかんだ。
「ほら。言ったじゃん、まだフラついてるって」
近い。
距離も、声も、息も。
雨の耳まで色づくのを見て、透は小さく笑う。
「そんな顔するならさ。…ほら、手」
ひょいっと差し出された手。
「え、い、いらないっ…!」
と拒否しようとするけど、透はそのまま強引に指を絡めてきた。
「じゃ、転んだら困るから。仕方ないよね?」
“仕方ない”のに、繋いだ手を離す気ゼロの握り方。
雨は心臓がまた早くなって、息がうまく整わない。
校門を抜けると風が少し冷たくて、透がもう片方の手を自分のポケットに突っ込みながら言う。
「…雨さ、俺のこと避けようとしてない?」
不意打ち。
雨は慌てて首を振る。
「してない…っ!してないけど…その…っ」
透が覗き込むように顔を近づける。
「けど?」
「……恥ずい…だけ…」
その瞬間、透がふっと笑う。
「じゃあ、もっと恥ずかしくなることしていい?」
夕焼けの下で手を繋ぐ時間は、とろけそうなほど甘かった。




