【第14話_影】[透目線]
雨の部屋は静かだった。
寝ている雨の呼吸だけが、規則的に聞こえてくる。
体調は落ち着いてきたけど、まだ熱っぽい。
だから透はそばを離れず、ベッドの横で肩にそっと手を置いていた。
その時——。
ガンッ!!
階下で、何か硬いものがぶつかったような音。
「……え?」
この家には、雨と透の二人だけのはずだ。
雨の両親は仕事でいない。
玄関は、雨が鍵を閉めたのを透も確認した。
(今の、何……?)
次の瞬間、また音。
ガサッ、ガタッ……。
足音……のような、重さを感じる気配。
雨が、うなされるみたいに眉を寄せた。
透は反射的に雨の手を握る。
「雨、大丈夫。……大丈夫だよ」
聞こえてないかもしれない。
でも言わずにはいられなかった。
(誰かが、家の中にいる……?)
階段に、微かな軋む音がする。
ひとつ、またひとつ。
“何か”が、2階に上がってきている。
透の心臓が痛いほど脈打つ。
(やば……どうする、俺……)
近づいてくる。
雨の部屋は2階の一番奥。
その前……廊下で足音が止まった。
……すぐ外だ。
ドアの向こうに、気配が“いる”。
透は無意識に、雨の身体を自分の胸に引き寄せた。
“守る”というより、“隠す”形。
そして——
カチャ……ッ
ドアノブが、静かに回された。
(……本当にいる……誰かが……。)
透は息を止める。
雨は熱でふらふらしながらも、透の服を弱く握った。
「……大丈夫。俺がいるから」
透は囁きながら、雨の頭を胸に押しつけた。
少しでも安心させたくて。
いや、多分自分の方が震えてる。
ノブが、ゆっくり下がる。
ドアが……ほんの少し開く——
暗い廊下の隙間から、誰かの影がこちらを覗いた。
その瞬間、透の背筋に冷たいものが走る。
立ち上がりそうになるほどの恐怖と、
それよりもっと強い、雨を守りたい気持ち。
影は、じいっと部屋の中を見つめたまま動かない。
透はその目線を受け止める覚悟で睨み返した。
数秒後——
影は音も無く消えた。
ドアは半開きのまま。
階段の軋む音だけが遠ざかっていく。
透の肩から、一気に力が抜ける。
雨の髪に触れながら、震えた声でつぶやいた。
「……ほんと、頼むから……今日これ以上、怖いこと起こらないで……」
だけど雨が、弱々しく透の服をぎゅっと握り返した。
(……大丈夫。俺が、絶対守るから。)
透はその手を包み込んだ。




