【第10話_看病】
ベッドに横になった雨は、まだ息が少し荒くて、頬がほんのり赤い。
そんな雨を見て、透は眉を寄せながらも、どこか優しい表情を崩さない。
「ちょっと待ってて。すぐ冷やすもの取ってくるから」
あわてて立ち上がるかと思いきや──
透は一度、雨の額にそっと触れた。
「……やっぱ熱い」
指先がひんやりしていて、触れられた部分だけ体温が跳ねる。
透は軽く息を吐いて、部屋を出ていく。
雨はその足音を聞きながら、胸が落ち着かない。
数分後。
「はい、持ってきた」
透は冷えたタオルを手に戻ってきて、椅子なんて使わず、ベッドのすぐ横に膝をつく。
目線が近すぎて、呼吸の音まで聞こえる距離。
タオルをたたみ直しながら、小声で言う。
「……ほんと、無理しすぎ」
その声は怒っているんじゃなくて、心底心配している音。
雨が言い訳しようと口を開いた瞬間──
ひやっ。
透がタオルをそっと額に乗せる。
その手つきが優しすぎて、雨の全身が緩んでいく。
「がんばったね、雨」
言われた瞬間、呼吸が止まりそうになるほど胸が熱くなる。
透は、タオルを押さえたまま雨の髪をふわっと撫でる。
「誰にも頼らないで、ひとりで耐えて…えらいよ」
ゆっくり、丁寧に、子ども扱いじゃなくて“雨自身”を労わるように。
雨は目をそらすけど、透は逃がさない。
「……恥ずかしい?」
「べ、別に……」
「顔見たらすぐわかるよ。赤いし」
そう言いながら、透はタオルがずれないように顔の近くに手を添える。
距離が、やばい。
透の指先が、雨のこめかみをやさしくなぞる。
まるで安心させるように。
「大丈夫。俺がそばにいるから」
耳元で落ちたその声は、低くて、甘くて、完全に反則。
雨の胸は痛いくらいに鼓動して、透はそれさえも読み取ったように薄く笑う。
「ほら、力抜いて。……寝てもいいよ」
その言葉が落ちるたび、雨のまぶたはゆっくり重くなる。
透の指が、髪をやさしく撫で続けて…。
「休んで。俺がずっと見てる」
その最後のひと言で、抵抗する気力すら溶けていった。
雨の息が落ち着いたのを確認すると、透はそっとタオルを直して、もう一度だけ髪を優しく撫でる。
「おやすみ、雨」
透の声が、優しさでとろけていた。




