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第3話 死線

それから、俺達は、二人で手を繋いで登校した。


萌香は有名人だから、もちろん沢山の注目を浴びた。だが、登校時間ギリギリでいつもより通学路に人が少なかったこともあって、こそこそと噂話をされているのは聞こえてきたが、実際に話しかけてきたやつはいなかった。


そして、今から二人で手を繋いで教室に入る。

萌香は、今の俺には魅力があると言ってくれた。俺は萌香を全面的に信じているから、その言葉を疑ったりしない。ありがたく自分の自信にさせてもらう。だが、萌香が説明してくれた俺の魅力は性格面の話だ。それを周りが気づいてくるのは、少し後の話だろう。少なくとも、今すぐ、俺に魅力を感じるわけではない。


だから、当然、大きい反発が生じると予想できる。正直言って、嫉妬した奴が暴走して殴りかかってくることも十分に想定できる。


魔力は、体内で循環している時、循環している魔力総量に応じて、その人の基礎能力を向上させてくれる。正直に言って、今の地球にはどんな道具を使おうと俺を殺せるものなど存在しない。


だから、殴りかかってくるやつを鎮圧することは容易いが、事を荒げると萌香に迷惑がかかる可能性が大いにある。それは、何としても避けたい。


だから、俺は今心臓で魔力を堰き止めている。何か変な行動をしようとした奴がいたら、不慮の事故に遭ってもらおうって寸法だ。


ガラガラと音を立てて入ると、最初の一瞬こそ、誰も扉の方を向こうとしなかったが、誰かの『えっ!』という高い声が響いた次の瞬間、皆んなの注目が集まった。


――はぁ〜???なんで?何があった?

――これは意外だわ。

――羨ましっ!!!

――殺す殺す殺す


クラスの連中は、三者三様の反応を見せるものの、全員の総意としては『何故?』って感じだ。

まぁ、無理もないか。俺も、向こうの立場だったら、混乱せずにはいられないだろう。


すると、すぐに、クラスメイトがぞろぞろと近寄ってきて、俺と萌香を取り囲んだ。


そして、思い思いに質問し始めた。


「二人ってどういう関係?」

「馴れ初めは?」

「おい、恭平。どんな手を使ったんだよ」

「萌香ちゃんは、なんで恭平と?」

「どこを好きになったの?」


「え、えっと……あ、あわあわ」

隣を見ると、萌香があわあわと言いながら、あわあわしてた。


萌香は真面目すぎるところがあり、今も一人一人全員の質問に応えようとして、キャパオーバーになってしまっている。


「おい。一斉に質問するな。答えられないだろ」

俺は、声がかき消されてしまわないように、声の波に少し魔力を込めて言った。

こうすることで、声に少しの威圧効果が加わり、たとえ声が小さくても、クラスの連中を静かにさせることができる。


すると、クラスの連中は、面食らったような顔をして驚きをあらわにした。


それもそのはず。昨日まで、クラスの端っこでラノベ読んでたやつが、なんか急にすげぇ怖い感じになったんだもん。


だが、その恐怖よりも好奇心がまさったらしい一人の女子が前に出てきて、皆んなの気持ちを代弁するかのように質問を始めた。


「……えっと、とりあえず二人の関係性について聞いてもいい?…………」

女子は主に俺の顔色を伺いながら、質問した。


「あぁ。萌香は俺のよmっ!?」

俺が「萌香は俺の嫁だ」と言いきる前に、隣にいた萌香が急に俺の口を塞いだ。


そして、俺の耳元に口を近づけて、他の人に聞こえないくらいの音量で、

「ちょっと!?今はただでさえ、目立ってるんだから、私達が結婚してるなんて言ったら、皆んな余計に混乱しちゃうよ!!!ここは一旦、皆んなには付き合ってるってことにしておこ?…………ね?」

と言った。


「……ん〜、しょうがないか……」

俺的には、萌香に寄ってくる虫を牽制する目的も兼ねて、結婚している事を伝えようかと思ったが、まぁこっちの世界ではまだ籍を入れてないし、何より萌香に迷惑がかかるので、ここは我慢することにした。


