【第6話_真っ直ぐな思い】
暗いロッカーの中。
さっきよりも空気が重く感じる。
「……っ、は……」
浅い息が、どんどん乱れていく。
「ちょ、待って……本当に苦しそうじゃん」
すぐ近くで焦った声が響く。
「だい、じょ……ぶ……だから……」
そう言った瞬間、身体から力が抜けるように沈む。
「大丈夫って言うやつほど大丈夫じゃないんだよ…!」
腕を強く支えられる。
その手の震えで、どれだけ心配してるかすぐわかる。
「……なんで隠すんだよ。無理しても意味ないって…」
声が低くて、ほんの少しだけ怒ってる。
でも、その奥にあるのは“心配”だけ。
「……寒い……」
ぽつりと落ちた弱い声。
「……っ」
一瞬黙って、それからすぐに腕を回してくる。
「ほら、こっち向いて。狭いけど、少しでも楽になるようにするから」
ぎゅっと抱き寄せるってより、支えるために近くなる距離。
息と息がふれるくらい近い。
「……もっと寄っていいよ。震えてる」
静かな声で、優しく促される。
「……ごめ、んな……」
力のない声。
「謝んな。…心配させたくない気持ちはわかったから」
小さく息を吐く気配。
ほんの少しだけ、ほっとしたような音。
「でも、倒れられるより…頼ってほしい」
その一言は、暗いロッカーでもちゃんと伝わるほど真っ直ぐで。
ロッカーの外から、遠くで誰かの足音がした。
「……っ、誰か来たかも…!」
透が顔を上げる。
腕の中で、雨の呼吸はまだ浅い。
「透ー!?雨ー!?そこにいる!?」
担任の慌てた声が近づいてくる。
透がドアを拳で叩く。
「ここです!ロッカーの中に閉じ込められてます!」
「今、開けるからな!」
金属のぶつかる音、カギをこじ開ける音。
外の空気が流れ込んでくる。
眩しい光に、雨がわずかに目を細めた。
「……よかった、お前ら無事で……って雨、大丈夫か!?」
先生が駆け寄ってくる。
透は少し強い声で言う。
「体調悪いの、隠してたみたいで…呼吸も乱れてます」
「そんな無理したのか……保健室行くぞ!」
肩を貸されながらロッカーから出る瞬間。
ふらついた雨を、透が反射的に支える。
「わっ……」
倒れかけた身体を、透の腕がしっかり受け止める。
「ごめ……っ」
弱い声が、透の胸元に落ちる。
「いいよ。しばらく俺に寄りかかってて」
優しく言われて、雨は少しだけ目を閉じる。
「透……」
名前を呼ぶ声はかすれていたけど、ちゃんと届く。
「うん。ここにいる」
短く、それだけ。
でもその言葉は、不安ごと包み込むように温かかった。
保健室への廊下を、透はゆっくり歩く。
腕の中の雨の体温が弱くて、だからこそ絶対離さないと決めたような表情で。




