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からくり人形である俺達は見物客を盛り上げる

作者: Takumi

 からくり人形。それは糸やぜんまい、機械などを使って人間のような動きをする人形。祭りや街中などでパフォーマンスをしてきた。

 

 特に30年、40年以上前には街中では、一定の時間になれば、からくり人形が動き出すからくり時計などが多く見られ、通行人など見物している人達大勢を盛り上げた。


 しかし、同じ時期に一気に作られたため、故障などで撤去されたり放置されたりするなど減少傾向にある。


 

 減少傾向にあるからくり時計が多い中、頑張って見物客を盛り上げようとする人形もいる。


 その人形の名は、ダニーとクレア。


 オリワ市の時計広場に設置されたからくり時計である。


 彼らが設置されたのは30年前。


 当時のテナントオーナーが広場を有効活用させるために何か盛り上げられるような物が必要だと考え、仕掛け時計の製造会社に依頼し、広場にある建物が空きテナントだった事もあり、その空きテナントに人形のスペースや機械室、時計を動かす親時計の設置などを行い、からくり時計は完成した。


 彼らはオルガン調の音楽と共にアクロバットやダンスなどをする仕掛けで、片手で逆立ちや激しめの踊り、滑らかな踊りなど様々な技で見物客を盛り上げてきた。


「あとはこの技だ」


 バク転でフィナーレを迎えたショーで観客からは拍手がものすごく起こり、ステージの扉が閉まる。


 観客からは、


「あのからくり人形、よくできてるねぇ」


「一体どんな仕掛けなんだ?」


「だいぶ昔に作られたのにまだ動けるのが凄い」


など、2人の凄さに驚いてる人が多かった。


「今日のステージも大成功した」


 一日の最終公演を終えたダニーは、ステージの中にとどまっていた。



 その日の夜、ダニーは考え事をしていた。


 その考え事とは、『自分がいつまでこの活動が続けられるか』だった。


『俺はもう30年前に作られた道化師人形で、長い間決まった時間に同じショーをやってきた。時代の流れで故障してもおかしくない時期に差し掛かっている。だけど観客達には長く続いてほしいと思われている。他の人形達みたいに故障で撤去されたり放置されたりしないようにするにはどうすればいいのだろうか?』


 彼は一人このように呟いていた。



 すると、


「どうしたの?一人で抱え込んで」


 クレアが、声をかけてきた。


「俺達がパフォーマンスをいつまで続けられるのか考えていた」


「そうね。今のところ私達は大きな不具合もなく動けてるものね」


「他みたいに壊れて放置だったり撤去されて処分となったり俺達もいつかはするかもしれない」


「もしそうなったら恐らく私達は時代の流れかもしれない」


 2人は今後どう継続していくのかを話し合っていた。



 次の日、故障対策のためウォーミングアップをして、初回公演に望んだ。


 しかし、ダニーは片手で逆立ちのような動きをした途端に下半身が落ちるという不具合が起き、このような不具合は1日中続いた。


『そろそろ限界が来たのか?』


 彼は内心そのように思っていた。


 その後も不具合がありながらもなんとか稼働できる状態が続くものの、遂に下半身が上がらなくなる不具合も起こすようになってしまった。


 更に、クレアにも踊れなくなる不具合が起き、2人の人形が動かないまま音楽が流れる事態になった。


『このままじゃ撤去という道を歩むのか…?』


『このままだと存続危機ね…。修理業者が来てくれるかしら?』


 とうとうからくり時計には、


「からくり時計は故障中です」


の貼り紙が貼られ、楽しみにしていた見物客はがっかりする人もいれば、


「もう時代の流れなんだな…」


と現実を受け入れる人もいた。



 時計機能は動くものの、からくり機能が動かない状態が続いていた。



 ステージの扉の裏に入ったままになったダニーとクレアは、今後自分達はどうなるかを話していた。


「俺達は壊れたままずっと放置されるのかな?」


「どうでしょう?業者が来る事もあれば放置されて撤去を待つ事もあり得そう」


「もう30年は俺達は動いたから経年劣化もありそうだな」


「部品があるかもわからないからね」


「とりあえず修理業者を待つしかないな」


 2人はステージの中で業者を待っていた。



 街の人々は、


「また道化師のパフォーマンスを見たい」


「早く直って欲しい」


「ずっと放置してたら人形がかわいそう」


などの反応が多かった。



 一方、役所では現在の市長をはじめ、役員達が町の課題などを話し合っていた。


 役員の意見の中にはからくり時計をどうするかの話し合いも行われた。


「時計広場のからくり時計が壊れたまま放置されています。あの人形をまた動かすのかそれとも撤去して別の物を取り付けるかをご判断下さい」


「広場の時計は30年前に設置されており経年劣化をしているかもしれません。今現在はどうするかは未定です。先代のテナントオーナーが設置したものですし、時代の流れなのかもしれません」


