【第3話_過去のこと】
夜。寮の部屋は静まり返っていた。
窓の外では雨がまだしとしとと降っている。
透はベッドに座り、教科書を閉じたあと、ちらっと雨を見る。
「……まだ起きてるの?」
雨はフードを深くかぶり、うつむいたまま返す。
「……別に」
言葉は冷たいけど、心は妙にざわついている。
透は静かに近づき、肩越しに声をかける。
「……なにかあった?」
雨の胸が、一瞬ぎゅっとなる。
(……そんなこと聞くなよ)
でも嘘をつく勇気もなく、ただ小さく息を吐く。
「……昔のこと、ちょっとだけ……」
雨の声が震える。
透は黙って座り、雨の視線を待つ。
その優しさに、雨は胸の奥をえぐられるような感覚を覚えた。
「……大切な人を、助けられなかった…」
ぽつり、と雨が告げる。
言葉にならない怒りと悲しみが、少しずつ溢れ出す。
「……だから……強くなって、助けられるように……でも、もうどうでも良くなっちまった…」
透はただ黙って、雨の隣に座る。
手は伸ばさず、でも存在で「大丈夫だよ」と伝えるように。
その静かな安心感に、雨は涙をこらえられず、ほんの少しだけ目を潤ませる。
「……バカ」
小さく、震える声で呟いた。
「……なんで、そんなに……普通に笑ってるんだよ……」
透は微笑み、そっと答える。
「だって、雨くんが困ってるとき、見てられないから」
雨は咄嗟に顔を背ける。
でも、心の奥では確かに、
透が自分の痛みを受け止めてくれることに救われていた。
(……なんで、こんな気持ちになるんだよ……)
窓の外の雨音が、二人だけの世界を静かに包む。
雨はまだ透に甘えることはできない。
けど、透の存在が、少しずつ自分の心の氷を溶かしていることは、間違いなかった。




