17話 同じ時間を
振り向くと、
「裕樹。」
裕樹だった。ジーンズにフリースの上着というラフないでたちの彼が、にっこり笑って立っていた。
何で、裕樹がここにいるのだ?
「あ、裕樹。」
隆博が裕樹に気づいて笑顔を向けた。
道、混んでた?車なの?どこに停めたんだ?などと、2人がしゃべっているのを聞いて、
「え、隆博は裕樹が来るの知っていたの?」
「ああ、そうだよ。何で?悟、知らないの。」
隆博が不思議そうな顔をするのを見て、裕樹が、
「先輩、絵梨香ちゃんから手紙来てないですか?」
と聞くので、
「いや、来たよ。」
と答えると、
「それに俺も空港へ迎えに来ること書いてなかったかな?絵梨香ちゃん、パパには手紙で知らせとくね、って言ってたんだけど。」
手紙?そういえば、確か下の方に、〝追伸・・・〟ってあったなあ。
ああ、思い出した。
〝裕樹さんも迎えに来てくれるので、よろしくね。皆でご飯でも食べようね。〟って書いてあった。
「ああ、書いてあった。書いてあった。」
(ってゆうことは、それって、まさか?)
「お前たち、ひょっとして、まさか。」
ああ、考えたくない、考えたくないことなんだけど、絵梨香と裕樹はずっとやりとりをしていたんだ。今日も迎えに来ているっていうことは、認めたくないけど・・・2人は付き合っているっていうことか?
「いい加減、諦めたら。」
隆博がいたずらっ子のように、好奇心に満ちた目で俺を見て、肩を叩いた。
「諦めるって・・・」
俺、今どんな顔してるんだろう。諦めとか絶望とか、嫉妬とか落胆とか、もうとにかく言葉では表しきれない複雑な、とても複雑な心境だ。
その俺を見て、裕樹がすまなそうに頭を下げるので、
「じゃあ、やっぱり!」
ああ、こんな事が自分の人生で起きるなんて。
裕樹は来年から店の海外出店のため、アメリカへちょくちょく出かけることを告げ、その時、絵梨香に会ってもいいかと聞いてきた。
「あ、うん、そう・・・」
何と返事していいかわからず、曖昧に頷くと、
「悟、裕樹は真剣だよ。僕が保障する。いい男だからさ。」
そう、言われても、
「ほら、裕樹。〝お父さん、お願いします〟って言えよ。」
笑いながら隆博は裕樹の背中を押す。
「先輩、いや、お、お父さん・・・」
「嫌だ!絶対嫌だ。何でお前みたいに年のさほど変わらんやつに、父親呼ばわりされないかんのだ。俺は絶対嫌だからな!」
走ってその場から離れようとすると、
「悟、絵梨香ちゃんの便もう着くよ。」
隆博が嬉しそうに、それは嬉しそうに、俺の腕を掴んで顔を覗きこんだ。
絵梨香の乗った便が到着するアナウンスが、場内にこだました。空港の混雑する人混みと、今聞いた話で頭がくらくらした。倒れそうになりながら、隆博の肩を掴むと、彼の肩越しに、どこまでも青く澄んだ空がデッキの柵の向こうに広がっていた。