「…………あ〜、えっと俺たちは付き合ってる」

「やっぱりか……」

代表して出てきた女子がぼそっと呟いた。


その時だった。ガラガラガラと音を立てながら教室の扉が開いた。

クラスの連中の視線は一瞬扉の方に向かう。


すると、そこにはクラスのギャル4人衆がいた。彼女らは、いつも行動を共にしており正に陽キャといった感じだから、転生する前の俺は近寄り難く思っていたのを覚えている。


「えー。なに?……どしたの〜?」

入ってすぐに、ギャルのうちの1人がクラスに人だかりが出来ていることに気づいた。


「実は…………」

そう言ってクラスの女子がギャル4人についさっきまでの状況を説明していく。


「え〜!?マジ!?流石に意外なんだけど!?」

ギャルは好奇心旺盛な生き物だ。特大のネタを見逃すはずもなく、ずんずんと人混みをかき分けて俺達の方へやってきた。


「マジじゃん!!!嘘かと思ったわ!」

「残念ながら、本当だ」

「……へぇ〜……それにしても意外だなぁ〜。萌香っち、男前なタイプが好きそうだなぁ〜って思ってた!!!」

「男前じゃなくて悪かったな」

「…………ん?恭平っち、少し雰囲気変わったね?」

「……ん?……あぁ、まぁ、確かに変わったかもな」


そうか。やはり俺はこの5年間で相当変わったらしい。少ししか会話していないこのギャルでさえ、その変化に気がつくくらいには。まぁ、そりゃそうか。色んな人を殺したり、逆に殺されかけたりなんて経験をすりゃ、嫌でも人が変わるか。


俺が考えに耽っている間に、ギャル4人が何やらコソコソと内緒話を初めた。人には聞こえないくらいの音量で話しているつもりのようだが、残念ながら、周りに丸聞こえである。


「やっぱり彼女が出来た余裕で変わったっぽくね?」

「いやー。それで、あそこまで変わる?むしろ、あそこまで変わったから萌香っちは惚れたんちゃん?」

「いや、でもだとしたら、何があった?変わりすぎだろ。昨日まで、まともに目も合わせる事すらできなかった奴だぞ………………って、どしたの?えいら。顔真っ赤だよ?」


「……えっ!?べ、別にどうもしないけど!?」

「いやいや!!!動揺しすぎっしょ………………あっ!!!分かった!えいら、恭平っちに惚れたでしょ!!!」

「えっ!?な、なんで?」

「だって、えいら、少し危ない雰囲気のある男好きじゃん!」

「あー確かに。今の恭平、なんか人殺すのもためらわない感じするもんね」

「それなー」

「べ、別にそんなことないし…………」

「なるほどねー。いやー、分からないでもないけどなー。でも、ライバルはあの萌香っかぁ〜。手強いぞぉ〜」

「いやーでも………………」


なんていう会話が聞こえてくる。

転生前の俺が今の状況を聞いたら、「ハーレムだ!やっほーい」なんて言っていたに違いない。だが、今の俺にそんなことを思う余裕など微塵もない!!!

さっきから、隣にいる萌香さんの目にはハイライトが消えてしまっており、後ろに般若がいるのかと錯覚してしまうほどの威圧を放ちながら、ギャル、主にえいらの方を凝視している。


ギャル4人衆は、会話に夢中で気がついていないようだが、既にクラスの連中は萌香の威圧に完全に萎縮しており、手がガタガタと震えてしまっている。


非常にかわいそうなので、萌香に威圧をやめてあげるように言いたい気持ちも、勿論あるのだが、変に萌香を刺激するとその怒りの矛先が自分に向いてしまいかねない。

「なんで他の子を庇うの?」と今の萌香の顔で凄まれたら、流石の俺でも対処のしようがない!よって、ここは沈黙を貫く!まるで空気かのように、ここにいないかのように存在を消す。多分、今の俺は敵軍に隠密で侵入した時よりも存在を消せている。


その時だった。


「おーい!ホームルーム始めるぞ!みんな席につけ〜!」

いつの間にか教室に入ってきていたらしい担任の岡部の声が響いた。


その声がすると、クラスの連中は『さっ!』と各々の席に戻っていった。一刻も早くあの場から離れたかったのだろうということが伝わってくる。


続いてギャル達を自分達の席に戻っていった。彼女らが、萌香の般若に最後まで気づかなかったのは幸いという他ない。もし、少しでも見ていたら本当に倒れていたかもしれない。


「さーて。俺も席に行こーっと」

俺もこの場を離脱するために、さっきの事は何も気にしてないアピールをしながら、席に戻ろうとした時だった。


俺は制服の袖を掴まれた。

その相手は考えるまでもない。萌香だ。

油の切れた機械のようにギギギと振り返る。

振り返るとそこにはやはり般若がいる。


「モテモテだね?」


その一言で吹雪が吹いたのかと錯覚するほど、その場が一気に寒くなった。

『ツー』と一滴の汗が流れて落ちるのを感じる。ここでの解答は、一文字のミスも許されない。俺の本能が俺にそう訴えかけている。


「萌香一筋の俺には、迷惑な話だ」


緊張の静寂が流れる。

この解答でよかったのか?そんな疑念が俺の中でぐるぐると渦巻く。


「…………そうだよね!!!登校する時に約束してくれたもんね!私、一筋だって!」

「あぁ。勿論だ」


俺は心の中で胸を撫で下ろす。

俺は、この5年間で数々の死線をくぐり抜けてきたが、今のは正直そのどれよりも、肝を冷やした。


萌香は怒らせたら怖い!そう思う出来事だった。


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