「修理の業者は見つかりませんでしょうか?」


「現時点では見つかっておりません」


「残したい気持ちはわかります。ただ部品不足になっているので今のところは何もできません」


 からくり時計に関する事は未定で、修理の検討も立っていない。もしかしたら撤去の可能性もあるかもしれない中での会議だった。



 ダニーとクレアは、


『まだ修理の業者が来ないのかな?』


『私達も早く動きたい』


と心の中で呟いていた。



 それから数ヶ月後、ダニーはこう言った。


「クレア。そういえば俺達、一緒にいるのに何かを喋ったことがないよな?」


「確かに、いつも見ている人を楽しませるのに必死だったからね」


「外の世界を見てみたくない?」


「外の世界?」


「俺達パフォーマンスしてる時ステージの周りしか見れてないじゃないか」


「確かにそうね。ステージの周り以外も見てみたいね」


「パフォーマンスで忙しいからステージから出られないんだよな」


「私達は見てる人を楽しませるためにいるからね」


「なんだか俺達、気が合っているな」


「そ…、そうかな…?」


 クレアは少し顔を赤らめて答えた。


 その後もしばらくお互いの事を喋る事が多くなった。


 お互いにパフォーマンスをする機械が壊れていてもこの時間がお互いの事を喋り合うタイミングとなった。



 ある日、このような情報が届いた。 


それは、『からくり時計の修理工事について』だった。


「どうやらようやく修理されるみたいだ」


「私達が治ってからもまた喋り合いたい。今度はここで」


「修理後の最終公演が終わってからがいいな」


「その時に言うけど実は、言わなければならない事があるの」


「何が言いたいんだ?」


「それは…、今は言えないわ。修理されて復活してから言うわ」


「ちょっと気になるけど…、修理されたら聞くよ」


「ええ」


 2人の修理が決まり、いつかは復活する事が決まったダニーとクレア。


 クレアは何か言いたそうな状況の中、修理が決まったのであった。



 修理の期間当日、2人はステージの中にいた。


 修理期間は約1ヶ月。機械室の入口から修理業者とからくり時計のテナントのオーナーが入り、いよいよ2人の修理が始まった。


「この間の説明通りで、アクロバットをする機能や、人形の下半身を動かす機能、もう1体の人形の踊るための機械などでよろしいでしょうか?」


「はい。間違いありません」


「かしこまりました」


 からくり時計のテナントのオーナーが見守る中、工事の音が鳴り響きながら修理が行われた。



 1ヶ月後、修理の業者はこのように判断した。


「経年劣化ですね。製造から30年以上が経過しているので、今はなんとか部品を確保できるというところです」


「そうですか。現時点ではまだ動かせられるという事ですか?」


「そのようです」


 業者とオーナーはこのような会話を交わし、現時点ではからくり時計の再稼働は可能だという事がわかった。



 そして修理が終わり、ダニーとクレアは、再稼働を果たした。


「クレア、前言ってた言いたい事はなんだ?」


「ようやく言う時が来たのね。実は…。私は…。あなたが好き。長い事一緒にいて一緒にパフォーマンスしていつでもあなたと一緒であなたを好きになりました」


「俺があのような事を言ったからか?実は俺も…。同じ思いだ。だから…。つい言ってしまった」


「やっぱり私達は気が合うのね」


「おい…。だが俺達の使命は、からくり人形として見物客を盛り上げる事だ」


「ええ。決まった時間になれば見ている人達を2人で盛り上げましょう。あと、最終公演が終わって人が少なくなった時間帯に外の世界も見に行きましょう」


「確か俺達は人間と見間違えられるくらいリアルな等身大人形らしいから…、最終公演終わりにいつかは見に行こう」


 再稼働を果たした2人は、お互いの事を言い合い、これからも稼働していく仲だった。


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