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彼の娘  作者: 大島 有
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15話 夜も更けて

まあ、俺の事はどうでもいいけど、と裕樹は、俺や隆博の事に話を振ってきた。

それで今までの仕事の事や、家庭の事や、向こうでの生活の事などあれこれと話しをした。

絵梨香は何だか裕樹に興味を持ったみたいだ。何かと口を挟んで裕樹の事を聞きたがった。

「で、絵梨香ちゃんは、向こうの大学を出たらジャズシンガーになりたいんだって?」

裕樹が問いかけると、

「そうなの。まだ、具体的には何も考えていないんだけど。とにかく音楽の事、いっぱい勉強したいわ。歌もピアノもいっぱい練習して。」

「そう、いいなあ。若いって。」

おじさんっぽいよ、その言い方。

隆博がつっこむと、だって俺んらは人生の半分を過ぎたようなもんだぞ。

と裕樹が返す。

「まだ、これからだろ。裕樹は。結婚もしないと。」

俺が口を挟むと、

「ええ、ご結婚されていないんですかあ。」

絵梨香がすっとんきょうな声をあげる。

あんまり声が大きかったんで、絵梨香の後頭部を軽く叩いた。


(痛いじゃない。)

(びっくりしすぎだよ。バカ。)

それを見て、隆博がくすくすやっている。

裕樹はばつの悪そうな顔をして、

「する気はあるんだけどね。」

裕樹ははたからみても、いい男だ。

太くしっかりした男らしい眉に、切れ長の目。がっしりした顎が包容力を感じさせる。

性格も、真面目で律儀、責任感が強くしっかりしていて、隆博はいつも裕樹にいろんな相談をしていたみたいだったから人からの信用も厚いいいやつなんだが。

何故縁がなかったんだろうな。不思議だ。

話を変えるように裕樹が、

「明日、Y市のイベントで、製菓の展覧会があるんだ。」

と言った。


Y市はこの温泉街から車で30分程走った所にある、近県の中では一番の商業都市で観光地だ。市内には城跡や武家屋敷跡があり、老舗の漆塗りや金箔を扱った工芸品が有名で、海外からの観光客も多い。そのせいもあってか和を重視したイベントが多い。明日のイベントもその種類のもので、その一環で近県の製菓業者が店のPRも兼ねて製品の展覧会をやるらしい。

その展覧会の準備もあって、何日かこちらに裕樹は滞在していたらしい。

「へえ、どんな感じなのかしら?」

絵梨香が聞くと、

「絵梨香ちゃんは観賞用の和菓子って見たことある?」

と彼が聞いた。

「観賞用の和菓子?」

「お菓子でね、花とか木とか鳥などの動物なんかを作って、観賞用として楽しむんだよ。」

「すごいですね。みんなお菓子で?」

「そうだよ。」

「じゃあ、全部食べれるんですよね。」

「そうだね。」

食べたらもったいないよ。あれ作るのにとても手間とか時間がかかるんだよ。

そう隆博が言うと、

「食べてもいいんだよ。別に。今度機会があったら絵梨香ちゃんに作ってあげるよ。」

裕樹が続ける。

「裕樹さんが作ったのも出ているんですか。」

まあ、そう彼が言うと、

ああ、見に行きたい。と絵梨香が俺の首に腕を巻きつけた。

「わかった。いいよ。明日はY市の観光をして帰ろう。」


それからかなり遅い時間まで飲んでいた。

久しぶりに親友に会った隆博の嬉しそうな顔を見てほっとした。

夜も更けてくると、さすがに眠くなったのか、絵梨香は俺たちの間に挟まれて、座布団を枕にうとうとし始めた。

それをいかにも可愛いなあという感じで、見つめていたあいつの顔に、親の表情を見て何となく複雑な気分にもなったが、それでも楽しそうに酒を飲んで、上機嫌で話すあいつの様子をやっぱりほっとした気持ちで見ている自分にも安堵感を覚える。


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