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彼の娘  作者: 大島 有
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エピローグ

あいつを見ていると、あの頃の気持ちが、綺麗なガラスのかけらのようにきらきらと光って、まだ今もずっと継続して胸の中に残っているということを思う。

ふとした仕草や表情や、そんなものを見て、昔のあの時感じた思いがよみがえる。

だけどあの頃とは、確実に何かが変わってきている。

確かに長い時間が過ぎた。

お互いが知ることのない時間の波。別々の時間の中でずっと生きてきた。

俺たちは、あの頃の、若くて未熟で、それでもその先にいろんな希望や夢があって、前途が洋々と広がっている、そんな不確かでも輝きに満ちた存在では、もうない。人生の半ばを過ぎて、先も現実も充分見えてきているちょっとくたびれはじめたおじさんたちだ。

だけど、年を取るというのは悪いことばかりでもないと思う。

あの頃とは又見方も違って、お互いをしっかり見ている部分もあり、そしてお互いを許しあえる余裕もある。


いつか恋ではなくなるだろう。この気持ちは恋ではなくなるだろう。

そう、あのきらきらしたガラスのかけらはいつか消えてなくなるかもしれない。

だけど、お互いを愛おしいと思う気持ちは変わらないだろうし、2人の関係は絵梨香の言う〝家族〟という形に変わっていくのかもしれないけど、それはそれで充分確かな関係で、それに2人とも満足していけると思う。

お互いがオンリーワンなのだから。



一緒に暮らし始めて数日経った頃。

テレビを見ていた俺の髪の生え際に白髪があるのをあいつが見つけて、〝あんたも年を取るんだね〟って、バカにしたように言い放ち、それでも嬉しそうに満えんの笑みを浮かべて、こう続けた。

〝あの雪の中、テントの中で僕が言った事を覚えているか。〟って。

雪山でテントを張って、酒を飲んだ。酔った彼が、高校生の時、付き合っていた彼女が事故で死んだことを話し始めた。苦しい数年間の思いを吐き出した後に、こう言った。


「自分の思いがそのままそこで止まったままでいるのはもう嫌だ。どんなに醜く、目を反らしたくなる思い出が増えていったとしても、一緒に生きたい。その人の声を聞いて、その人の身体に触れていたいよ。」

〝ああ、覚えている。〟そう答えると、

〝あの時、すごくすごく思ったんだ。こうやって、あんたの顔に皺が増えていく様や、こうやって、髪に白髪が混じって年老いていくのを、ずっと見ていたいんだってね。〟

そう言うと、何もなかったようにあいつは、リモコンを手に取り、テレビのチャンネルを変え始めた。


恋は形を変える。それはどんな形にだろう。

それを人は、〝家族愛〟とか、〝人間愛〟って呼ぶけど、どんな形かはそのつがいそれぞれだ。

だけどどんな形に姿を変えていったって、思いは変わらない。

そして出来るだけ同じ時間を過ごせればいい。

そう、それだけだ。俺が望むのは。

俺がずっと欲しいと願ってきたものは。


このお話で最後です。

長い間お付き合いくださいまして、ありがとうございます。


幸せはホント身近に、

そしてあまりにも気づかないほど小さいものかもしれませんが、

どんな時でも、どんな人の周りにも、きっと存在するものだと思います。

それを気づくことができる幸せに感謝します。


いろんな家族の形があり、いろんな愛の形があり、いろんな人生がある。

みな迷いながら、そして自分という不確かな存在を見つめながら、生きている。

そんな人たちを心から愛おしく思います。


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